責任の取り方
翌日。
周瑜が率いていた船団は北上し、夏口へと向かっていた。
おかしな事に、船同士が綱で繋がれていた。
その船団の中央にある楼船には、大将旗である牙旗と周の字の旗が掲げられていた。
暫くすると、蔡瑁が放った偵察がその船団を発見した。
その報告を聞いた蔡瑁は嘲笑した
「はははは、自暴自棄になった様だな。本当はわたしが来る前に夏口を攻略して揚州に逃げるつもりだったのだろうが、残念であったな」
蔡瑁は直ぐに周瑜率いる船団を追い駆けて、攻撃する様に命じた。
その命に従い、船団は進んでいった。
その頃、夏口に駐屯している文聘は船団と対峙していた。
船団は周の字が書かれた旗を掲げていたので、直ぐに敵と分かったので、岸に弓隊を作り何時でも攻撃できるようにしていた。
だが、その船団は鉦や銅鑼の音は聞こえるものの、攻撃する気配を見せなかった。
「何がしたいのだ。敵は?」
文聘は相手の考えが分からないので、矢を放ち様子をも見るかそれとも船を用意して乗り込むべきか考えていた。
どうするべきか考えていると、船団の後方に蔡瑁率いる水軍が来るのが見えた。
「蔡瑁が来たか。蔡瑁の攻撃に押され、敵は岸に近づくかもしれん。火矢の準備を」
文聘は直ぐに矢で攻撃できる様に準備をさせた。
その間にも、蔡瑁の水軍は周瑜の船団を攻撃していた。
矢の雨あられが、船団に降り注いだが、周瑜率いる船団は反撃する為の矢が尽きたのか一本も放たなかった。
「はははは、此処まで来ると哀れだなっ。このような敵を討つのに、矢すら勿体ない。乗り込んで討ち取れ‼」
蔡瑁は嗤いながら、白兵戦を仕掛ける様に命じた。
先登と赤馬を中心とした部隊が、船団に近づき乗り込んでいった。
乗り込んだ船には、兵が居たが全員怪我を負っていた。
「おおおっっっ」
兵達は叫びながら、蔡瑁軍の兵達に襲い掛かった。
手負いの獣のような咆哮をあげながら襲い掛かるのを見て、蔡瑁軍の兵達は恐怖していた。
最早、勝ち戦という事で生きて恩賞を貰いたいという思いがあるからか、死ぬ事に怖気づきていた。
数の多さを活かして乗り込んで多数で囲んで嬲り殺しにしたものの、多くの兵が倒れてしまった。
やがて、船団の全ての船が制圧した。
「残るは楼船だけだな」
「ああ、綱で繋がれているお陰で、船同士があまり揺れなくて助かるぜ」
兵達は渡し板を歩きながら、楼船へと向かって言った。
周瑜が居る楼船に辿り着くと、其処でも白兵戦が行われていた。
楼船は指揮を取れるように、船に建物が載っている様に高く作られていた。
一階を制圧すると、階段を上り次の階を制圧していった。
やがて、兵達は最上階の階に入る扉の前まで来た。
この階に来るまで、多くの兵が襲ってきたため、蔡瑁軍の兵達も多くが倒れた。
「此処が最上階か」
「この階に居る周瑜を討てば、恩賞は思いのままだ」
兵達は恩賞を貰いたいと思い、扉を押したが開けられなかったので、体当たりをした。
何度も、何度も体当たりした事で、扉がきしみへこみ出した。
そして、再び体当たりすると扉が壊れた。
「開いたぞっ」
「突っ込めっ」
兵達は扉を壊して、最上階に足を踏み入れた。
その階に足を踏み込むなり、足が滑り転がしだした。
「痛てっ、なんだ?」
「何か、ヌルヌルするな」
階に踏み込んだ兵達は、足元が滑るのを見て床を見た。
すると、床に何か巻かれている事に気付いた。
「・・・・・・すんすん、これは油だっ」
兵がヌルヌルする物に鼻を近づけて、匂いを嗅ぐと直ぐに何か分かった。
兵達が動揺していると、指揮を執る為の台に周瑜の姿があった。
その手は矢を番えており、矢の先端には火が付けられていた。
周瑜は無言で、火矢を兵達の傍に放った。
放たれた矢はぐんぐんと真っすぐに進み、兵達の傍に突き立った。
その瞬間、油に火が付き直ぐに兵達に燃え広がった。
「あちいい、あちいいい」
「だれか、たすけてくれええっ」
火だるまになった兵達は、暴れながらのたうち回った。
その火はやがて船の至る所に、燃え広がった。
周瑜が居る所にも、火が回っていた。
「・・・・・・敗北した責任は取らねばならぬ。魯粛。後は頼んだぞ」
周瑜は火の中で、天を見上げながら呟いていた。
火は瞬く間に楼船を燃やし、火が楼船に繋がれている綱を伝って他の船に移って行き、船団は文字通り火の海に包まれた。




