何と言えばいいのか
飛鳳から投下されていく焙烙玉は爆炎を発生させていた。
爆炎はやがて天を焼き焦がす炎となり、赤壁の陣地を焼いていく。
当然、船上にいる周瑜軍もその光景を見る事が出来た。
「赤壁の陣地に火がっ」
「何で、陣地が燃えているんだ!」
「知るか。敵が山を越えて陣地に火を放ったんじゃねえのかっ」
自軍の陣地が燃えているのを見て、兵達は動揺していた。
「陣地が燃えているとは・・・・・がはっ⁉」
衝撃を受けていた周瑜は、また吐血しだした。
「ああっ、将軍っ」
「早く薬師をっ」
兵達は周瑜の傍に駆け寄り、声を掛けて意識があるかどうか調べた。
「ごほ、ごほ・・・・・・わ、わがぐんのじょうきょうは・・・・・・?」
「・・・・・・劣勢です。戦っている船の中には、矢が尽きたので乗り込んで制圧しようにも大量の矢の雨あられにより近づく事も出来ないと伝令が来ております」
「・・・・・・転進だ」
「転進ですか。どちらにですか?」
赤壁の陣地は燃えている以上、何処に転進するか分からず兵は周瑜に尋ねた。
「・・・・・・この戦場から離脱する。全軍に通達しろ」
「は、はっ」
周瑜は口に付いている血を拭わず命じると、兵は一礼した後、命令を伝える為離れて行った。
「・・・・・・このまま戦った所で、敗北は必至。ならば、揚州へ退くしかない」
そう呟いた周瑜は心底悔しそうな顔をしつつ、天を見て涙した。
「済まない。孫策、君の妻を助ける事が出来なかった・・・・・・妻よ。許せ」
周瑜は心底悔しそうな顔をしつつ、涙していた。
程なく周瑜軍が攻撃を止め方向を変えて、夏口の方へと進み始めた。
それを見た蔡瑁は敵は撤退を始めたと分かった。
「追撃せよ‼ 二度と、この地に攻め込ませない様に徹底的に攻めよ!」
蔡瑁の命は全軍に伝わり、赤馬を中心とした追撃部隊が逃げる周瑜軍の船を襲い始める。
小舟という事で、他のどの船よりも早く進む事が出来る赤馬は、直ぐに周瑜軍の船に追いつた。
鍵縄を投げて船縁に引っ掻けて登り、白兵戦を展開していく。
一隻の船に数隻の赤馬が群がり襲っていた。
その襲撃を防いでいると、後続の先登が追いつき船に乗り込み白兵戦を行っていた。
先登の方が赤馬よりも多く人を乗せる事が出来るので、乗り込んでくる兵も多かった。
乗り込んだ兵達は周瑜軍の兵達を倒していく。
蔡瑁率いる水軍が周瑜軍を追撃している頃。
曹昂は自軍の陣地から、燃えている赤壁の陣地を見ていた。
「おお、派手に燃えているな。これは上手くいったな」
「はい。周瑜軍は撤退している様ですから、この戦我が軍の勝利ですな」
燃えている様子を見て、曹昂と劉巴は作戦の成功を喜んでいた。
「ふむ。あれは防ぐのは難しいですな」
「周瑜が居ない陣地では、飛鳳の攻撃を防ぐなど無理であろうな」
「確かにそうですな」
近くに居た諸葛亮は飛鳳の攻撃を見て、感歎していた。
司馬懿と法正の二人は、作戦が上手く行った事を喜んでいた。
「ふむ。この場合、どういうのが正しいのだろうか。たまや~いや違うか」
「殿?」
曹昂がブツブツと呟きだしたので、劉巴達は何事かと思い始めた。
「・・・・・・おお、見よ。赤壁が赤く燃えているっっっ‼‼‼」
曹昂はこの状況なら、こういうのがピッタリだろうと思い叫んだ。
「「「・・・・・・はぁ、そうですね」」」
だが、それを聞いた劉巴達は返事をした後、小声で話し出した。
(何故、殿は見ている光景を述べているのでしょうか?)
(貴殿はまだ殿に仕えて日が浅いから知らぬだろうが、殿は時々訳が分からん事を言う奇行があるのだ)
(これさえなければ、良い主君なのだがな)
(玉に瑕という言葉がある。人である以上、完璧という事などないのであろう)
劉巴達は小声で話しているので、曹昂の耳には届いていなかった。
同じ頃。
曹昂と同じ陣地にいる曹操も周瑜軍の船が転進しだしたという報告を受けていた。
「良しっ。蔡瑁はどうしている?」
「転進するのを見るなり、直ぐに追撃を始めました」
「ふふふ、流石に敵が転進するのを見れば、追撃はするか」
あいつも少しは機敏に動けるのだなと思いつつ、曹操は苦笑いしていた。
追撃は蔡瑁に任せた後、曹操は傍にいる田豊を見る。
「聞いたか、田豊よ。周瑜が転進した以上、我が軍の勝利だな」
「はい。その通りですな」
曹操が喜んでいるのを見て、田豊も満足そうに頷いていた。
其処に兵が来た。
「申し上げます。陣地を巡回していた船から連絡です。敵将らしき者を見つけ捕縛したとの事です」
「敵将らしき者?」
「はっ。見事な鎧を着ているので恐らくそうだろうとの事です」
「・・・・・・ふむ。とりあえず会うとしよう。此処に連れてこい」
曹操はどんな人物を捕まえたのか気になり、此処に連れてくるように命じると、兵が返事に躊躇していた。
「どうした?」
「あ、いえ、その・・・・・・その船の将から聞いたのですが。その者は厠に放り込んだそうです。少々匂うかもしれませんが、どうされますか?」
「・・・・・・何故、厠に放り込んだのだ?」
兵の報告を聞くなり田豊が尋ねて来た。
「それが、空いている所がそれしか無かったそうです」
「・・・・・・とりあえず、連れてこい」
厠に放り込んだ理由を聞いた曹操は、仕方がないと思い連れてくるように命じた。




