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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第十九章

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矢狩り

 五日後。


 要塞の船着き場には、二十艘の船が用意されていた。

 それらの船には、布と藁で覆われ、船縁には幾つもの藁人形が立てかけられて、漕ぎ手として兵が数十人乗り込んでいた。

 加えて、船と船の間には、綱で結ばれて繋ぎあっていた。

 綱で繋がれた船団の傍には、曹昂と諸葛亮が居た。

「先生。いよいよですな」

「はい。では、殿、参りましょう」

 諸葛亮は笑みを浮かべながら、曹昂と共に船の中に入っていく。

 曹昂達が乗る船を先頭にし、船団は南進していった。

 

 進み続ける船団。

 途中で、靄が立ち込みだした。

 先頭にある船首の灯火だけが、靄の中で唯一の光源であった。

 船同士は綱で繋がれているがとはいえ、深い靄の中では、その灯りだけが道標であった。

 その船の中にある部屋で、曹昂と諸葛亮は酒を酌み交わしていた。

 時折、強い波が船を打つ事で揺れてしまい、盃を傾いてしまいそうになっていたが、それ以外は特に問題は無かった。

「先生。この計略は上手くいくでしょうか?」

「そうですな。この夜靄が晴れた時に分かるでしょうな」

 諸葛亮は心配なさそうな顔で述べた後、盃を舐めていた。

 曹昂の方も、この計略でどれだけ矢が得る事が出来るのか楽しみであった。

 二人はその後、酒を飲むだけであった。

 

 同じ頃。赤壁の陣地。

 河に深い靄が立ち込み、河を見えなくしていた。

 陣地にある篝火ですら、朧げにしか見えなかった。

 兵から報告を聞いた周瑜は、直ぐに命じた。

「如何に敵の水軍が弱いとはいえ、相手は曹操。油断ならぬ男だ。奴のことだから、夜靄が立ち込めているのを好機とばかりに、奇襲しかけてくるかもしれん。警戒を厳とせよ」

 周瑜は厳令を下した後、甲冑を纏ったまま座席に座り横にならなかった。

 そのまま、眠りに着く事なく兵からの報告を待っていた。

 何事も無く、時が経っていくので、眠気でウトウトし始めていた。

 このまま、何事もないまま夜が明けるかと思われたが、喊声が聞こえて来た。

「失礼しますっ。呂将軍、潘将軍の両名から報告ですっ。靄の中から船団が見えました。靄が掛っているので、よく確認できませんでしたが、旗は曹の字が書かれているとのことっ」

「やはり来たか。慌てるな。弓隊を用意せよ」

「はっ」

 報告を聞いた周瑜は、頭に残っていた眠気は直ぐに消した。

 そして、直ぐに弓隊を用意する様に命じつつ、天幕を出て陣地の櫓へと向かった。

 櫓に登ると、靄の中から船団が見えた。

 横一列にならんだ船団は、奇襲を察知されたと分かって自棄になったのか、鉦を鳴らしだした。

「挑発か。舐めた事をしおるわっ」

「周将軍。弓隊の準備完了しましたっ」

「良し。隊を三つに分けて、一つの隊が放った後、二の隊が放ち、その後に三の隊が放つのだっ」

「はっ。ちなみに、火矢の準備は致しますか?」

 兵は船で攻め込んできたので、追い払うのであれば火矢を打ち込めば燃えて逃げるだろうと思い言ったが、それを聞いた周瑜は嚇怒した。

「愚か者! 風向きは西北なのだぞ。船に火が付いて、この陣地に突撃してきたら、この陣地は火に包まれるぞっ」

「し、失礼いたしましたっ。命を伝えにいきますっ」

 怒鳴られた兵は謝った後、櫓を急いで下りて行った。

 少しすると、矢が一斉に放たれた。


 放たれた矢は弧を描きながら、船団を襲った。

 船を漕いでいた漕ぎ手は、矢が当たらない所に身を隠し防いでいた。

 船内にいる曹昂達は、矢が当たる音が聞こえていた。

 そんな中で、諸葛亮は盃を舐めていたが、曹昂は流石に船体を貫かないだろうと思いつつも、酒を飲むほど肝は太くないので、ソワソワしていた。

 船体は藁と布に包まれている為、矢は貫く事は出来なかった。

 放たれる矢が、船の側面に大量に刺さる事で、傾き始めた。

「そろそろ、反転させませんといけませんな」

 諸葛亮は平静な声で、漕ぎ手の兵達に反転する様に命じた。

 その命は、漕ぎ手に伝えられると、松明を振った。

 すると、船は反転を始めた。

 やがて、反転を終えると矢が突き刺さっていない側面が、周瑜軍の陣地にさらされた。

 程なく、鉦が叩かれると各船団が陣地に向けて矢を放った。

 狙いなどつけていないので、矢は陣地に届くか、届かない所で落ちて行った。

 届いた矢も陣地の柵に刺さるだけで、兵に被害をもたらす事はなかった。

「まだ、抵抗するかっ。構わん、放て!」

 悪あがきをすると思いつつ、周瑜は弓隊に矢を放つように命じた。

 矢は番えられ、一斉に放たれた、船体に突き立っていった。

 大量に放たれた矢が突き立った事で、傾いていた船体が均衡がとれて平行を保ちだした。

「ふむ。これだけあれば十分ですな。殿、どうされますか?」

「・・・・・・そうだな。そろそろ帰るとしよう。その前に」

 曹昂は傍に置いている竹筒を手に取った。

 竹筒には『偉大なる将軍 周瑜公瑾殿へ』と彫られていた。

「それは?」

「周瑜にお礼の文を送ろうかと」

「ははは、殿は面白きことをしますな」

 諸葛亮の笑い声を聞きながら、曹昂は兵に竹筒を向こうの陣地に届く様に流せと命じた。

 それが終わると、曹昂達は帰還していった。


 曹昂率いる船団が帰還し始めた時には、夜が明けて靄も晴れだした。

 靄が完全に晴れた頃には、船団は影も形も無かった。

 周瑜は敵を撃退できたなと思い、警戒を解く様に命じた。

 一瞬追撃を命じようかと思ったが、撃退した船団は囮で、追撃した船を叩くかもしれないと考えて止めた。

 そして、自分の天幕に戻り甲冑を脱ぎ、少し眠ろうと横になった。

 目を瞑り、そのまま眠ろうとしていた所に、兵が入って来た。

「失礼します。先ほど、河から竹筒が流れてきました」

「なに? 竹筒。それがどうした」

「それが、周将軍宛てなのです」

 兵がそう言って、手に持つ竹筒を見せた。

 竹筒には『偉大なる将軍 周瑜公瑾殿へ』と彫られていた。

 自分宛と分かった周瑜は、兵から竹筒を受け取った。

 筒の上の部分が蓋になっていたので、それを外すと、中から小さい竹筒が入って来た。

 水に濡れないようにした為か、厳重にされていた。

 そして、小さい竹筒を出して蓋を開けると、中からまた小さい竹筒が入っていた。

「ぬうっ、誰が送ったか知らぬが、此処まで厳重にせんでもよいだろうにっ」

 愚痴を零した後、苛々する周瑜は竹筒を出して蓋を開けた。

 すると、その竹筒の中から文が出て来た。

 文を広げて、目で中を読んでいく。


『偉大なる周将軍。貴殿の御好意に感謝する。贈られた矢は、此度の戦で十分に活用いたす。曹昂。諸葛亮』

 

「・・・・・・計られたっっっ⁉」

 文を読み終えた周瑜は、天幕に怒声を響かせた。

 追撃を命じようにも、今から追撃しても間に合わないと分かった。

 敵の計略に嵌り、まんまと矢を大量に渡してしまった事に、怒りで頭から湯気が立っていた。

「おのれっ・・・・・・」

 激怒していた周瑜は唇を噛んだ事で、血が流れて来た。

「将軍っ⁉」

「大事ないっ。それよりも、将軍達を集めよ」

「は、はっ」

 兵は一礼し、天幕を出て行った。


 

 周瑜がかんかんになっている時、曹昂は陣地に帰還していた。

 そして、船体に刺さっている矢を回収していく。

 全て回収したが、全ての矢が使える状態では無かった。

 使える矢を数えると、四万本ほどであった。

 それを聞いた曹操は『兵達には、十万の矢を手に入れたと伝えるのだ」と命じた。

 兵達は十万の矢を手に入れたと聞いて、声をあげて喜んでいた。

 後に、草の船を使い、()を借りた事から『草船借箭の計』と言われるのであった。

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― 新着の感想 ―
今更だけど、史実で曹操が火矢を放たなかったのはなぜだろう。 火矢の飛距離が短いからだろうか・・・
歴史の流れが変わっても周瑜はこーめーに血を吐かされてピぬ運命からは逃れられぬw
矢が使えなくても、矢じりや羽の再利用できるものがあるんじゃないかな?
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