対応はさまざま
揚州豫章郡柴桑県。
城内にある一室に、孫権が居た。
病気療養という名目で部屋に軟禁されているが、部屋を出る事は禁じられているが、それ以外は特に規制されていなかった。
軟禁されて、直ぐに母である呉夫人が部屋に訪ねて来た。
お互いの無事を確認した後、呉夫人が周瑜がどうしてこのような事をしたのか話した。
話を聞いた孫権は、あり得ないと言い切れず黙ってしまった。
曹操の事だから、反乱が起きればこれ幸いとばかりに処罰するかもしれなかったからだ。
話を聞き終えた後、孫権はある人物を呼んだ。
少しすると、部屋にある人物が訪ねて来た。
「殿、お身体は大事ないですか?」
そう訊ねるのは黄蓋であった。
「ああ、大事ない」
自分の身体を心配してくれる黄蓋に礼を述べた孫権は笑みを浮かべた。
その笑みを見た黄蓋は、少し前まで見た笑みに比べても暗く、ぎこちなかった。
(無理もない。兄の様に慕い信頼している家臣に裏切られ、実権を奪われたのだ。衝撃を受けるのも仕方がない)
その心中を察した黄蓋は唇を嚙むしかできなかった。
「・・・・・・それで、殿。お呼びとの事で参りましたが。何用で?」
「うむ。周瑜が戦の支度をしている事は知っているか?」
「ええ、勿論」
孫権の問いに答えつつ、黄蓋は不快な顔をしていた。
「正直な話、周瑜と曹操の戦の勝敗はどちらでも良い。だが、如何にして負けたか勝ったかを知りたいのだ」
「それはつまり、周瑜に協力し勝つか負けるか観ろという事ですか?」
「そうだ。魯粛か程普に任せたいと思ったが、魯粛は屋敷に籠り出てくる様子は無い。程普は海昬に籠っているので、柴桑におらん。二人に任せる事が出来ん」
「・・・・・・つまり、二人の代わりにわたしがしろと?」
「そうだ。お主しか頼めん。出来るか?」
黄蓋は目を瞑り暫し黙り込んだ後、目を開けた。
「承知しました。この黄蓋が殿の代わりに、戦の勝敗を見てまいりますっ」
「そうか。では、頼むぞ」
「はっ」
孫権の命に、黄蓋は力強く答えた。
そして、直ぐに周瑜の元に赴き考えを改め、協力する事を告げた。
それを聞いた周瑜は快く協力を受け入れた。
早速とばかりに、程普の説得を任せるのであった。
同じ頃。
丹陽郡宛陵県。
その県は、劉備達が拠点にしている土地であった。
劉備が軍備を整えていると、周瑜からの使者が来た。
使者が持つ文には、共に手を携えて曹操と戦おうと書かれていた。
「同盟を結びたいか。周瑜も我らに手を結びたいとは、そうとう焦っている様だな」
文を読み終えた劉備は不敵に笑った。
「殿、周瑜と同盟を結びますか?」
馬順の問いに、劉備は頷いた。
「それしか手が無いからな。直ぐに返事を」
「お待ちをっ。周瑜との同盟は御止めになるべきです」
劉備が話している中で、食い気味で話に割り込んできたのは、徐福であった。
「徐福。何故だ? 少し前までお主は孫権と手を組むべきと言っていたではないか?」
「あの時は、孫権が実権を持っていました。ですが、今は周瑜が孫権を幽閉して実権を握っております。そのような者と同盟を結べば、後々になって問題が起こるかもしれません」
徐福は周瑜と同盟を結ぶのは反対した。
「問題? しかし、周瑜と手を結ばなければ、我らは滅ぼされるだろう。それなのに、手を結ぶなというのか?」
劉備は訊ねつつも、不快な顔をしていた。
「今の周瑜は船底に穴が開いた船と同じです。手を結べば、我らも沈みます。それよりも、曹操と周瑜と戦いの勝敗を聞いて決めるべきです」
「勝敗を聞いて決める? どうするのだ?」
「曹操が勝てば、その勢いに乗り柴桑に侵攻するでしょう。その隙に、我らは江夏郡に攻め込むのです。万が一周瑜が勝てば、その時こそ手を組んで、曹操と対抗するのです」
「ふむ。しかし、江夏郡には太守が居るのであろう。攻め込んでも領地を得るのは難しいと思うが?」
「荊州の家臣には殿の昔馴染みがいると聞いております」
「ああ、呉巨の事か」
「その者と連絡を取り反乱を起こさせるのです。さすれば、敵も動揺するでしょう。さすれば、領地を得る事が出来ます」
徐福の献策を聞いて、馬順も悪くないと思ったのか頷いた。
「良き策と思います。殿、どうでしょう?」
「・・・・・・お主らがそう言うのであれば、そうしよう。だが、周瑜のへの返事はどうする?」
劉備は手に文を持ちつつ訊ねると、馬順が答えた。
「とりあえず、曖昧な事を書けばよいと思います」
「曖昧な事?」
劉備は言葉の意味が分からない様で、訝しんでいた。
「つまり、周瑜の行いを褒め称えつつも仲良くすると書くのです。その際、同盟を組みたいのか組みたくないのか分からない様に書くのです」
「そういう事かっ。良し、そうしよう」
徐福の話を聞いて劉備は直ぐに、返事を認めた。