準備は整ったので
数十日後。
曹昂の元に、文が届けられた。
文を送って来たのは、陳登であった。
「そうか。呉郡の孫暠は帰順したか」
文によると、陳登の調略により朝廷に帰順、既に降伏の意を示す文書を許昌に送った事と、それと同時に韓綜も配下の兵と共に呉郡へ侵攻中。こちらも引き続き、寝返り工作を行うと書かれていた。
韓綜が呉郡に向っていると分かったので、曹昂は曹操の元に向った。
廊下を歩き、曹操が居る部屋に来ると、護衛の許緒に曹操に話があると言い、会うように求めた。
許緒が部屋に入ると、直ぐに戻ってきて入室を許可された。
曹昂が部屋に入り、直ぐに見慣れない女性が曹操と話しているのを見た。
歳は二十歳ぐらいで、身の丈七尺はあった。
少し吊り上がった切れ長の目に花の様に生き生きとした美しい顔立ちをしていた。
掌に収まりきらない程の大きさの胸に、蜂の様にくびれた腰と、胸にも負けない程に大きい臀部を持っていた。
(新しい侍女か?)
また、女性に手を出したのかと思いつつ、曹昂は一礼する。
「父上。お話ししたい事があります」
「そうか。下がれ」
「はい」
曹操の命を聞いて、侍女は一礼しその場を離れて行った。
侍女が部屋を出て行くのを見送ると、曹昂は訊ねて来た。
「見た事が無い侍女ですね。何処で見つけたのですか?」
「ああ、そう言えば。お前は初めてか。あの者は儂の友人であった王儁の娘だ。名は王瑛と言うのだ」
「そうなのですか。それで、何故友人の娘を侍女に?」
「荊州に来て知ったのが、王儁が亡くなってな。その娘である王瑛は行く当てがないという事で、侍女として仕えさせる事にしたのだ」
「・・・・・・行く当てがないのでしたら、引き取るのは普通ですね」
話を聞いた曹昂は返事をしつつ、偶には良い事をするのだなと思っていた。
「それで、話とはなんだ?」
「はい。まずはこれを」
曹昂はそう言い、文を両手で突き出した。
曹操は文を受け取ると、直ぐに広げた。
「・・・・・・ふむ。呉郡の方は上手く行っている様だな。文聘に五万の兵を与えて、江夏郡に向かわせるとしよう」
「はい。後は柴桑に向けて進軍して、周瑜を叩けば揚州はほぼ手に入ったも当然です」
「うむ。その通りだ。では、文聘の動きに合わせて、儂も兵を動かすしよう」
「父上。それはお待ちを」
曹操が出陣の命を出そうとしたのだが、曹昂が止めた。
「どうした? 何かあるのか? まさか、降伏の使者を出せという訳ではなかろうな?」
「いえ、そうではありません。此度の戦で勝った場合、柴桑まで赴くと思います。その時、孫権を見つけた時は如何なる処分を下すのですか?」
曹昂からしたら、戦の勝敗よりもそちらの方が気になっていた。
「・・・・・・家臣に反逆されるような奴だ。放っておいても大した事は出来んだろう。何処かに左遷させればよかろう」
「処刑はしないと?」
「家臣を統率できん奴に大それた事は出来んだろう。地盤を奪えば、何も出来ぬだろう。前漢の高祖の様に力をつけて反旗を翻すような事はせんだろう」
「そうですね。まぁ、多分無理でしょう」
今の孫権にそんな気概があるとは曹昂は思えないので、頷くのであった。
その後、曹操は家臣達に出陣の命を下した。
命に従い、将兵達は戦の準備に取り掛かった。




