これは、連絡案件かもしれない
周瑜が実権を得ている頃。
魯粛は孫権の使者として、江陵に赴いていた。
先触れを出した事で、謁見はすんなり叶い曹操と会う事が出来た。
城内にある大広間。
其処で魯粛は曹操と謁見する事となった。
室内に入ると、主だった家臣は集められており、部屋に入って来た魯粛を見ていた。
どのような目的で来ている事を知っている為か、皆嘲笑か高慢な顔を浮かべていた。
そんな中でも、魯粛は黙々と進み、上座に座る曹操の近くまで来ると一礼する。
「お初にお目にかかります。わたしは魯粛。字を子敬と申します」
「お主が、魯子敬か。その名前は良く聞いているぞ」
「朝廷を差配する曹丞相の様な御方に、わたしの如き者をご存じとは。恐悦の至りです」
頭を下げつつ述べる魯粛に、曹操は度胸はありそうだなと思っていた。
「此度、わたしが丞相にお会いする事になりましたのは、我が主の命に従ったからです」
「そうか。して、孫権はなんと申していたのだ?」
「はい。我が主が申すには、父孫堅は嘗て丞相と手を取り合い、董卓を討ち朝廷を安定させこの国を平和にしようとなさいました。志半ばで、父は亡くなり、その後を兄孫策が後を継ぎました。孫策は丞相に従い、多くの功績を立て、その功により揚州にて一郡の太守となり、朝廷の為に賊を平らげました。その兄も父同様、志半ばにして亡くなりました。そして、我が主がその後を継ぎました。不幸な行き違いにより、刃を交える事となりましたが、朝廷に逆らう事も、ひいては丞相と敵対するつもりは毛頭ないとの事です」
魯粛が長々と、話すのを曹操達は黙って聞いていた。
皆内心では、抜け抜けと言うと思っていたが、とりあえず魯粛の話を最後まで聞く事にした。
「此度、丞相の申し出にも従い、共に狩りを行いたいとの事です」
魯粛が実質的に降伏すると述べるのを聞いて、曹操達は笑みを浮かべた。
「そうか。孫堅殿とは親しくしていたからな。出来れば、その子とは争うという事はしたくなかった。儂の忠告を聞いてくれて嬉しく思うぞ」
「つきましては、その証として親族の者を許昌に送りたいと申します」
「ほぅ、それはいった誰なのだ?」
曹操の問いに、魯粛は少しだけ言うのを躊躇していたが、曹操達の視線を感じておもむろに口を開いた。
「・・・・・・今は亡き孫策様の奥方であられる大喬様であられます」
「ほほぅ・・・・・・」
大喬の名を聞いて、曹操は細い目を更に細めていた。
まるで、獲物を見つけた狩人の様であった。
「そうか。しかし、証しを立てるとい言うのであれば、普通母親か親族ではないか? 大喬は孫権の義理の姉ではあるが、親族とは言えぬのではないか?」
曹操の問いに、魯粛は奥歯を噛んだ。
内心で、曹操の好みに合わせたからだと思っていた。
顔にこそ出さないが憤っている中、曹昂が述べた。
「父上。向こうは好意で大喬様を許昌に送るのですから、難癖をつけるのはどうかと思います」
「ふふ、それもそうだな。では、魯粛よ。揚州は未だに賊が蔓延っておる。故に、大喬は荊州を経由して許昌に送るのが良いと思うが、どう思う?」
曹操は一目会いたいと暗に告げると、魯粛もそう言うだろうと予想出来ていたのか、頷くだけであった。
それを聞いて、曹昂は。
(・・・・・・これは、義母上に教えても良いかもな)
大喬に会いたいと言うのを聞いて、雛菊の時の様に色香に惑わされるかもしれないと思い、曹昂は丁薔に一報入れても良いかもしれないと判断した。
謁見が終わると魯粛は文を送り、江陵にて連絡を待つ事にした。