虎牢関の戦い
感想でランキング上位と書かれていたので、見て見たらジャンル別で日間2位なのを見て吃驚しました。
これも皆様が愛読してくれるお蔭ですね。
董卓が出陣するという報は陳留に居る袁紹達の下に届けられた。
その報と共に袁紹と袁術に悲報が齎された。
「なにっ、袁隗の義父上と一族の者達が皆殺しになっただとっ」
「はっ。先帝の劉弁様と共に洛陽に住んでいる一族の皆様方千余人が首を切られ晒し首にされております」
「おおっ、叔父上‼」
その悲報を聞いた袁術は目から涙を流しながら身体を震わせていた。
「あの時、私が洛陽を脱出する時、無理にでも連れ出しておけば、こんな事には・・・・・・・」
悔やむ袁術。
「おのれ、董卓。一族の恨みを晴らしてくれるっ。諸侯よ。諸悪の根源である董卓が今、正に我らの手が届く所に居るっ。この好機を逃がせば我等は勝利する事も難しいであろう。皆の者、急ぎ出陣の準備をせよ。準備ができ次第、出陣だ‼」
袁紹が目から涙を流しながら気炎を吐いた。
「「「おおおおおおおっっっ‼‼‼」」」
諸侯達は歓声を上げて準備に取り掛かった。
この時、袁紹は二つ失敗を犯した。
出撃は命じても何時頃、攻撃するのかを。
また、命令もしないで攻撃する事を禁ずる事を。
袁紹の命令で諸侯達は出撃の準備に掛かった。
準備は直ぐに終わり準備が出来た軍から順次進発していった。
そして、いち早く陳留を進発した河内太守の王匡軍二万が虎牢関の前まで来ると、関の前で陣取られていた。
その陣の掲げられている旗には『呂』と書かれていた。
「ぬう、敵の先鋒は呂布か。相手にとって不足なし」
王匡は部下の方悦を呼び寄せる。
「攻撃を開始せよ。見事、呂布を討ち取れば赤兎はお前の物だ」
「はっ。承知しました」
河内では名将にして猛将と知られる方悦はその命令に従い呂布軍に攻撃を仕掛けた。
袁紹が何時頃、攻撃するのかどうか言っていなかったので勝手に攻撃する事にした王匡。
まだ、全軍が揃っていない状態で攻撃を仕掛けるなど無謀であると分からずに。
方悦が槍を振るって攻撃を命じると、王匡軍は呂布軍へと迫った。
「ふん。一軍だけで我が軍に攻撃を仕掛けるとは愚かな」
声を挙げながら向かってくる王匡軍を見た呂布は味方を制止させた。
「俺が合図をしたら矢を放て」
赤兎に乗っている呂布が落ち着いて命ずるので、部下達も慌てずその命令に従う。
兵達が矢を番えて待っていた。
徐々に王匡軍の声と乗っている馬の蹄の音が大きくなっていくが、部下達は落ち着き払っていた。
それだけ呂布の事を信頼しているという事だろう。
「……放て‼」
呂布の命令に従い矢が放たれた。
放たれた矢は王匡軍の先鋒に襲い掛かる。多くの兵がその矢の餌食になった。
大量の矢の雨により、一時動きが止まる。
「今だ。続けっ」
呂布は方天画戟を掲げて突撃すると、兵達もその後に続いた。
駆け出した勢いのまま呂布は王匡軍に突入していった。
「ぬりゃああっ!」
呂布の駆け声と共に振るわれる方天画戟により敵兵は血煙を上げながら倒れていく。
その勇猛さに王匡軍の兵達は恐怖した。
呂布が方天画戟を振るう度に誰かが倒れて行く。
その武勇にはどれだけの兵が居ても勝てないのではと思われた。
そのまま呂布は縦横無尽に疾駆するかと思われたが。
「呂布。我こそは方悦なり。その首、貰ったっ」
方悦が名乗り上げると共に槍を突きだした。
その繰り出される槍の速さは猛将と言われるのに申し分のない程の速さと鋭さであった。
「ふん。少しは出来るようだが」
だが、呂布の前ではその槍は歯牙に掛ける程でもなかった。
二人の獲物がぶつかり合い、五合ほど交えると。
「だが、私を相手にするには百年早いわっ」
その声と共に突き出された刺突に方悦は胸を貫かれて事切れた。
「方悦将軍が討死っ」
「何だとっ」
王匡の下に方悦が討たれたという報が齎された。
そして、自身の前方に血煙が上がっているのが見えた。
「其処に居るのは王匡だな。その首、貰うっ」
呂布が王匡軍の兵達を倒しながら進んでいると、視界に立派な鎧を纏った武将が居たので恐らくこの軍の将だと思い声を掛けながら向かう。
「太守。御逃げ下さいっ」
自分の主君が危ないと分かった兵達は王匡の前に立ち呂布を進ませない様にした。
「邪魔だ。木っ端共‼」
目の前に王匡が居るというのに邪魔をする兵達を呂布は方天画戟を振るい蹴散らしていく。
兵達が噴血を撒いて倒れて行くのを見た王匡は、これは敵わないと思い馬首を返した。
「王匡。逃げるか⁉」
背を向けて逃げる王匡を嘲笑する呂布。
大将の王匡が逃げるのを見て、王匡軍も撤退を始めた。
呂布は追撃を仕掛けようとしたが、其処に袁紹軍に属する張楊が先鋒を任されたので、麾下の手勢を率いてやって来た。
其処で見たのは、敗れた王匡軍を追撃する呂布軍という光景であった。
「いかん、王匡軍を助けねば。穆順」
「はっ」
張楊の麾下で槍の名手と名高い穆順に声を掛けた。
「呂布を討ち取れ。もし、討ち取れば褒美は思うがままだ」
「仰せのままに」
「では、行くぞっ」
穆順の返事を聞いた張楊は兵と共に呂布軍に攻撃を仕掛けた。
「新手か。ふん、良いだろう」
呂布は狙いを逃げる王匡軍から、向かって来る張楊の部隊に変えた。
やがて、両軍は干戈を交えた。そのお陰で王匡とその軍は撤退する事が成功した。
呂布を先頭にして突撃した呂布軍。
呂布の武勇に押され、張楊隊も瓦解しかけていた。
「呂布、この穆順の槍を受け止められるかっ」
「ほざけっ」
呂布が鋭い一突きを繰り出すと、穆順は槍で防ごうとしたが、方天画戟の切味に槍が折れ真っ二つになり、穆順の身体を貫いた。
貫かれた穆順は短い悲鳴を上げ落馬した。
「穆順‼ ええい、退け、退けっ」
武芸の腕前は麾下の中で随一であった穆順が討たれるのを見た張楊は部隊を撤退させた。
「ふん。口ほどにもない。むっ」
逃げる張楊隊を追いかけない呂布。兵を少し休ませようと関の前に戻ろうとした。
其処に山陽太守の袁遺、北海太守孔融、東郡太守の橋瑁の軍がやって来た。
それぞれ二万の軍の軍を率いており、総勢六万の軍であった。
対する呂布軍は三万であった。
数の上では負けていた。
「この程度の数で負ける我が軍では無いわっ。攻めろっ」
呂布の命令で袁遺・孔融・橋瑁の軍に襲い掛かる呂布軍。
一見すると無謀とも思える命令であったが、そうとはならなかった。
連合軍とは言え、曹操の檄文で集まり盟主の袁紹の指揮下で戦っているだけの寄せ集めの軍であった。その為、連携を取る訓練も命令系統の統一も一切されていなかった。
向かって来る呂布軍相手に兵達はどの様にすべきか分からなかった。
たちどころに乱戦になると袁遺・孔融・橋瑁の軍は同士討ちを始めた。
呂布軍は味方の軍装と違う者だけ倒せば良いので特に混乱する事なく敵兵を倒していった。
乱戦の中でも呂布は先程と変わらず無人の境を行くが如くに疾駆する。
手に持っている方天画戟を振るい次から次へと襲い掛かる敵兵を倒していった。
「呂布だな。儂が相手だっ」
呂布に声を掛けるのは孔融配下の猛将の武安国という者であった。
身の丈八尺五寸の巨漢であった。
武安国は百斤の鉄槌を手にしていた。
「ふん。見掛け倒しが」
呂布が嘲ると武安国は怒りで顔を真っ赤にして鉄槌を振るう。
その鉄槌は方天画戟と刃を交えたが、三合ほど交えると。
「お前では相手にもならんわっ」
と言って武安国を斬り捨てた。
「ひいいっ」
「こんな奴に敵う訳がねえっ」
自分達の方が数が多いのに討ち取れる様子も無く武安国が討たれるのを見た兵達は怯えて腰を引き始めた。
「はっはっは、お前達では相手にならん。もっと強い奴を出せ‼」
呂布は笑いながら敵兵を斬り倒していった。
呂布が勢いづくと配下の兵達も勢いを増していき、袁遺・孔融・橋瑁の軍を敗退させていった。
袁遺・孔融・橋瑁の軍を敗退させた呂布軍は呂布を先頭に戦場を駆けて行った。
すると、前方に軍旗が見えた。
「あれは北平太守の公孫瓚の旗だな」
呂布の耳にも公孫瓚の勇名は届いていた。
「相手にとって不足なしっ」
呂布は次の獲物を公孫瓚軍三万に決めた。
「殿。呂布軍は攻め込んで来ました」
「あの先頭に居るのは呂布だな。討ち取って本日の戦の一番手柄としてくれるっ」
呂布軍の先頭で翎子と呼ばれている簪をしている武将と言えば呂布しか居なかったので公孫瓚は容易に誰なのか分かり麾下の兵達に呂布を討ち取るように命じた。
公孫瓚軍と呂布軍がぶつかった。
流石に勇名を轟かせる公孫瓚軍には呂布軍も苦戦を強いられていた。
それでも呂布は構わず猪突した。
「殿。呂布が一騎で我等の元まで参ります!」
「何と言う大胆で命知らずな男だ」
公孫瓚目掛けて突撃するかのように進んで行く呂布。
周りには部下が居ないにも関わらず突き進んで来る呂布の剛胆さに公孫瓚は思わず魅入られていた。
呂布がそのまま突き進んでいくと、公孫瓚が目に見える所まで来た。
「公孫瓚。覚悟っ」
呂布に魅入られた公孫瓚は反応が遅れた。
今から馬首を翻しても背中から斬られる。このままではまずいと思われたが。
「待て。三つの家の奴隷め! この張飛が相手だっ」
呂布と公孫瓚の間に割り込む様に馬を進ませた張飛は威嚇の為に矛を舞わせる。
呂布は自分の前に出た者の名前など聞いた事がなかった。
それに身に纏っている武具も貧弱そのものであった。
普通であれば雑兵だと思い相手にもしないのだが、張飛が呂布に言った事が気になり訊ねた。
「貴様、今、何と言った⁉」
「三つの家の奴隷と言ったのだ! 聞こえないのであれば、何度でも叫んでやろうぞっ」
「それは私の事を言っているのか?」
「そうだ。何故、そう言われるのか特別に教えてやろう」
張飛は矛を構えながら大音声で叫んだ。
「貴様の姓は呂であろう。親が死んで丁原に拾われて養子になったというのに、董卓が馬を与えるからと言ってその義父の丁原を殺して養子となった。貴様の行いは人では無い奴隷の様だから、三つの家の奴隷だと言ったんだ!」
張飛の説明を聞いて頭に血を昇らせる呂布。
「その大口、叩けない様にしてくれるっ」
「やれるものならやってみろっ」
呂布の方天画戟と張飛の矛がぶつかった。
その隙とばかりに公孫瓚は馬首を翻して数名の部下と共に離れて行った。
余談だが、張飛が呂布の事を「三つの家の奴隷」と言ったのは連合軍に直ぐに広まり呂布の蔑称として呼ばれる様になった。
火花を散らせ金属がぶつかり合う事で生まれる甲高い音を立たせながらも、呂布と張飛の勝負は続いた。
どれだけ刃を交えても疲れた様子も無く自分に食らいつく張飛に呂布は驚きを隠せなかった。
(こいつ、本当に足軽か?)
刃を交えながら呂布は思った。
対する張飛は。
(ぬぅ、このような豪傑が居るのかっ)
呂布の武勇に心中で舌を巻いていた。
幾度かお互いの得物が互いの武具を掠めたが、それでも二人は叫び合い得物を振るった。
「あれは誰だ?」
「あっちは呂布だ。であれば、呂布と戦っている者は誰なんだ?」
連合軍と呂布軍の将兵達が二人の剣戟に見蕩れていた。
ただ、呂布は一目で分かったが張飛の名前を知っている者はあまりに少なかったので、誰なのか分からず皆、首を傾げていた。
二人の戦いを遥か遠くから眺めている袁紹達連合軍の諸侯達は呂布と戦っている者が誰なのか分からず周りに訊ねていた。
「曹操。呂布と互角に戦っている者は誰か分かるか?」
「はっ。あれは公孫瓚殿の麾下に居る劉備玄徳の義理の弟の一人で張飛という者です」
「劉備? その名前、何処かで聞いたような気がする・・・・・・?」
「黄巾の乱の折り、義勇軍を率いた将です」
「おお、そうであった。しかし、あの様な豪傑を今の今まで知らなかった」
「ちなみに華雄を退けた関羽の義理の弟でもあります」
「何と⁈ あの豪傑の義理の兄弟とは。いや、素晴らしい事だ」
袁紹は関羽と張飛を褒め称えた。
そうして話していると、張飛の馬が疲れてふらつきだした。
呂布の愛馬赤兎は兎も角、張飛が乗っている馬には二人の戦いに付いて行ける程の体力は無かったようだ。
そして、馬が口から泡を噴いて倒れた。
「どわあああっ」
馬が倒れた事で張飛は落馬してしまった。
「隙あり‼」
呂布はその隙を見逃さずとばかりに方天画戟を振り上げる。
このままではやられると誰の目にもそう映ったが、其処に疾風のように駆け付ける二騎があった。
「我こそは関羽雲長なり。張飛。加勢するぞ!」
「義弟よ。劉備も参ったぞ。共に呂布を討とうぞ!」
関羽と劉備であった。
「おお、義兄達っ」
頼りになる義兄達がやって来たので張飛は立ち上がり呂布に向かって突撃した。
劉備達も駒を寄せて、劉備は双剣で関羽は薙刀で呂布へ攻め掛かった。
「ふん。相手になってやるっ」
呂布は三人相手でも構わず戦った。
四人の得物が交互にぶつかり甲高い音が響き渡る。
三人相手でも戦う呂布を褒めるべきか、それとも呂布を相手にして三人で互角に戦える劉備達三兄弟を褒めるべきか分からないという思いを抱きながら両軍の将兵達は眺めていた。
それは虎牢関の楼閣に居る董卓も同じ思いであった。
「ぬぅ、まさか連合軍の中に、あの呂布とあれだけ打ち合える豪傑が居るとは」
「相国。このままでは呂布将軍が討たれるかも知れません。此処は引き鉦を鳴らすべきです」
「そうだな」
李儒の提案を聞きいれた董卓は引き鉦を鳴らせた。
その鉦の音を聞いて呂布は一瞬、不満そうな顔をしたが直ぐに気持ちを切り替えた。
「後日、再戦して決着をつけてくれる‼」
そう言うと呂布は馬首を引き返した。
「逃げるかっ」
「待て。三つの家の奴隷め。馬首を返して戦え‼」
張飛が罵るが呂布は構わず赤兎を走らせていた。
呂布の後を追い駆ける様に呂布軍もその後に続いた。
連合軍の諸侯達は呂布と劉備達の戦いの余韻に浸っていたが、いち早く曹操が気を取り戻した。
「袁紹殿。敵は虎牢関に撤退を始めました。此処は総攻撃をする時です!」
「お、おお、そうであった」
袁紹はそう言われて腰に下げている剣を抜いた。
「敵は後退を始めた。全軍、総攻撃をせよ!」
袁紹の命令は直ぐに伝わり虎牢関に総攻撃が行われた。
その総攻撃が行われる少し前に呂布は虎牢関に入る事が出来た。その後に続くように呂布軍の兵達も虎牢関に入って行った。
大半の兵は収容出来たのだが、数千の兵が連合軍の攻撃に曝された。
それを見た董卓は、
「関門を閉めろ。誰も入れるでないぞ!」
まだ数千の兵が取り残されているというのに董卓は非情な命令を下した。
武将の何人かは何か言いたそうな顔をしたが、状況が切羽詰まっている以上従うしかないと思い直した。
そして、関門が閉じられていった。
「おいっ。開けてくれ‼」
「助けてくれ‼」
「俺達はまだ生きているぞ!」
関門に入る事が出来なかった兵達は門を叩きながら悲痛な叫びを挙げる。
だが、それでも門を開けられる事はなかった。
取り残された兵達に連合軍は容赦なく襲い掛かり皆殺しとなった。
関門前に居た兵達を皆殺しにした勢いで連合軍は虎牢関へ攻撃をした。
だが、要衝と言われる虎牢関というだけはあって連合軍がそう攻撃しても虎牢関は落ちる気配はなかった。
日が暮れだしたので、連合軍は攻撃を止めて後退を始めた。
連合軍の攻撃が終わると董卓は軍の被害状況を確認した。
死者一万。重傷、軽傷者合わせて四万という報告が齎された。董卓軍はかなりの打撃を被った。
「ぬぅ、このままでは不味いな。李儒。何か良い案は無いか?」
軍議を行う部屋で董卓は李儒に訊ねた。
「相国。我が軍の豪傑と言われる者達が敗れている以上、此処は仕切り直しをするのが得策と思います」
「仕切り直しだと?」
董卓は李儒が言った言葉の意味が分からない様で難しい顔をする。
李儒は董卓に何事か話した。
それを訊いた董卓は最初こそ驚いていたが、話を聞いて行く内に現状でそれが一番の手だと分かり、直ぐに行動を開始した。
所変わって連合軍の陣地では。
「はっはっは、董卓軍。恐れるに足りぬっ。皆、思う存分飲むが良い」
袁紹は虎牢関での戦いで気を良くしたのか集まっている諸侯達よりも酒を飲んでいた。
豪傑と謳われている華雄と呂布が関羽や張飛といった雑兵に敗れたのを見て、思っていたよりも敵軍は強くないと思い込みだした。
他の諸侯達も同じ気持ちなのか大いに楽しんでいた。
そんな集まっている諸侯達の中で曹操・孫堅・鮑信・張邈と言った一部の者達は諸侯達とは別の天幕に集まっていた。
「袁紹や他の諸侯達は既に勝った気でいるな」
「愚かな。敗れたとは言え、呂布も華雄も健在。それに李傕、郭汜、樊稠、徐栄と言った名将達も控えている」
「それに我が軍は大軍だ。長期戦となれば、兵糧で困る事になるだろう」
「その前に洛陽を攻略するべきだな」
「だが、未だに虎牢関を落とす事が出来ていない。どうするべきか?」
三人は頭を悩ませていた。
曹操は心配ないと言わんばかりに手を振る。
「いや、諸兄。此処は私に考えがある」
「考え? 孟徳殿。それはどのような考えか教えて頂けるか?」
「済まんが。これについては極秘でな。明日、私が袁紹殿に虎牢関の攻撃の許可を貰う。その時に見せて差し上げよう」
「ほぅ、そこまで勿体ぶるとは。これは余程の考えと見た」
「我等にする事はあるか?」
「そうだな。出来れば、我等の攻撃に合せて攻撃して欲しい」
「他には?」
「無い。後はこちらの動きに合わせてくれ」
「承知した。では」
孫堅達は一礼して天幕から出て行った。
曹操は天幕から出て行かないで、一人残った。
「……曹昂。何をするつもりなのだろうか?」
実を言うと、曹操も何をするのか知らなかった。
ただ、曹昂が楽進に何かする様に言っていたので兵を率いるという事だけは分かった。
今、楽進と共に兵達に何かを教えている様であった。
「さてさて、我が息子はどのような事をするのか見ものだな」
曹操は息子がどんな方法で虎牢関を攻略するのか楽しみであった。
翌日。
袁紹から許可を貰い、曹操・孫堅・鮑信・張邈軍合計十万が虎牢関へと攻め込んだ。
「「「かかれっ‼」」」
孫堅達の号令の元、十万の兵が虎牢関へと進軍する。
曹操は攻撃の準備の為に少し遅れて攻撃に加わる事になった。
「敵を虎牢関に近付けるな。撃てっ」
守将の趙岑が兵達に矢を放つように命じる。
互いに矢を放ちあう。
兵達は矢が当たり短い悲鳴を上げて倒れて行く。
弓兵の援護を受けた連合軍は橋を持って防壁に掛けていく。
兵達は掛けられていく端から登っていった。
「敵を近付けるな。橋を落とせっ」
趙岑は橋を落とす様に命じると、兵達は登っていく兵達を突き刺して地面に落としたり橋を落として壊したりと奮戦した。
「流石は要衝虎牢関。何という防備の固さよ」
「このまま攻めてもこちらの被害が増すだけだな」
「さて、孟徳殿はどの様な手で……うん?」
孫堅達は虎牢関の堅牢さに舌を巻いていると、地面を踏み鳴らす足音が聞こえて来た。
何処から聞こえるんだと思い周りを見た。そして、偶々振り返った張邈が目に映っている物を見て目を疑った。
「なっ、何だ。あれは?」
張邈がそう言うので孫堅達が振り返ると、其処には動く箱があった。
箱と言うのは比喩であって、実際には箱では無い。
だが、箱の様に直方体であった。
人が一人隠れる位に長方形状の大きな盾を持って進んでいた。
そして、その盾は左右と上方と後方を守る様に盾を持っていた。
「動く箱?」
「いや、良く見ると盾を持った人が固まって動いているだけのようだ」
「あれでは、敵兵の良い的であろう」
「いや、良く見よ」
孫堅がそう言うので張邈達はその動く箱のような陣形を見た。
他の兵達もその見た事もない陣形を見て近付くと邪魔になると思い距離を取った。
虎牢関を守っている兵達は何だ。あれは?という思いで見ていたが、近付いて来るので敵の何かだろうと思い兵が矢を放ったが、
カン!
矢が盾に当たると甲高い音を立てて弾かれた。
それを見て守っている兵達はその箱に向けて集中的に矢を放つが、箱は動きを止める事は無かった。
「あれだけ守りが固ければ矢も通じんか」
「だが、岩を投げられては流石に堪えるだろう」
鮑信がそう言うと、その言葉に従うかのように虎牢関を守っている兵達が岩を投げつけた。
だが、箱に当たっても音を立てて弾かれただけで箱の動きは止まらなかった。
「何と言う事だ。あの盾がどんなに硬くても岩が当たれば衝撃で持ち手が倒れてもおかしくないだろうに」
「あの盾に何かあるのだろうか?」
孫堅達は動く箱を見ながらあの盾に何か仕掛けがあるのだと思い注視していた。
「三人共。虎牢関の様子はどうだ?」
考えている孫堅の下に曹操がやって来た。
「おお、孟徳殿。丁度いい所に来た。
「あの動く箱は何か特殊な兵器か何か?」
「それとも、呪いで攻撃が効かないのか?」
三人は気になったのか曹操に訊ねた。
「ああ、あれは西域の攻城戦などで使う陣形だそうだ。ふぁらんくす?とか言っていたな」
「ふぁらんくす?」
「西域の軍の陣形か。成程、見た事が無い筈だ」
「陣形なのは分かったが、岩が当たっても兵が痛がる様子も無いのはどういう訳だ?」
「何でも、盾と持ち手の間に厚い綿を挟む事で衝撃を緩和するそうだ」
曹操の説明を聞いて孫堅達は納得した。
「あのまま進めば、関門に辿り着くが。どうやって関門を攻撃するのだ?」
「陣形の中央に破城槌を持って来ている。それで関門を攻撃するのだ」
「むぅ、こうして見ると攻城以外にも使える陣形だな」
「そうだな。これで周りに騎兵などを置けば、背後に回り込ませて挟撃なども出来るな」
鮑信と張邈は関門を攻撃している陣形を見て関心していた。
「孟徳殿。あれも曹昂君が見つけたのか?」
「ははは、流石は文台殿。目の付けどころが違いますな。その通りです。西域から来た兵法書を解読して自分なりに改良したとの事です」
「全く、私の息子と同い年とは思えないな」
「いやいや、本を読むのが好きなだけの愚息にございますよ」
「ふっ。それでこうして形にしているのだから凄いとしか言えないと思うがな」
「恐縮です」
曹操は一礼して、虎牢関を見た。
虎牢関を守っている兵達は関門を攻撃している箱を見て矢と岩で攻撃してもビクともしていないのに狂ったように攻撃していた。
「今なら橋を掛けて登れるかもしれんな」
「確かに。・・・・・・むっ?」
鮑信が呟いたので曹操が同意すると、後方から人馬の声が聞こえて来た。
向かって来るのは公孫瓚の軍であった。
「遅れたか。だが、虎牢関を何としても攻略するぞっ」
「公孫瓚殿、お任せを。行くぞ。関羽、張飛」
「兄者。関門の前にあるあの箱は何だ?」
「見た所、盾を四方八方に掲げているな。何処の軍の者だ?」
公孫瓚軍の先頭に居た劉備、関羽、張飛は関門の前にある箱みたいな物を見て戸惑っていた。
「おお、其処に居るのは劉備殿ではないか。中々、挨拶できなかったが、壮健そうで何より」
「孟徳殿もお元気そうで何よりです。それよりも、関門の前にある箱のような物は何かご存じで?」
「我が配下の将である楽進に新しい陣形を教えてそれを使って虎牢関の関門を攻撃しているのだ」
「成程。あれは、孟徳殿の軍の者でしたか」
「見た事も無い陣形だ。我が国の陣形にあのような陣形は無かった筈だ」
「その通り、あれは西域の兵法書に載っている陣形だ」
「西域ですか。それじゃあ、見た事は無いな」
「兄者。あの箱のような物が何か分かったのだ。早く関に橋を掛けて乗り込むべきだっ」
張飛が向かうように急かした。
張飛は董卓に恨みがあったので、この機に返したいという思いで一杯であったので急かすのも無理はなかった。
「確かに翼徳殿の言う通りだ。各々、関に総攻撃を仕掛けるとしようっ」
曹操がそう言うと、その場に居た者達は異論無く総攻撃に掛かった。
その総攻撃のお蔭か、関門がとうとう壊れて使い物にならなくなった。
「我こそは曹操軍の将。楽進文謙。一番槍を果たしたりっ」
兵達よりも先に関門の中に入った楽進は大音声で叫んだ。
その掛け声で董卓軍の士気は低下した。
更に畳み掛ける様に連合軍の総攻撃により連合軍の兵達が城壁に取り付いた。
これにより組織だった抵抗は徐々に無くなっていった。
守将の趙岑は劉備に一合も交えないで斬られた。
「董卓は何処だ?」
「探せ。探せ!」
だが、虎牢関に董卓と幹部達の姿はなかった。
「これはどうした事だ?」
「もしや、董卓は怖気づいたのでは?」
「だとしたら、今頃洛陽に居るのでは?」
「ふむ。確かにそうだな」
「兎も角、盟主の袁紹殿に伝令を飛ばそう。『我、虎牢関を陥落させたり』と」
曹操が本陣に居る袁紹に伝令を出した。
そうしていると、洛陽から赤い炎が見えて来た。
火の勢いは衰えるどころかますます増していった。
「ああ、洛陽が‼」
「何と言う事だ…………」
漢帝国の都が燃えるのを見て将兵達は呆然となった。