この時期に
劉備が戦の支度しているという噂は、直ぐに荊州にいる曹昂の耳に入った。
その噂を聞くなり、曹昂は直ぐに腹心である劉巴達を招集した。
「劉備が孫権に戦を仕掛ける準備をしているという噂は知っているか?」
全員集まるなり、曹昂は問いかけると劉巴達は頷いた。
「其処で聞きたい。誰か、そのような噂を流した者はいるか?」
劉表が降伏した時点で、劉備が孫権に戦を仕掛けるのは無謀を通り越して愚行と言えた。
なので、どう考えても無いと言えた。
其処でこれは、誰かが流した誤報だと思い曹昂は訊ねた。
すると、龐統と諸葛亮の二人が一礼する。
「はっ。我らが流しました」
「勝手は承知しております。ですが、これも我らの友人を助ける為に必要な事ですので、何卒お許しを」
二人が謝りつつ言うのを聞いて、曹昂は訊ねた。
「その友人というのは、徐福の事か?」
「はい。その通りです」
「あの者は得難き才を持っております。ですので、どうかお許しを」
噂を流したのが誰なのか分かったので、曹昂は特に咎める事はしなかった。
「まぁ、二人がそう言うのなら良い。それよりも、二人に頼んでいる方はどうなっている?」
諸葛亮達がどうやって、徐福を劉備から切り離すのか気になりはするが、今はそれよりも司馬徽の弟子達の説得がどうなっているのかが大事であった。
「皆に会いに話は通しております。皆快く返事を致しました」
「わたしも友人の石韜、孟建、崔州平にも声を掛けました。崔州平は反応が薄かったですが、他の二人は前向きに考えている様でした」
諸葛亮達がそう答えるのを聞いて、曹昂は満足そうに頷いた。
「崔州平か。あやつは宮仕えしないのではないか?」
「わたしもそう思うが。友人だからな、一応声を掛けたのだ」
龐統が崔州平は宮仕えしないというのを聞いて、曹昂は気になり訊ねた。
「何故、そう言えるのだ?」
「あやつの父と兄は朝廷に仕えていたのですが、あまり良い最期とは言えませんでしたので」
「士元の申す通りです。崔州平の父は崔烈と言い、要職を歴任した者でしたが董卓が倒れた後は、城門校尉として長安を守備していたのですが、李傕らが長安を占拠すると、王允と共に多くの官人と共に殺されたそうです。兄の崔鈞も父親が殺された事で、官職を剥奪されて長安から追放されたのですが、父の仇を討とうと計画を練っていたのですが、病に罹り亡くなったそうです。それを知っている崔州平は何時だったか、ポツリと零したのです『父と兄が死んだのは、宮仕えしたからだ。わたしはそうはならん』と。ですので、宮仕えせず隠者みたいな生活をしているのです」
諸葛亮の説明を聞いて、曹昂もそれなら仕方がないと思った。
「ならば、無理に仕えさせなくても良いな。それよりも、他の者達に才に見合った職に就けるようにすればよいな」
「それが良いかと思います」
「さて、孫権はどう動くか分からんが、暫くは荊州の統治に掛かりきりになるな。その内、襄陽に移動するかもしれないので、準備だけしておくように」
「襄陽ですか。承知しました」
「では、丞相に報告を」
「いや、父上は居ないので、会えた時に話すとしよう」
曹操が居ないと聞いて、諸葛亮達は首を傾げていた。
「何でも、昔の友人の墓があると聞いて、その墓に赴いたのだが改葬する事にしたそうだ。それで、今は江陵にいるそうだ」
「江陵ですか。あそこは降伏した時に、大量の軍需物資と銀がありましたが、既に接収しましたので、特に何もないと思いますが。何故、其処に墓を建てるのでしょうな?」
「其処までは知らないが。まぁ、誰かがそうして欲しいと言ったのだろう」
「ちなみに、その友人のお名前は?」
「確か、王儁と言っていたな」
「王儁ですか。その名前は知っております。確か、名士と知られた御方でしたな」
「そうらしいな。父上とは洛陽に居た頃から親しかったそうだ」
曹昂と龐統が話していると、其処に兵が駆けこんできた。
「お話し中に失礼しますっ」
「どうかしたのか?」
「はっ。ただいま、交州の州牧の士燮の使者が丞相に会いたいと参っておりますっ」
兵がそう叫ぶのを聞いて、曹昂達は驚きを隠せなかった。