悩む徐福
荊州が降伏す。
その報は国内に伝わった。
当然、丹陽郡に居る劉備の元にも届けられた。
「馬鹿な⁉ 劉表が一戦を交えずに降伏しただと⁉」
その報を聞いた劉備は信じられない思いで叫んだ。
報告した間者もどう反応するべきか分からず、戸惑っていた。
そんな中で、徐福は冷静に訊ねた。
「それで、降伏した劉表達はどうしたのだ?」
「はっ。降伏した直後に、劉表は病死しました。残った一族の者達は劉表の喪に服するという名目で、劉表の故郷である兗州山陽郡高平県に送られました」
「・・・・・・体の良い追放ですね。これは」
「うむ。劉表が病死した時期もあまりに早すぎる。病状はどうだったのだ?」
「調べた所、薬師も手の施しが出来ないという程悪く、何時九泉に行くか分からないと申していたそうです」
「では、曹操に暗殺されたのかどうかも分からぬと?」
馬順の問いに、間者は無言で頷いた。
「いや、劉表は暗殺されたのだ。曹操の手でな」
報告を聞いていた家臣達は暗殺か病死なのか分からない中で、劉備は暗殺だと断定した。
皆、断定していいのかと思いつつも、口に出さなかった。
「しかし、劉表の子供達は何も言わずに荊州を去るとは、情けない・・・・・・・」
劉備は三人いる息子の誰かが、父親の死に疑問に思わない事が、嘆かわしいとばかりに息を吐いた。
「殿。劉表が死に荊州が曹操の手に入った事で、我らは窮地に陥りました」
「分かっておる」
徐福がそう言う理由が分かっている劉備は苦い顔をしていた。
丹陽郡の隣にある九江郡は曹操の支配下に入っている以上、何時でも攻め込まれる可能性があった。
それだけではなく、呉郡の孫暠からも攻め込まれるかも知れなかった。
更に言えば、孫権の支配下にある廬江郡、会稽郡、豫章郡からも攻められる事も考えられた。
特に孫権には長い間世話になっていた所に、恩を仇で返す事をしたので、一番攻め込んで来るかもしれなかった。
「ですが、この状況を使い孫権と同盟を結ぶという手もあります」
「孫権と? 出来るのか?」
「少し前であれば無理でしたが、今ならばできます。荊州が曹操の手に落ちた事で何時攻められるか分からないのです。であれば、誰であろうと手を貸してほしいと思うものです」
「う~む。同盟か・・・もう少し情勢を見てから決めるとしよう」
劉備は早急に同盟を結ぶのは早計と判断し、様子見を決め込んだ。
それを聞いて、徐福は口を出した。
「殿、事は急を要します。一刻も早く同盟をっ」
「そうは言うがな。孫権の元から独立して、日が浅い。向こうは、まだ恨みを持っていてもおかしくない。向こうから申し出るのであれば別だが、こちらから言えば、向こうは図に乗って、何を要求するか分からん。だから、状況を見るべきだ」
劉備の答えを聞いて、徐福も一理あると思っているので、唸るだけで何も言えなかった。
そして、評議が終わると、徐福は自室に戻った。
自室に入るなり、席に座り息を吐いた。
「・・・・・・独立なぞしなければ、こんな面倒な事にならなかったものを」
徐福は今更と思いつつも呟いた。
(そもそも、この時期に独立する必要がなかっただろうに。せめて、孫権と曹操が戦ってからすればいいものをっ)
徐福としては、いずれ曹操と孫権は激突すると予想していた。
孫権が勝てば、その時は荊州南部四郡を攻め込み、その地を足場に独立する。
曹操が勝てば、その時こそ、揚州の土地で独立するつもりであった。
だが、呉郡で起きた反乱に乗じて独立しだした。
劉備が独立を決めた時、徐福は今は時期が悪いと諫言したのだが、聞き入れられなかった。
諫言を聞かなかった事で、今の状況になっているのであれば、劉備の浅慮としか言えなかった。
「・・・・・・ともかく、この状況をどうするべきかだな。孫権と手を組まねば、我らは破滅するしかないな」
徐福はどうしたら、孫権と手を組めるか考えていた。
それから、数日後。
丹陽郡にある噂が流れていた。
それは、劉備が孫権に戦を仕掛ける準備をしていると。