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まず、した事は

 漢寿から少し離れた所にある県。


 政務の事は荀攸達に任せた曹操は護衛の許緒と典韋と護衛の兵を連れて、その県を訪れていた。

 県内にある家。

 一般的な家に比べても、粗末な家と言えた。

 曹操はその家の前に来ると、典韋が声をあげた。

「誰か、おらぬか‼」

 城内の至る所まで響き渡りそうな程の大声に、家の中に居た者は慌てて出て来た。

 出て来たのは女性であった。

 歳は二十歳ぐらいで、身の丈七尺(約百六十センチ)はあった。

 少し吊り上がった切れ長の目に花の様に生き生きとした美しい顔立ちをしていた。

 掌に収まりきらない程の大きさの胸に、蜂の様にくびれた腰と、胸にも負けない程に大きい臀部を持っていた。

 一目で美人と分かる女性であった。

「どちら様でしょうか?」

「無礼者っ。こちらにおられる方を、どなたと心得るっ。朝廷にその人ありと言われる曹丞相で在られるぞっ」

「控え、控えい‼」

 女性の問いに、典韋と許緒の二人が手で示しながら、曹操の事を教えた。

 それを聞いて女性は慌てて平伏した。

「止めんか。馬鹿者共!」

 典韋達の口上を聞いて、曹操は二人を叩いた。

「此処は我が領地になっていないのだぞっ。儂の名を出せば、誰が何をするか分からんだろうがっ」

「し、失礼しました」

「失念しておりました」

 曹操の叱責を受けて、典韋達は頭を下げて謝った。

 そして、二人を退けて、平伏する女性を見る。

「顔を上げよ」

「は、はい」

「お主、名は?」

「は、はい。王瑛(おうえい)と申します。今日は何用で、このようなあばら家に?」

「うむ。お主の父に会いに来たのだ」

「父ですか? ですが」

 王瑛は口籠らせていると、曹操は分かっているのか手を広げた。

「既にお主の父が死んでいるのは聞いておる。三年前だったそうだな」

「はい。病に罹り、そのまま」

「そうか。儂よりも一回り年上であったからな・・・・・・」

 王瑛が目を伏せたまま述べるのを聞いて、曹操は一瞬だけ目を瞑った。

 目を開けると、家を見た。

「もう墓は建ているかもしれが、此処では良い墓を立てれぬだろう。墓を移そうぞ」

「そ、そんな、丞相にそのような事を」

「お主の父である王儁(おうしゅん)は親しい友人であった。友人の墓を改葬するのに丞相の地位など関係ない」

「・・・父もあの世で喜ぶでしょう」

 曹操の言葉を聞いて、王瑛は涙を流しながら喜んでいた。

 その後、曹操は王儁の位牌が置かれている壇に赴き、哭礼した。

 それが終わると、王儁の遺体が入った棺を持って江陵に入ると、其処で改めて葬儀を行った。

 当初は王儁の故郷である汝南郡に運ぼうとしたのだが、一応喪主である王瑛が江陵に行こうと述べた。

「生前の父が、一度墓を建てるのなら故郷ではなく江陵が良いと零した事がありました。何でも、其処から見た風景が気に入ったそうで」

「そうか。分かった」

 曹操は王瑛の意見を聞いて、江陵に墓を建てる事にした。

 新しく建てられた墓を前に立つ曹操は目を瞑り、故人の冥福を祈っていた。

「・・・・・・王儁。お主は、儂がまだ洛陽北部尉になる前から親しくしてくれたな。その頃は、儂が宦官の孫という事で、多くの者達は軽蔑していたというのに、お主だけはそのような事を気にせず親しくしてくれたな・・・・・・」

 曹操がそう零し始めると、全身が震え出した。

 皆、背中しか見えなかったが、泣いているのだと分かった。

「袁紹の母親の葬儀の席で、儂が『今世は乱れている。その乱れに乗じて、袁兄弟は争うだろう。そうなる前に殺すべきかもな』と冗談を言うと、お主は『君の言葉が真実であれば、天下を救う者は君をおいて他にはいないだろう』と笑った時の事を、昨日の事の様に思い出せる。そのお主が、儂よりも先に行くとは・・・・・・・天は無情よ」

 曹操は肩を震わせながら、忍び泣いていた。

 そんな曹操に、誰も声を掛ける事は出来なかった。

 

 その後、曹操は王瑛にこれからどうするか訊ねた。

 行く当てもないと答えるのを聞いて、自分の侍女にならないかと述べると、王瑛は応じた。

 王瑛はその後、曹操の寵愛を受けて側室となり、曹操が魏王となると後宮が作られると昭儀の称号を与えられた。

 父譲りの才知を使い、後宮の安定に一役を買い曹昂が太子に選ばれるよう尽力した。


 同じ頃。


 曹昂は漢寿である人物達と会っていた。

「お久しぶりです。漢升殿、ご壮健そうで何よりです」

「曹陳留侯に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」

 曹昂が対面していたのは、黄忠と劉磐であった。

「貴殿が劉磐殿ですね。御高名はわたしも聞いております」

「有難きお言葉です」

 黄忠は劉磐と共に、降伏の挨拶に来ていた。

 そして、沙汰を待っていると、曹昂が二人に会いたいと言うので会う事にした。

「して、我らに会いたいと言うので参りましたが。何用でお呼びで?」

「単刀直入に申し上げて、貴殿と劉磐殿をわたしの配下に迎えたいのです」

 曹昂が呼び出した理由を述べると、黄忠と劉磐は内心でやはりと思っていた。

 でなければ、会いたいという事はないと思ったからだ。

「・・・・・・少しお時間を戴けますか?」

「構いません。返事は急ぎ来ませんので」

 自分達の一生が関わる事なので、じっくり考えたいと思うのは道理であった。

《暫く荊州には居るからな。時間が掛っても良いだろう)

 そう判断した曹昂は二人の返事をゆっくりと待つ事にした。

 そして、二人が部屋を出て行くと、次は誰を呼び出そうか考えていた。

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― 新着の感想 ―
君主「〇〇がいいなぁ」 正妻「〇〇がいいなぁ」 有力家臣の多数「〇〇がいいなぁ」 子供達「〇〇いる限り確定でしょ」 これでも場合によっては揉めるのが後継者争いだからなぁ
孫と同い年の子供を作れるのが元気な曹操であるw
兄弟仲関係なく派閥って形成されちゃうからな。 そういう意味では後宮を抑えるための人材を得たってことかな。
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