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董卓出陣す

 華雄、賊将に敗れ重傷。

 その報が洛陽に居る董卓の下に届けられた。

「・・・・・・あの華雄が敗れるとは」

 配下の中では呂布の次に強い部下が重傷を負ったと言う報告に渋い顔をする董卓。

「どうやら、反乱軍も馬鹿に出来んようだな」

「はっ。その様です」

 董卓が嘆息しながら言うと李儒も同意した。

「だとすれば、呂布だけ行かせても士気が上がらぬだろう。ならば」

 董卓は立ち上がり手を掲げた。

「儂も出陣する‼」

 董卓は宣言した。そして、呂布を見る。

「呂布。軍馬の準備はどうなっている?」

「十五万の兵の準備が整いました。何時でも出陣出来ます」

「良し。先鋒は呂布。お主は三万の兵を率いて虎牢関に向かえっ。儂は十万の兵を率いてその後に続く。李傕は最後尾で二万の兵を率いろ」

「「御意‼」」

 董卓の命を聞いて武将達は一礼して準備に掛かった。

 だが、李儒だけ残った。

 残ったという事は何か話があるのだろうと董卓は李儒を見る。

「相国。相国が出陣すれば、我等に負けは無いでしょうが。ですが、心配事があります」

「心配事だと? 涼州の者達が攻め込んでくるとでも言うのか?」

 涼州に関しては既に手を打っていた。皇甫嵩に五万の兵を与えて涼州の方面の警戒をさせていた。

「いえ、皇甫嵩を向かわせたので問題はありません。それではなく、私は別の事が心配でして」

 戦の準備で忙しい時に李儒のもったいぶった言い方にイライラした董卓は声を荒げながら訊ねる。

「何が言いたいのだっ。はっきり言えっ」

「では、申し上げます。反乱軍の中には朝廷に縁深い者が多数おります。例えば太傅の袁隗は反乱軍の盟主の袁紹と袁術の叔父に当たります。もし、洛陽を出て出陣すれば袁紹達と呼応して良からぬ事をするかもしれません」

「……確かにそうだな」

 言われてみると、今の洛陽を空けると朝廷内の大臣達が何かする可能性があった。

「李儒。誰でも良いから、武将を率いて袁隗とその一族と袁氏の者達を捕まえて参れ‼」

「はっ。それともう一つ懸念があります」

「まだ、有るのか?」

「はい。どちらかと言えばこちらの方が大事です」

 大事と言われて董卓は耳を傾けた。

「反乱軍は帝から勅書を得たので挙兵したと公言しております。その勅書はどの様に手に入れたのでしょうか?」

「そんな物。偽造しただけであろう?」

「いえ、間者からの報告では伝国璽の印が押されていたと報告が入っております」

「なにっ、伝国璽だとっ。それは流石に偽造は出来ぬだろう」

 漢室には伝国璽の他に皇帝六璽という六個の印章があった。

 皇帝六璽はそれぞれ皇帝行璽。皇帝之璽。皇帝信璽。天子信璽。天子之璽。天子行璽と言う。

 印章もそれぞれ用いる者が違う。

 皇帝行璽は皇族又は功臣を封じたり論功行賞を行う時に用いる。

 皇帝之璽は恩赦又は聖旨という天子の思し召しの時に用いる。

 皇帝信璽は兵の招集、動員の時に用いる。

 天子信璽は対外動員、外夷招集の時に用いる。

 天子之璽は祭祀の時に用いる。

 天子行璽は外夷を封じて、賞を行う時に用いる。

 なので、皇帝六璽とは実用の印章だ。

 対して伝国璽は所持をしているだけで、正当な天子の位を示す印章だ。

 なので、伝国璽を使われるという事は偽造も出来ない皇帝の詔勅という事になる。

 即ち反乱軍は正当な官軍と言う事になる。

「ぬうっ、その事を知っている者は?」

「私以外は誰も」

「そうか。だが、誰が伝国璽を使ったのだ?」

「私の推測になりますが伝国璽に触る事が出来る者でしょう。即ちそれは天子という事です」

「献帝が押す訳が無かろう。という事は」

「弘農王の劉弁になります」

「許せんっ。薬にも毒にもならぬから帝位から降ろした後は生かしてやったと言うのに、その恩を忘れるとはっ」

 董卓は憤慨するが、李儒からしたら劉弁は自分の目の前で母親を殺され妻になる者を強引に奪った董卓に恨みを抱かない方がおかしいと思っていた。

「即刻、劉弁を捕まえて来いっ。出陣の時に袁隗共々殺してくれるっ」

「承知しました」

 李儒は一礼して離れていった。

 董卓の命令に従い李儒は郭汜に五百の兵を与えて袁隗の屋敷を襲撃させた。

 そして、袁隗と一族を全員捕縛しついでに劉弁も捕縛した。


 翌日。

 

 捕縛された袁隗達は粗末な服を着て鎖付きの手枷と足枷を嵌められ数珠繋ぎにされ、獄卒に鎖を引っ張られながら歩いていた。

「なぜだ。どうして、わたしまで……」

 劉弁は身に覚えが無いのに、どうして自分が罪人扱いされているのか分からなかった。

「ほら、歩け。相国様を待たせるな」

 獄卒の一人が足を止めている劉弁を持っている棒で叩いた。

 容赦なく叩くので、それを見た袁隗は声を荒げた。

「やめよっ。貴様、今、自分が何をしているのか分かっているのか?」

「ふん。罪人を叩いて何が悪い?」

 獄卒はかつては天子の身分であった劉弁を叩いても悪びれる事も無く平然と聞き返してきた。

「こやつっ」

「いい、いいのだ。袁隗」

 劉弁はこれ以上、言ってもむなしいだけと悟り袁隗を宥める。

「へいか。……」

 今の劉弁のあまりの惨めさに袁隗は目から涙を流した。

「何をグズグズしている。早く来いっ」

 獄卒が早く来るように促したので袁隗達は歩き出した。

 そうして歩いていると、嘉徳殿の前まで来た。

 其処には武具を纏った董卓と左右に呂布と李傕を従えており、側には朝廷の百官達が居た。

「跪け」

 獄卒が袁隗達に無理矢理促した。

 皆、此処に来て抵抗は無意味と悟ったのか難なく跪いた。

「相国。罪人を連れて参りました」

「うむ」

 獄卒が董卓に報告すると、董卓は呂布達を従えて袁隗の傍まで来た。

「惨めな姿だな。袁隗」

「くっ、董卓。よく見ておくが良い。貴様もいずれ同じ目に遭うと思えっ」

「はははは、それは楽しみだ。まぁ、出来たらの話だがな」

 下劣な笑みを浮かべる董卓。

「相国。私は無実だ。私が、お主に何をしたと言うのだっ⁉」

 話している二人に割り込む様に劉弁が話し掛けた。

「黙れっ。貴様はかつて皇帝であった身分を使い、国璽を偽造し反乱軍に渡した反逆者め‼」

「何の事だ? 私には皆目わからん」

「あくまで白を切るか? まぁ良い。どちらにしても貴様には消えてもらう」

 董卓が後ろにいる李傕を見る。

 その視線で察した李傕は手を掲げる。

 すると、獄卒達が手に鉞を持っていた。

「出陣前の景気づけだ。首を刎ねろ」

 董卓がそう言うと獄卒達は袁隗達の傍に行き、鉞を振り上げる。

「劉弁。お主の妻の唐姫は儂が死ぬまで面倒を見てやる。安心して逝くが良い」

「……ならば、唐姫に伝えてくれ『自愛せよ』とだけ伝えてくれ」

 此処に至っては死は免れないと悟った劉弁は遺言を残した。

「それが遺言か。まぁ、儂も鬼ではない。伝えておいてやる」

 董卓はそう言って顎をしゃくった。

 李傕が手を振り下ろすと獄卒達は鉞を振り下ろし袁隗達の首を刎ねて行った。

 袁隗達の首が刎ねられるのを見た董卓は王允を見つけて手招きした。

「王允殿。司徒の王允殿」

「はい。相国」

 この頃、王允は司徒に任じられていた。

 今の目の前に知人が殺されるのを見た王允は次は自分かと思いながら董卓の傍まで行く。

「これが反逆者達の末路だ。どうだ? 哀れであろう」

「はい。あまりにも惨めで哀れにございます」

「こうはなりたくはなかろう。だから、儂が居ない間は、李儒とよくよく相談して洛陽を治める様に」

「はい。承知しました」

 王允の返事を聞いた董卓は喜んだ。

 そして、董卓は十五万の兵を率いて洛陽を進発した。

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[一言] 偽書で成立する反乱を主人公の気まぐれで本物に変えたばかりに殺される劉弁がひたすらに哀れでならん。 母を殺され妻を奪われ、冤罪で死ぬとかかわいそう。
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