閑話 仕える勢力が違えば、意味も変わる
エイプリルフールなので、書いてみました。
司馬懿が曹昂に仕え、まだ諸葛亮が食客であったとある日。
司馬懿が諸葛亮の元に訪れて、交流を深めていた。
その時に、曹昂からある事を教えられたので、話のタネとして諸葛亮に話していた。
「孔明殿。大秦ではある日だけ、嘘や悪戯を仕掛けても良い日があるそうだ」
「ほぅ、そのような日があるので?」
「うむ。人伝に聞いた話なので知らぬが、その日は万愚節と言うそうだ。何でもその日は春の祭りで行われるのだが、変装して嘘、冗談が行われ、人々が自由な振る舞いを楽しむ日だそうだ」
「仮装とはなんですか?」
「何でも、余興や催し物などで扮装する事で楽しむ事だそうだ」
「成程。大秦にはそのような日があるのですね」
「うむ。それが四月一日だそうだ」
司馬懿が日付を教えた。
余談だが、日本で四月一日と書いてわたぬきと呼ぶのは、春の訪れを祝う儀式として、着物から綿を抜く行事が行われた事から、そう呼ばれる様になった。
「そうですか。そのような日があるのですね」
話を聞いた諸葛亮は顔にこそ出さなかったが、面白そうと思っていた。
そして、司馬懿が話を終えて部屋を出て行くと、諸葛亮はある者の元を訪ねた。
「曹兗州牧。少しよろしいでしょうか?」
「これは、孔明先生。今日はどのような御用で?」
諸葛亮は曹昂に何か話していた。
話を聞いた曹昂は面白そうだから手伝う事にした。
そして、数日が経ち、四月一日。
司馬懿が政務を行っていると、曹昂の屋敷の使用人が慌てて駆け込んできた。
「た、大変でございますっ⁉」
「何事だ?」
「し、し、諸葛亮様が急病に罹り、倒れましたっ」
「な、何だと⁉」
使用人の口から、諸葛亮が死んだと聞いて、司馬懿は驚いて手を止めて部屋を駆け出した。
部屋を出た司馬懿が駆けた先は、諸葛亮の部屋であった。
(そう言えば、昨日部屋に訪ねた時、顔色が悪かったな)
長廊を駆けながら、司馬懿は思い出していた。
そして、諸葛亮の部屋の前に着き、部屋に入ると曹昂が泣いていた。
「孔明先生、早い、あまりに早すぎますぞ。おおおおお」
曹昂は声をあげながら、嘆いていた。
司馬懿は寝台の方を見ると、其処には諸葛亮が横になっていた。
目を瞑り呼吸も無く顔は白くなっていた。
「・・・・・・孔明殿」
司馬懿は横になっている諸葛亮の傍に赴き座った。
「何故、これほど早く逝かれたのだ。貴殿とは、もっと天下の事について論じたかった・・・・・・・・くっ、天はこれほど無情なのかっ」
司馬懿は諸葛亮の死を嘆いていた。
瞑っている目から、涙が流れ出ていた。
そう泣いていると、前に何かいる気配がしたので、目を開けた。
「・・・ぎゃあああああっ、こ、こうめいっっっ」
目を開けると、白い顔の諸葛亮が居るので、司馬懿は驚きの声をあげた。
「し~ば~い~ど~の~」
「こ、こうめいっ。亡霊になったのかっ⁉」
白い顔の諸葛亮が自分の名を言うのを聞いた司馬懿は怯えつつ後ずさった。
怯える司馬懿に諸葛亮は近づいていく。
ある程度近づくと、諸葛亮は背中に手を回した。
回した手は帯に挟んでいた板を取り出して、司馬懿に見せた。
其処には『悪戯大成功』と大きく書かれていた。
「・・・・・・な、なに?」
板を見た司馬懿は暫しの間、その意味が分かるのに時が掛った。
そして、言葉の意味が分かると、自分が悪戯を仕掛けられたという事が分かった。
「ははは、司馬懿殿の反応は面白いですな」
「確かに」
諸葛亮が笑っていると、曹昂も思っていたよりも反応が良いなと思っていた。
「・・・・・・殿まで、わたしを揶揄うとは」
「すまない。孔明先生が万愚節の話を聞いたので、試しにしてみたいと言うのでする事にしたのだ」
ちなみに、誰に仕掛けようか決めたのは、諸葛亮であった。
「まさか、殿に騙されるとは」
司馬懿は怒っているのか、二人を睨んでいた。
それは悪戯に掛った事を拗ねている様に見えたので、曹昂達は笑っていた。
後に、この行いが『死諸葛走生仲達』と言われる故事となった。
余談だが、後年、諸葛亮が天寿を全うした際、訃報を聞いた司馬懿は諸葛亮の元に駆けて行き、その死を嘆いた事から、二人の交情の篤い様相を表す故事になった。
この話で十八章は終わりです。
十九章は土曜日に投稿する予定です。




