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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第十八章

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任務を与えた隙に

 曹操が許昌に来て二日後。


 今日も外廷にて朝議が行われていた。

 曹操は献帝の傍にある席に座りながら、朝議を聞いていた。

 目を閉じているので聞いているのか寝ているのか分からなかったが、報告する者達は気にする事なく報告していた。

 報告も大体終えると、曹操は目を開けて荀彧を見た。

 視線を向けられた荀彧は頷いた後、家臣の列から前に出て一礼する。

「陛下。昨日の孔大夫のお言葉を覚えておいでで?」

「うむ? 使者を送り降伏を促すと申していたな」

 献帝は何故そのような話をするのか分からず首を傾げている中、荀彧は言葉を続けた。

「孔大夫のお言葉を聞き、わたしは考えて悪くない案と思いました。其処で各地に居る朝廷に従わない賊に降伏を促す使者を送りましょう」

「うむ。そうだな。では、使者の選別は誰かに任せるとしよう」

 献帝は曹操か誰かに決めて貰うのが良いだろうと思っていると、其処に荀彧が述べた。

「荊州に送る者は決まっているのですが。揚州に向かう者が一人決まっておりません」

「何故だ?」

「孫権に送る者は決まっているのですが。揚州の丹陽郡には劉備がおります。劉備に送る使者が誰も居ないのです」

 荀彧は困った様に述べた。

 献帝も自分が皇叔と認めた者に降伏の使者を送る事に躊躇しているのか、渋い顔をしていた。

 そう悩んでいる中、華歆が口を挟んできた。

「恐れながら、陛下。今この場にいる者の中で、劉備と親しい者がおります。その者を使者として送るのはどうでしょうか?」

「そのような者が居るのか、それは、誰ぞ?」

「孔太中大夫にございます」

 華歆があげた名前を聞いて、皆視線を孔融に向けた。

「待たれよ。確かに儂は劉備と親しかったが、それはあやつが徐州州牧であった時に儂が青州を治めていたから親しくしていただけの事、今は交流といえるものは無いぞ」

「ですが、親しくしていたのでしょう。であれば、降伏を促すぐらいは出来るでしょう」

「ぬぅ、しかし」

「孔子の末裔である貴殿は弁舌も優れているのだから問題なかろう。使者として赴いて説き伏せずとも、それは劉備の器量が狭量であったというだけの事であろう」

 先祖の名前が出たので、孔融も拒否する事が出来なかった。

「分かり申した。劉備の降伏を促す使者の役目、謹んで拝命いたす」

 孔融は渋々だが、使者の役目を引き受けた。

 其処で朝議は終わりとなり、献帝は下がり臣下の者達も皆その場を後にする。

 臣下が離れていく中、荀彧は王郎へ目を向けた。

 王郎は荀彧の目を見るなり頷いて、ある臣下の元に行く。

郗慮(ちりょ)殿。少しお話がある」

「うん? 何用か?」

 王郎が声を掛けたのは、郗慮。字を鴻豫と言い、侍中に任じられている者であった。

 若い頃は後漢を代表する学者の一人である鄭玄に師事していた。

 やがて、学者として名が知られる様になり荀彧の推薦で、朝廷に仕える様になった。

 学者として有名になった事と、師の鄭玄の縁により孔融と親しくしていたが、ある時、口論してそれから仲違いしてしていた。

 以来、犬猿の仲でいずれ追い落とそうと思っていた。

 余談だが、三国志演義では誤字なのか郄慮(げきりょ)という名前になっている。

 また、子や孫の名は不詳なのに、玄孫だけは名前が残っているという変わった家であった。ちなみに、その玄孫の名前は郗鑒(ちかん)と言う。

「此処で話す事ではないので、わたしの屋敷に」

「ふむ。承知した」

 王郎が屋敷で話したいと言うので、郗慮はその誘いに乗って屋敷に向った。

 そして、屋敷に着くと、二人は何事か話した後、郗慮は満面な笑顔で屋敷を後にした。


 数日後。

 孔融は供を連れて、劉備が居る丹陽郡に向った。

 その日から、孔融の派閥に居る文人達の間にある噂が流れていた。

 曰く、孔融は劉備と密かに繋がっている。

 曰く、劉備が丹陽郡にて反旗を翻したのは、許昌に居る孔融が何時でも反旗を翻しても呼応できる様にする為。

 曰く、此度の使者の役目も、孔融が反旗を翻す時期を伝える為に拝命した。

 という噂が流れていた。

 孔融と親しい者達は聞き流していたが、孔融の派閥に属する者達の中には、孔融は嫌いだが別の派閥に入る事が出来なかった為に属している者や、孔融に付いていけば甘い汁が吸えると思い派閥に属している者達も居た。

 そういう者達は疑心暗鬼になっていた。其処に郗慮がこう囁いた。

「どうやら、孔融は大それた願望を抱いている様だ。このまま付いていけば、我が身の破滅を招くだけぞ」

 郗慮の言葉を聞いて、皆孔融の派閥から抜けていった。

 一人、また一人と離れていくが、派閥に属する者達は懸命に説得しても無駄であった。

 それどころか、逆に説得されて派閥を抜ける始末であった。

 最終的に残ったのは、孔融と親しいが朝議の中には発言力が無いに等しい者達しか残らなかった。

 やがて、劉備の説得に失敗した孔融が許昌に帰還した。

 外廷に着くなり、説得に失敗したと報告を終えるなり、郗慮が前に出た。

「孔大夫。貴殿は説得をするつもりはあったのですかな?」

「何を言う。儂は朝命に従い、その役目を果たそうと持てる才を使った結果、失敗したのだぞ」

「その説得の席で、劉備に丞相に対して誹謗中傷する発言をしたと供の者が申しておりましたぞ」

「なっ‼ そのような事は」

「貴殿には謀反の疑いがある。大人しく詮議を受けられよ」 

 郗慮がそう言い終えると、手を掲げると兵が参り孔融を拘束した。

「は、離せ。儂は謀反など考えておらんっ。これは、讒言ぞ。陛下、儂は謀反など考えておりません。どうか、お聞き入れをっ」

 兵に引きずられながら、孔融は無実を訴えるが、誰も何も言わなかった。

 孔融と親しい者達は何か言おうとしたのだが、自分達に朝議の場で発言力など無いと分かっているので、何も言えなかった。

 そして、孔融は尋問を受けるのだが、謀反など知らんと言い続けた。

 其処に郗慮が参り、こう述べた。

「貴殿は謀反を企てていたと認めぬおつもりか?」

「当然だ。儂は謀反など考えてはおらんっ」

「では、このまま一族と共に刑場の露と消えますかな?」

「なにっ⁉」

「当然の事であろう。謀反を企てている者は一族郎党処刑というのが、世の習わしなのだから」

「儂は謀反など考えてはおらん。貴様が儂を(ざん)しただけであろう?」

「であれば、そう思う証拠はお有りで?」

「儂は天に叛いた事などないからだっ」

 何の証拠も無いのに孔融がそう述べるのを聞き、郗慮は呆れて肩を竦めていた。

「そう思うのであれば結構。ですが、既に朝議では貴殿と一族の者達を処刑するという事で話が進んでおります」

「なんだとっ⁉」

「其処で一つ提案がございます。貴殿が劉備に唆され、謀反を考えていたと言うのです。そうすれば、貴殿の子達はお助け致す」

「き、きさま」

「嫌と言うのであれば、このまま親子共々、処罰を受けるのですな」

 郗慮の冷徹な言葉を聞いて、孔融の心の内は怒りで激しく燃え上がった。

 だが、このままでは子供達の命も消えてしまうと思い、冷静になった。

 そして、家が残るのであればと思い、決断した。

「・・・・・・本当に罪を認めれば、子供達の命は助けるのであろうな?」

「ええ、ご子息は難しいかもしれませんが、何とかしてみましょう。ご息女の方は間違いなくお助けします」

「分かった。だが、もし嘘と分かれば、鬼となって貴様を呪い殺すからなっ。忘れるでないぞっ」

「承知した」

 孔融がそう述べるのを聞いて、郗慮は満足そうな笑みを浮かべた。

 そして、孔融は劉備の元に赴いた際に、曹操に対して誹謗中傷する発言をした事と、劉備に唆されて謀反を考えていた事を告白した。

 その告白により、孔融は死罪が決定した。

 それと連座して、孔融と親しい者達も尋問を受けるのであった。

 多くの者達が官職を剥奪されて処刑又は朝廷から追放されていき、辛うじて残った者達もいたが皆世を儚んで職を辞して、故郷に隠遁するのであった。

 孔融の自身の処刑は決まっているが、妻子の事で議論が交わされた。

 妻の方は既に病死していた為問題なかったが、子供達はどうするべきか話された。

「既に孔融は罪を告白したが、孔融の子はまだ十歳にもなっていない幼子達。まだ頑是ないと言っても良い歳。そのような者達を殺す意味など無かろう」

 という荀彧の発言により、孔融の子供達の処刑は免れ、他の家に預けられた。

 余談だが、息子の方は長じると、世の無情さを嘆き隠者となり、そのまま婚姻する事無く一生を終えた。

 娘は孔融の娘という事だからか、孔子の子孫という事だからか分からないが、兗州泰山郡で強い影響力を持つ羊一族の者に嫁ぐのであった。

 

 そして、孔融は処刑され、死体は棄市されるのであった。

「丞相。孔融の処刑を終わりました」

「後は孔融と親しい者達も全て処罰したな」

「はい。滞る事無く」

「これで、朝廷は儂の意見に従うようになるな」

「はい。その通りです」

 荀彧の言葉を聞いて、曹操は高笑いした。

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― 新着の感想 ―
ふりがな無いと読めない人でてきた…w朝廷内のうるさい連中も片づけたか
ついに露と消えましたか。本当に毀誉褒貶の著しい人だからなんともなぁ…。羊氏のことに触れたってことはそろそろ羊衜辺りが出てくるんでしょうか。
讒した の読み方を調べて おとしめた なのかなとの予想と違いました
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