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ただ、時だけが過ぎていく

 諸葛亮が陳留を発った頃。


 荊州武陵郡漢寿県。

 城内にある大広間には、重い空気が漂っていた。

 本来であれば、上座に居るべき存在である劉表の姿は無く、家臣達は不安そうにしていた。

 少しすると、蔡瑁が部屋に入ってきた。

「これより、評議を行う」

 蔡瑁がそう述べると、家臣の中に居る頼恭が尋ねた。

「蔡将軍。評議を行う前に聞きたい。殿の容体は?」

 頼恭の問いに蔡瑁は暫し口を噤んだが、隠しても仕方がないと思ったのか話す事にした。

「長年の過労により倒れてしまい、意識がない。薬師が言うには、もう長くないそうだ」

 蔡瑁がそう述べるのを聞いて、家臣達はもう回復する事はないだろうと思っていた。

「其処で、殿が元気になるまでの間、代理を決めたいと思う。劉琦様と劉琮様。どちらを代理に立てるべきだと思う?」

 蔡瑁はそう問いかけるものの、家臣達は内心で劉琮と決まっているだろうと思っていた。

 中には劉琦を推す者達は居るには居るが、蔡瑁に歯向かう程の度胸も家中に対する影響力を持つものは居なかった。

「・・・誰も意見はないのか? ないのであれば劉表様が可愛がっておられる劉琮様に代理を任せたいと思うが。異論ないな?」

 蔡瑁が訊ねたが、皆押し黙った。

 代理が劉琮と決まるなり、部屋に劉琮が通された。

「劉琮様。どうぞ、こちらへ」

 蔡瑁が上座に座るように促した。

 それを見た劉琮は周りを見たが、皆頭を下げていた。

 顔は見えなかったが、誰も何も言わないので反対していない様だと分かったのか、上座に座った。

「劉琮様。代理とは言え、貴方様の決断は我らの行く末が決まります。ですので、軽挙妄動は謹んで下され」

「う、うむ。分かった」

 蔡瑁にそう言われ、劉琮はこくりと頷いた。

 まるで、事前にそうするように言われているかの様に従順であった。

「では、劉琮様。既にお聞きと思いますが、曹操が再び戦の準備をしております。ですので、どうするかお決め下さい」

「決めるとは、何をだ?」

「抗戦か。それとも、国を挙げての降伏かをです」

 蔡瑁の口から降伏という二文字が出てきて、家臣達はざわついた。

「蔡将軍。それはどういう意味であろうかっ⁉」

 力強い声でそう訊ねるのは、武将の文聘であった。

 文聘は劉琦派でも、劉琮派でもない中立派であった。

 常々、跡目が劉琦様であろうと劉琮でも構わない。誰であろうと忠義を尽くすと公言していた。

 なので、劉表の代理が劉琦では無く劉琮であろうと構わなかった。

 だが、降伏する事だけは反対であった。

「殿が荊州に赴いてから治める事数十年。殿はこの地に骨を埋める程に好いておられる。だと言うのに、殿の意識は無い状態とは言え、代理である劉琮様が降伏を決める事などあってはならんっ!」

「黙れ。文聘! わたしはあくまでも劉琮様にどちらを選ぶか訊ねただけの事、けして降伏する様に促してはおらんっ」

「そんな事は信じられんな」

 文聘が睨みつけると、蔡瑁も睨み返していた。

 二人が睨みあうのを見て、他の者達はオロオロしていた。

 上座に座る劉琮も、どうすればいいのか分からない様で困惑していた、

 このままでは、お互い剣を抜くのではと思われる程に、空気がピリピリとしだした。

 蒯越はまずいと思ったのか、文聘を宥めた。

「文将軍。どうされたのだ?」

「わたしは、ただ蔡瑁が聞き捨てならない事を言うので、少々問い詰めたまでだ」

「文将軍。気持ちは分かるが、今我らが争えば喜ぶのは曹操だけであろう。此処は落ち着いて話そう」

「・・・・・・失礼した」

 蒯越に宥められた文聘はその通りと思ったのか、息を吐いて気持ちを静めて、蔡瑁に謝った。

 先に謝られたので、蔡瑁も気を静めた。

 そして、改めて評議をしたのだが、答えは出ず時だけが過ぎて行った。

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― 新着の感想 ―
すでに荊州は裏も表も謀略でがんじがらめだろうけど、文聘・黄忠、可能なら劉盤は無事に旗下に迎え入れたいなぁ…孔明さんたのんまっせ!!
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