揺さぶられる
孫権の酒乱騒動はすぐに各地に広まった。
それを聞いた蒯越は、上手くいったとほくそ笑む。
(ふむ。これだけでは温いな。まだ、何か手はないものか)
後もう一押し欲しいなと思っていた。
何かないかと思案していると、ある事を思い出した。
「そう言えば、孫権の従兄に孫輔という者がいたな」
孫権の親族であるのだが、孫策亡き後に孫権では揚州を治める事が出来ないと思ったのか、曹操と誼を通じようと使者を送った。
曹操の息子である曹彰に姪で兄の孫賁の娘が嫁ぐという話があったが、孫策が死んだ後のゴタゴタで消滅していたが、その縁を使い使者を送っていた。
だが、その使者が孫権に、孫輔が曹操に内通しようとしている事を報告した。
それにより、孫権は激怒したが、まだ完全に繋がってはいない上に親族という事で、官職と持っている部曲を没収し幽閉した。
「この者を使おう。後は」
蒯越は笑った後、直ぐに孫輔が何処に幽閉されているのか調べさせた。
十数日後。
柴桑にいる孫権の元に、凶報が齎された。
「なにっ、孫輔が⁉」
「はっ。食事をしていると苦しみだして、間もなく」
従兄が死んだという事を聞いて、孫権は茫然としていた。
曹操と通じようとしていたが、事前に知る事ができた事と親族という事で、命だけ助けた。
その代わり、側近の処刑と官職と部曲の剥奪して幽閉したが、命あるだけ良しとしていた。
その従兄が突然死んだので、訳が分からなかった。
茫然状態の孫権に、報告した兵が恐る恐る述べた。
「あの、孫輔様がお亡くなりになった頃から、ある噂が流れだしました」
「噂だと?」
そのような噂など聞いていない為か、孫権はどんな内容なのか分からず首をひねった。
「どのような噂だ?」
「それが、大変口に出す事も憚られる内容なのです・・・・・・」
「早く言わんかっ」
孫権が促すと、兵は観念したように教えた。
「その、孫輔様が亡くなったのは、殿が毒殺したからだという内容です」
「なにっ⁉」
兵の報告を聞いた孫権は目を剥いた。
「詳しく話せ⁉」
「はっ。巷に流れている噂によりますと、孫輔様は曹操と通じようとした。一度通じたのであれば、再び通じるかもしれない。だが、その証拠が無いから、毒殺したと囁かれております」
「ば、馬鹿を言うなっ。本来であれば、曹操と通じようとした時点で、処刑しても良かった所を、親族という事と、まだ揚州を治めて日が浅いので、親族を殺しては豪族や家臣達の心が離れると思い、側近だけ処刑して官職と部曲を取り上げて幽閉で済ませたのだぞっ。既に処罰した物を毒殺する意味など無いであろうがっ」
「一度処罰したので、また処罰を与えれば家臣達が反対すると思い、毒殺したと言われております」
「ぐ、ぐぐぐ」
兵が報告を聞いて、孫権は歯ぎしりしていた。
そして、兵を下がらせると、直ぐに噂は事実無根だと家臣達に説明した。
だが、孫権の求心力が低下しているからか、殆どの家臣達は疑っていた。
加えて、親族で孫輔の兄である孫賁などは、孫権の元に赴いて問いただした。
「殿、弟が死んだのは、殿が毒殺したからと噂が流れておりますが、真ですか⁉」
「そんな訳がなかろうっ。孫輔は親族で、わたしの従兄だぞっ。罪を犯したとは言え、親族を毒殺するわけがなかろう!」
孫権は噂は事実ではないと言うが、孫賁の疑いは取れなかった。
その後、懸命に説得したお陰で疑いが晴れた。




