離間させれば儲けもの
孫権が揚州に帰還している頃。
荊州武陵郡漢寿県。
城内にある大広間にて、劉表は部下からの報告を聞いていた。
「孫家の孺子を討つ事が出来なかっただと?」
「はっ。殿の呂蒙の奮戦により、孫権率いる本隊に追いつく事が出来ず逃がす事となりました」
報告を聞いた劉表は顎髭を撫でていた。
無表情なので、何を考えているのか分からなかったが、劉表に長く使えている蒯越や蔡瑁などは、相当怒っていると察していた。
(殿は昔から、怒気が高まり過ぎると無表情になるからな)
(これは、またとんでも無い事を言い出しそうだな気がするぞ)
劉表の表情をから、蒯越達は何が起こるか分からず戦々恐々していた。
そんな事も分からない部下は報告を続けた。
「殿の呂蒙を討つことは出来ませんでしたが、多くの敵兵を討ち又捕虜と武具を奪う事が出来ました。文将軍もお喜びでした」
「そうか・・・・・・」
報告を聞き終えた劉表は暫く顎髭を撫で続けていたが、それを終えるなり深く息を吸った。
「・・・愚か者! 孫権を討たねば、また攻め込んでくるであろうがっ。だと言うのに、将の一人も討つ事が出来なかった事を詫びる事もしないで、たかが少しの武具と捕虜を得ただけで喜ぶでないわ! 誰か、この者を鞭打ち五十回に処せよ!」
「と、殿、それだけはお許しをっ。殿おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ・・・・・・」
報告した部下を兵に連れていかれていくのを見送った劉表は肘置きを叩いた。
「おのれっ、曹操に注力したいというのに、孫家の孺子が邪魔しおるわ!」
怒声をあげた劉表は蒯越を見た。
「益州に向かった李厳から何か報告は無いかっ⁉」
「ありません。劉璋は良い返事をしないそうです」
「おのれっ、何か良き策はないかっ」
劉表は大きな声で独白した。
誰も答えを求めていなかったが、其処に蒯越が答えた。
「殿、わたしに良き案がございます」
「何じゃ⁉」
「先の朝廷から南郡の太守に程普が選ばれた事は御存じで?」
「そんな事は知っているわっ。曹操の調略であろう。朝廷を思うがままに支配しているからこそ出来る事じゃな」
「それを使って、程普を調略するというのはどうですか? その調略により程普と孫権との仲がしっくりいっていないという話を聞いております」
「真か?」
「間者からの報告ですから、間違いではないかと」
「・・・・・・ふむ。悪い手ではないな」
蒯越の話を聞いて、劉表も悪い手ではないと思った。
「問題は周瑜と魯粛がいれば、見破られるという所ですが。まぁ、孫家に揺さぶりを掛ける事が出来る程度と思えばいいと思います」
「揺さぶり程度で良いのか?」
蔡瑁はその程度で揺さぶりなるのか疑っている様だが、蒯越は問題ないとばかりに頷く。
「孫家は韓当という宿将が曹操との内通を疑われ、自害した事で武官と文官との間に亀裂が生じているそうです。其処にまた揺さぶりを掛ければ、亀裂が広がるでしょう。上手くいけば分裂するかもしれませんね。まぁ、上手くいけばですがね」
其処までは流石に求めるのは無理だろうと思う蒯越。
「まぁ、其処までは求めん。蒯越、任せたぞ」
「はっ。お任せを」
劉表から許可を得た蒯越は一礼し、その場を離れた。
数日後。
蒯越の元に揚州に居る密偵から、ある報告を受けた。
それは、山越の討伐に周瑜と魯粛が赴くという事であった。
報告を聞いた蒯越は思わず笑みを浮かべた。