再び、どうする?
孫権が長沙郡に侵攻し、攸県の攻城を続けているが、未だに落城する気配を見せなかった。
その様子を苛立ちながら見ている孫権。
其処に柴桑に居る程普からの文が届けられた。
「な、なにっ⁉」
既に南郡の太守に程普が選ばれた事は知っていた。
その時は魯粛から「これは、曹操の謀略です。殿と程普殿の仲を裂くつもりです」と言われた。
孫権もそうなのだろうと思い、特に何もしなかった。
そんな時に、程普の文に朝廷から裨将軍の印綬と鉄脊蛇矛が与えられた事が書かれていた。
南郡の太守は何の実益もない無役に近かったが、将軍の位と武器を与えられた事には驚いていた。
これは、流石に魯粛に相談した方が良いと思い兵に声を掛けて、魯粛を連れてくるように命じた。
少しすると、魯粛が来たので、孫権は文を渡した。
「・・・・・・これは、曹操の調略の様ですな」
文を一読した魯粛はすぐに調略だと分かった。
「そうだな。それで、どう思う?」
「どう思うとは?」
「程普は、曹操の調略に乗ると思うか?」
孫権がそう訊ねてくるので、魯粛は答える前に孫権の顔を見た。
目が疑うべきかどうか、迷っている様に見えた。
「・・・・・・殿、韓当殿についてどう思っております?」
「何を突然言っている?」
「お答えください」
魯粛は答えねば、問いの答えは言わないという顔をしているので、孫権は暫し黙った。
「・・・・・・すまない事をしたと思っている。あの時、もっとわたしが庇っていれば、韓当は自害する事もなかったであろうなと、今でも思っている」
孫権は思っている事を述べた。
「であれば、あまり疑いすぎますと、韓当殿の二の舞ですぞ」
「・・・そうだな。此処は程普を信じるとしよう」
魯粛の諫言を聞き、孫権は疑う気持ちがすっと消えて行った。
その後、攸県の攻城を続けたのだが、孫権の元に次から次へと色々な報告が入ってきた。
曰く、程普の元に見知らぬ者達が頻繁に出入りしている。
曰く、程普が兵を集めている等等という、事ばかりであった。
孫権もこれは自分と程普の仲を裂く謀略だと分かってはいるが、頭の隅では。
(本当にわたしを裏切らないだろうか?)
父孫堅の代から仕えている宿将ではあるが、程普達は事情があるとは言え一時期曹操の元居た事があった。
その縁で、寝返るかもしれなかった。
そんな事はあり得ないと思うのだが、一抹の疑いと不安を拭い去る事が出来なかった。
懊悩する孫権。
その空気が家臣にも伝わり、不安に陥っていた。
その不安は兵にも伝わり、動きに精彩さを欠いていた。
籠城している劉磐達も日を追うごとに、攻撃の勢いがなくなっていくので、何かの策か?と警戒を強めていった。
数日後。
懊悩している孫権の元に、兵が駆け込んできた。
「なにっ⁉ 会稽郡にいる山越が暴れているだと!」
「現地にいる蔣欽様から、敵の数が多い上に勢い激しい為、至急援軍を乞うとの事ですっ」
「ぬううっ。程普と周瑜は何をしている!」
「周将軍と程公は兵を出せば、曹操の襲来に対処できなくなると申しておりました」
兵の答えを聞いて、孫権は二人の判断は間違いではないと思い、怒鳴る事も出来なかった。
兵を下がらせると、傍にいる魯粛に訊ねた。
「魯粛よ。この状況はどうしたらいいと思う?」
「我らが取れる手は二つしかありません。我が軍の一部を将に率いさせて蔣欽の援軍に送る。又は全軍撤退し、柴桑で大勢を整えた後、会稽郡にいる山越を討つしかありません」
魯粛の進言を聞いて、それしかないと思い、孫権は悩んだ。
「殿、どうなさいますか?」
魯粛の問いに、孫権は即答できなかった。