侵攻は
五つ目のレビューを頂けました。
やまちゃん様、ありがとうございます。
なろうで投稿してから、それなりに経ちますが、レビューを貰えるのは嬉しいですね。
柴桑県に三万の兵が集められた。
その軍勢を見た後、魯粛は孫権に一礼する。
「殿。出陣の準備が整いました」
「うむ。周瑜、程普」
孫権が鷹揚に頷いた後、周瑜と程普を呼んだ。
呼ばれた二人は孫権の前に来るなり、孫権は口を開いた。
「周瑜は丹陽郡に赴き、韓綜を含めた曹操の襲撃から備えよ。程普はわたしが居ない間の柴桑を任せる。江夏郡からも侵攻してくるかもしれん。十分に気を付けるのだぞ」
「心得ました」
「殿、戦勝をお待ちしております」
周瑜と程普は深く一礼する。
「これより、劉磐を打ち破る。そして、長沙郡を我らの物とし、その勢いに乗り劉表を討ち取り、父の弔いを果たす!」
「「「おおおおおおおっっっ!!」」」
孫権の檄に将兵は歓声をあげた。
その後、孫権を大将に、参謀として魯粛をその他多くの武将と三万の軍勢と共に柴桑県を後にした。
孫権軍が出陣したという報告はすぐに劉磐に齎された。
「敵は三万か。我らは二万。数の差では大差ないな」
報告を聞いた劉磐は、野戦で打ち破ってくれようかと考えていた。
其処に部下の黄忠が首を横に振った。
「殿、兵の数に差が無いとは言え、兵を徒に失うのは、愚策にございます。すぐに大殿に文を送り、援軍を乞いましょう。我らは援軍が来るまでの間、攸県で籠城しましょう。そして、援軍と共に敵を撃退すれば、大勝利間違いなしにございます」
「そうだな。それでいこう」
劉磐は劉表に文を送り、籠城の準備を始めた。
その最中、黄忠は数千の兵の準備を整えだした。
「黄忠。兵を準備しているが、何をするつもりだ?」
「敵が我らの領地に攻め込んでくるのです。黙って進ませれば、敵に図に乗らせます。一度、敵鼻っ柱を叩きます。さすれば、敵の士気は落ちるでしょうし、籠城の時間を稼げます」
「確かに。そうだな。良し、一万の兵を与える。孫権の心胆を寒からせてこい」
劉磐が一万の兵を与えると聞き、黄忠は手を振った。
「籠城には一人でも多くの兵が必要です。五千もあれば、十分にございます」
「五千だとっ。少なすぎではないか?」
「これでも多いぐらいです。では」
黄忠は一礼し、準備を整え出陣した。
数日後。
豫章郡と長沙郡の境。
孫権軍は敵の襲来を警戒しつつ、慎重に境を超えていく。
先鋒を担っているのは黄蓋であった。
「将軍。先陣が郡境を超えました」
「よし。周囲の警戒を厳にせよ。敵兵の影も見逃す出ないぞっ」
黄蓋に命じられ、兵達は気を引き締めた。
命じた黄蓋も周りを警戒していた。
(程公が来られない以上、孫家三代わたって仕えた宿将として功を立てねばならんなっ)
そうすれば、味方の士気も上がり孫権も喜ぶ。
加えて、韓当が自害した事で未だに文官達から、白い目で見られている黄蓋達の名誉も回復する事が出来るかもしれなかった。
だからこそ、孫権に此度の戦の先鋒を任せてほしいと強く進言し受け入れられ、先鋒を任された。
意気込む黄蓋だが、前方を見ると砂煙が立っているのが見えた。
ひさしを作り、目を細めて注視していると、砂煙の中から兵の姿が見えた。
「敵かっ。者ども、備えるのだ!」
兵の姿を見るなり、黄蓋は得物を抜き、兵達の敵の襲来を告げて備えさせた。
程なく、兵達はぶつかり干戈を交えた。
悲鳴と怒号が響く中、攻める敵兵の中で、一際目立つ鎧を着た者が居た。
パッと見てもわかる程に、かなりの老齢だというのに、その者は得物を振るえば兵を容赦なく切り倒し、馬上で五本の矢を番えるなり、放つと一本も外れる事無く、放たれた矢は五人の兵を打ち抜いた。
「はははは、孫権の兵はこの程度か。これほど弱いとは、あの世で父の孫堅と兄の孫策が泣いておろうぞっ」
弓を掲げながら、大声で告げる老将。
その声を聴いた黄蓋は頭に血をのぼらせた。
「言ったな。貴様、その首を儂が取ってくれるっ」
そう叫びながら駒を進める黄蓋。
向かってくる黄蓋を見て、老将は弓を得物に持ち変えながら訊ねた。
「何者じゃ!」
「儂は黄蓋公覆だ。相手をせよ!」
「あっははは、孫堅の代から仕えているだけで、碌な活躍もしていない老いぼれが。この黄忠の相手にならんわ。せめて、程普を連れてこいっ」
「言ったな、荊州のくそ爺‼ その首をはねてくれるわ!」
「ははは、掛かってこい!」
そして、二人は互いの得物をぶつけ火花を散らした。
数合交えても、疲れる様子もなく刃を交えていた。
二十合ほど交えた後、黄忠は切り上げた。
「ふん。大した活躍もしていない癖にやりおるわ。今日はこのぐらいにしてやる」
黄忠はそう言って、馬首を返して兵の元に行き、そのまま撤退を始めた。
「逃げるか! 者ども、追撃するぞ!」
黄蓋が得物を掲げて、駆け出すと兵達もその後に続いた。
その後、逃げる黄忠を追う黄蓋であったが、途中で隠れていた弓兵の攻撃を受けて、腕に矢が刺さり後退を余儀なくさせた。
逃げる黄蓋の背に、黄忠は嘲った。
「はははは、所詮貴様はその程度よ。悔しければ、腕を磨くがいい。がはははは」
嗤う黄忠に釣られて、麾下の兵達も嗤うのであった。
その後、矢傷を受けた黄蓋であったが、第二陣の味方と合流し治療を受けてすぐに戦線に戻った。




