怪しかったので
孫権が長沙郡の侵攻を決めた頃。
荊州武陵郡漢寿県。
県城内にある屋敷。その一室には劉表の家臣である蒯越が男と居た。
「報告を聞こうか」
「はっ。蔡瑁様は普段通り軍務を行っており、それが終わると御自分の屋敷にお帰りになっております」
「軍務の際、何か不審な事をしていなかったか? 何処かに文を送ったとか?」
「いえ、そのような事をしていませんでした」
男の報告を聞いて、蒯越は唸りながら息を吐いた。
今蒯越と話をしているのは、自分の部下でその者を使い密かに蔡瑁の行動を監視させていた。
何故、そのような事をするのかと言うと、蔡瑁が曹操と通じているのかもしれないと思っていたからだ。
前々から、曹操と知人であるという事を聞いてはいたが、大した交流もないので、敵に通じる事はないだろうと考えていたのだが、襄陽が攻略された頃から、疑い始めていた。
最初籠城を決め込んでいたが、襄陽内にある兵糧が収められている倉が燃やされたが、その場所を知っているのは家臣だけであった。
誰かが、敵に教えたとしか考えられなかった。
それに加えて、襄陽から漢寿から移動する時も、進路に敵はおらず見つかる事無く逃げる事が出来た。
まるで、敵にその道を通る事を教えたから逃げる事が出来た様であった。
一つであれば偶然と言えたが、二つも重なれば偶然に片付けるのは、無理であった。
そんな事があったので、蒯越は蔡瑁を疑い、部下に命じてその行動を監視させていたのだ。
(考え過ぎだったのか? しかし、他に曹操と通じて利益を得る者はおらんしな)
蔡瑁と蒯越は同じ劉琮派であるので、疑いたくはないのだが他に曹操に通じそうな者が居ないので、疑うしかなかった。
特に変な行動をとっていないので、そろそろ監視を止めるかと思っている所に、男が何か思い出したのか告げた。
「そう言えば、昨日ですが。城内にある店に入るのを見ました」
「店?」
「はい。膠飴という屋号でした」
「ふむ。それは何の店だ?」
「飴を売っている様です。蔡瑁様はその店に入った後、城に戻るまでの間に懐から袋を取り出すと、その袋から飴玉を出して舐めておりましたので、どうやら定期的に飴玉を買っている様です」
「飴玉か。甘い物を食べたいだけであろう」
店に入ったと聞いて、何かと思ったが飴を売っている店だと知るなり、蒯越は大した事ではないと思い首を横に振った。
「ご苦労であった。もう監視は止めてよいぞ」
「はっ」
男は一礼し、その場を離れて行った。
「・・・・・・考え過ぎであったが? しかし、偶然がそうそう重なる事などないと思うが」
蒯越の独白した。
翌日。
揚州にいる密偵から、孫権が兵を集めているという報告が齎された。
報告を聞いた劉表はすぐに家臣を集め、評議を行うと共に長沙郡にいる劉磐に警戒を促す様に文を送る。
その後、劉表も兵を集めていると、劉磐から文が届けられた。
孫権、長沙郡に侵攻。
と短いが、意味が直ぐに分かるように書かれていた。
その文を読んだ劉表は直ちに援軍を送る様に指示を出した。
「殿、全軍を送れば曹操が攻め込んでくるかもしれません。此処は文聘殿を出すか、蔡瑁殿を出すか決めましょう」
蒯越は援軍の中核は歩兵なのか、それとも水軍なのか訊ねた。
劉表も暫しどちらを中核にするか考えていると、蔡瑁が口を挟んだ。
「殿、襄陽には水軍はいない様です。此処はわたしを残して、文聘殿を送った方が良いと思います」
「そうだな。文聘」
「はっ」
「話は聞いていたな。二万の兵と共に劉磐を助けよ」
「はっ。承知いたしました」
文聘は答えた後、その場を後にして準備に取り掛かった。




