対応は菓子と共に考える
曹昂に呼び出された劉巴達は部屋に用意されている席に座っていた。
「成程。孫権は長沙郡の侵攻をする事にしたと。モグモグ」
「愚かな。攻め込んだ所で、兵力が削られるだけという事が分かっていないのか? んぐんぐ」
「だが、そうでもしなければ、勢力の拡大は出来ない以上するしかないな。バクバク」
司馬懿と法正と龐統は話しながら、席にある膳に置かれている何かを食べていた。
それは、茶色くてゴツゴツとした丸い球状の物であった。
丸く割れ目があったが、それがまるで笑っている口の様に見えた。
「だが、我らとしては好都合。孫権と劉表が争い、どちらが勝ったとしても、我らには得しかないのだからな。んぐ」
「その通りだ。いっその事、ひっかきまわして長く戦わせて、相手の国力を落とすという手もありますな。もぐもぐ」
劉巴と趙儼も同じ物を食べながら、意見を述べていた。
「成程。争いを長引かせるか。それも悪くないな。バク」
曹昂も同じ物を食べながら述べていた。
曹昂達が食べているのは、開口笑という菓子であった。
材料は小麦粉、卵、砂糖、ベーキングパウダーがあれば出来る物であった。
それらを混ぜて油で揚げて、最後に白ごまを振りかけて出来上がりという物であった。
小麦粉と卵と砂糖は容易に手に入るのだが、ベーキングパウダーはここ最近になってようやく制作する事が出来たので、作る事が出来るのであった。
余談だが、この開口笑は琉球国時代の沖縄に清から伝わったサーターアンダギーの原型とも言われている。
材料も同じな上に、揚げる時に生じる割れ目が、口を開けて笑っている様に見えるから縁起が良い菓子とされている。
「殿、如何なさいます?」
司馬懿がそう訊ねて来た。
唇が油でテカテカしているが、周りの者達も同じ状態なので、誰も指摘しなかった。
「うむ。そうだな。此処は戦況に応じて、横やりを入れるかどうか考えるか」
「戦況が膠着している時に、兵を出して損害を与えるという事ですか」
「そうだ。後は蔡瑁を戦に出さないようにしたい」
曹昂がそう言うと、劉巴達はすぐにその言葉の意味を悟る。
「水軍を取り込みたいのですね?」
「そうだ。どうすれば良いと思う?」
曹昂が訊ねると、龐統が答えた。
「なに、簡単な事ですよ。蔡瑁に曹操の脅威がある以上、水軍を出すのは控えるべきと劉表に言えば、劉表を含めた他の者達は納得して水軍を出さないでしょう」
「よし。それでいこう」
龐統の献策を聞いて、曹昂はそれを行う事にした。
意見を用いられた龐統は嬉しそうに笑みを浮かべつつ、膳に置かれている皿をみた。
其処には、開口笑は無かった。
「なっ、もうないだとっ⁉」
この席に座った時は、食べきれるかと思えるぐらいに盛られていた開口笑が無い事に龐統は衝撃をうけていた。
「この外側のサクッとしているが、中はふわふわとしていて、重みのある食感よ」
「強くない甘味であるから、素朴な感じをさせますな」
「頭を使う時には、良い菓子ですな」
曹昂達はそう話しながら、開口笑を食べていた。
余談だが、龐統は開口笑を気に入った様で、諸葛亮の元に赴き共に開口笑を食べながら、その味の良さを語っていた。




