もうこれしかない
曹昂が陳留に帰還した頃。
揚州豫章郡柴桑県。
城内にある一室。
其処で孫権は周瑜と魯粛と共に意見を交わしていた。
「最早、江夏郡は曹操の支配下に治まりました」
「はぁ、劉備に援軍を送っていれば、完全に失う事は無かったかもしれんな」
魯粛の話を聞いた孫権は、嘆息していた。
あまりに重い溜息であったので、周瑜達は何もいう事が出来なかった。
孫権は改めて、国の地図を見た。
「国内の勢力で残っているのは、劉表、劉璋、わたし、最後に士燮だけか」
と言いつつも、劉表は何とか勢力を保っている状態で、張り子の虎に等しかった。
劉璋は何の行動もしていないが、張魯という近くに厄介な物が居るので、その対処で何もできないと言えた。
士燮に至っては、朝廷に半ば臣従している様なものであった。
「我らも、このままでは袁紹の様に滅ぼされるのを待つだけにございます」
「分かっている。とは言え、山越を討伐して得た捕虜で兵にしても限度があるであろう」
「これ以上、兵を増やすとすれば何処かに攻め込むしかありませんな」
周瑜はそう言うが、何処に攻め込めばいいのか分からず困っていた。
孫権が攻める事が出来る地は、地理的に考えて荊州の長沙郡。揚州の九江郡。徐州。交州の四カ所であった。
交州を支配する事が出来れば、海の交易による莫大な財を得る事も出来る上に、多くの民を兵として得る事も可能だが、その地を得る為に遠征しなければならなかった。
仮に兵を出したとしても、交州を手に入れる前に、曹操か劉表あたりが攻め込んでくるかもしれないので兵を出す事は無理であった。
同じ理由で、徐州と九江郡も無理と言えた。
残るは長沙郡だけだが、劉表の甥である劉磐がいた。
その勇猛さは劉表の家中でも一~二を争う程の驍将で倒すのは、難しいと言えた。
配下の黄忠も勇猛で、余計に攻略を難しくしていた。
「どこを攻めるにしても、曹操か劉表の妨害を受けそうだな」
「何処かに曹操達の妨害を受ける事無く、手に入る領地はないものか・・・」
孫権は贅沢な事を言っているなと思いつつも、そう思うしかない程に状況が逼迫していた。
「曹操と劉表の妨害を受けない土地ですか。・・・・・・無い事はないですが。あそこは難しいと思います」
魯粛は口籠りつつ言うのを聞いた孫権は目を見開いた。
「どこだ。其処は?」
「夷洲です。あそこを攻めるとなれば、曹操も劉表も妨害はしません」
「夷洲か。あそこは瘴気が漂っている土地と聞く。そんな土地を攻めても大丈夫なのか?」
孫権はあの地であれば、曹操も劉表も妨害しないなと思いつつ、手に入れても旨味があるのかどうか分からなかった。
「分かりません。ですが、間違いなく兵力の増強をする事は出来ます」
魯粛がそう述べるのを聞いた、孫権と周瑜はそこだけは同意した。
「殿、どうなさいます?」
「・・・・・・夷洲に攻めるという事は、水軍の戦力を使うという事になる。それでは、敵の水軍の撃退が難しくなる。此処は長沙郡に攻め込んで、劉磐を倒し長沙郡を手に入れるとしよう」
「「はっ」」
孫権の決定に、周瑜達は反対しなかった。
出来ないというのが正しいが、この場にいる者達はそれが分かっているので、口に出す事は無かった。
そして、孫権達は戦の準備に取り掛かった。