裏の事情を知る
誤投稿をしてしまい、申し訳ありませんでした。
数日後。
曹昂は屋敷にある私室にいると、『三毒』が音もなく部屋に入ってきた。
「ご命令に従い、件の朝廷での件を調べました」
「早かったな。それで、今回の温恢達の行いは何故起こったのだ?」
曹昂は訊ねると、『三毒』は重々しく語った。
「はっ。調べました所、此度の件は温恢様方が考えた事ではなく、裏で糸を引いている者がいる事が分かりました」
「やはりか。それで、それは何者だ?」
「華尚書と王諫議大夫のお二人が、温恢様方に囁いたそうです。いずれ、高官に就けると口約束して」
「華歆と王朗の二人が?」
二人の名前を聞いて、曹昂は訝しんだ。
朝廷の重臣ではあるが、二人とも曹操のお陰でその地位に就く事が出来たので、曹操の家臣と言っても過言では無かった。
だが、表向きは朝廷の重臣である事には変わりないので、献帝の権威を損ねる事をするのはするべきでは無いと言えた。
「調べました所、お二人は今の地位では満足できていない様です。其処で地位を上げる為に、献帝の権威を損ねさせ、丞相の威光を強めようとした様です。温恢様方に行わせたのは、自分達が行えば目立つ上に処罰される事を恐れたようです」
「成程な。そういう事か」
外廷の件の裏事情が分かり、曹昂は肩を竦めた。
(王朗がそんな事をしたのか分からないが、華歆なら有り得るか)
三国志演義では、華歆は伏皇后を廃位させる為に暗躍し、献帝を脅迫して禅譲を強要するという悪辣な男として描かれていた。
だが、正史では純潔で徳性を備えた人物として評価されている。
演義では悪辣な男として描かれているのは、曹丕を帝位に就ける為に暗躍したから悪役として描かれる様になったとも言われている。
同時に、人格が卑しいと思われる話も存在する。
友人の管寧と共に暮らしていた頃、畑を耕していると金の欠片が出てきた事があった。
管寧は石ころと思い見る事もしなかったが、華歆はその欠片を持ち上げて見たが、直ぐに投げ捨てたという話がある。
投げ捨てた理由に関しては、管寧の目を気にしたからと言われている。
他にも管寧と華歆があるとき読書をしていた際、家がある県に貴人が通るという噂が流れてきた。
その噂は本当で、馬車に乗った貴人が県を通り過ぎた。
管寧は読書を続けたが、華歆は貴人を追いかけて見に行った。
見物を終えて戻ってきた華歆に管寧は「君とはもう友ではない」と言ったという話がある。
管寧がそう述べたのは、勉学を止めてまで貴人に会いに行くという振る舞いが、高潔ではないからだ。
だから、二人は未だに絶交している。
(まぁ、その内、高い地位に就けるのだから、急がなくてもいいだろう。それよりも)
曹昂としては、それよりも気になる事があるのであった。
「朝議の時、孔融殿の姿は無かったが、どうしたのだ?」
孔融は太中大夫の官位に就いていた。
太中大夫とは詔によって開催された朝議に参加して意見を述べる事が出来る官職であった。
士人(士大夫達の事)達の集まりの中心にいる人物である孔融にはお似合いの官職であった。
「朝議が行われる数日前に、体を壊して寝込んでいるそうです。そのお陰で温恢達が意見を述べても処罰されていない様です」
「確かにな。もし、あの場に孔融殿が居れば噴飯ものだろうな」
温恢達を怒鳴る孔融を想像して、曹昂は含み笑いしていた。
「居ない理由は分かったから良しだな。ご苦労だった」
曹昂は懐から革袋を取り出した。
「今後とも頼むぞ」
「はっ」
その革袋を見た『三毒』の者は、曹昂の下に行き革袋を受け取り、音もなく姿を消した。
そして、曹昂は人を遣わして、華歆と王朗を呼んだ。