実はあまり知らない
数日後。
蔡瑁が送った文が曹昂の元に着いた。
「へぇ、李厳が使者になったのか」
文を読むなり、曹昂は劉表が本気で同盟を結びたいのだと分かった。
李厳は劉表の信任も厚く、幾つかの県の県令を任せられる程に有能であった。
劉表が本気で同盟を結びたいという気持ちが良く分かる人選であった。
「まぁ、同盟を結ぶ事は無いだろうがな」
すでに手は打っているので、問題ないと思う曹昂。
文を読み終えると、誰にも読まれないようにビリビリに破き捨てた。
丁度、文が破き終えると同時に、趙雲が部屋に入ってきた。
「申し上げます。江夏郡の太守が参り、殿にお会いしたいとの事です」
「そうか。すぐに行く」
曹昂は席を立ち、その太守の下へと向かった。
城内にある大広間。
其処に数人の集団が居た。
赴任してきた江夏郡の太守の供の様だ。
その中で先頭にいる一人の男が、特に目立っていた。
年齢は三十代後半で、力強く太い眉毛にいかつい目を持ち、つんけんした面がまえをしていた。
眉毛に見合うように、豊かで蓄えた口髭と顎髭を生やしていた。
体を鍛えているからか、骨太で頑丈そうな体格をしていた。
其処に別室から曹昂が入ってきた。
曹昂を見るなり、その集団は頭を下げた。
その集団を横目で見つつ、曹昂は上座に座りその隣に趙雲が立った。
「面を上げよ」
「「「はっ」」」
曹昂が声に応えて、男達は顔を上げた。
そして、一番先頭にいる男が重々しく口を開いた。
「曹車騎将軍にご挨拶を申し上げます。この度、朝命により江夏郡の太守に選ばれました厳幹。字を公仲と申します」
男こと厳幹は言葉少なく挨拶をしてきた。
「貴殿が新任の太守か。この地は孫権が攻め込んで来るかもしれない土地だ。お主の才覚で防いでほしい」
「心得ました」
曹昂の頼みに、厳幹は深く頭を下げて応じた。
(ふむ。あまり話すのが、得意ではないようだな。まぁ、孫権だけではなく、下手をしたら劉表も攻め込んでくるかも知れない土地の太守に選ばれたのだ。有能でなければ、無理だろうな)
実は曹昂はこの厳幹について、あまり知らなかった。
前世の知識で厳幹について知っている事といえば、三国時代の魏を中心に書かれた歴史書である『魏略』に伝があり、徐庶、李義、張既、游楚、裴潜、趙儼、韓宣、黄朗と同じ巻に収録されている事だけであった。
(いや、確か雍州で活躍した政治家だったかな? まぁ、多分有能なのだろう)
あまり知らないので、この人物については、見た目の印象でしか判断できなかった。
なので、曹昂は江夏郡の太守に推薦した人物の見る目に頼るしかないと思う事にした。
その後は、政務の引継ぎなどをしたが、其処は劉巴達に任せていた。
数日後。
引継ぎを終えた曹昂は軍勢と共に、戦果の報告の為に許昌へと向かった。




