太守が決まるまで
邾県を陥落させた後、曹昂は西陵県に入り各県に派遣した将達の報告を聞いていた。
「順調に県を制圧していっている様だな」
「この勢いであれば、程なく江夏郡を手に入れる事が出来るでしょうね」
隣にいた趙儼も満足そうに頷いていた。
「そうだろうな。だが、問題は手に入れた後だな」
曹昂はどうするのか気になっていた。
「降伏させた蘇飛では、この地の太守を任せるのは、些か難しいだろう」
と言いつつ、曹昂は内心で無理だろうと予想していた。
南陽郡の脅威はないが、豫章郡からの侵攻は考えられた。
周瑜と魯粛を擁する孫権の軍勢を相手に戦える者など、そうそう居ないと言えた。
(・・・・・・そう考えると、黄祖は良く防いでいたな)
意外に有能だったのだろうと思いつつ、曹昂は誰を太守にするべきか悩むのであった。
「・・・・・・朝廷に任せるか」
「それが良いかと思います」
誰も思いつかなかった曹昂は、太守は朝廷に選んでもらう事にした。
趙儼も同意する様に頷いた。
数日ほどすると、派遣していた将軍達が曹昂の下に帰還した。
「皆のお蔭で、江夏郡は我らの手に入った。感謝するぞ」
城内にある大広間にある上座に座りながら、曹昂は家臣に礼を述べた。
「ふっ、わたしが居るのであれば、当然の事。ただ、劉備達を討つ事が出来なかったのは残念だな」
呂布が胸を張りながら言った後、悔しそうな顔をしていた。
「まぁ、劉備は逃げ上手と言われる程に逃げるのが上手い男だからな、討つ事が出来なかったのも無理ないのではないか」
張燕は仕方がないとばかりに言うと、徐盛も口を挟んで来た。
「しかし、劉備の家臣の一人を討つ事ができたのだから、戦果としては十分と言えるのでは?」
「劉備は揚州に逃げ込んだと聞きます。孫権も此度の失態で、劉備を用いる事はしないでしょうな」
沈友も劉備の失態で用いる事は無いと予想してた。
「そうかも知れないな。上手くいけば、孫権は劉備を処罰するかもしれないな」
劉巴は口にこそ出したが、そうならないだろうと思っていた。
「そう上手くいかないであろうな。だが、これで孫権は江夏郡の侵攻が難しくなるでしょう」
司馬懿が今の孫権の状況を考えて、江夏郡に攻め込む事は現状では無理と述べた。
「徐州、九江郡から何時でも攻め込まれ、長沙郡からも何時攻め込まれるか分からないですからね。もう、孫権は江夏郡に攻め込む事は出来ないでしょうね」
そう言い放つ法正は、含み笑いしていた。
「その通りだな。孫権はどうするかは分からんが、今のままでは立ち行かなくなるだろうな」
曹昂としては、降伏してくれると楽なのだがなと思っていた。
「兎も角、暫くの間江夏郡が落ち着くまで、我らはこの地に留まる」
曹昂がそう言うと、誰も異論は無かった。




