それは思っていても言っては駄目だろう
邾県に劉備が居ると情報を入手した曹昂は軍勢を率いて向かった。
時は掛かったが邾県に辿り着いたのだが、城門は閉められ城壁には兵が立っていた。
皆、何処かしら傷を負っており汚れていた。
「ふむ。さて、どうするか」
敵は城を枕に討ち死にを決めた様だなと思う曹昂に劉巴が訊ねて来た。
「殿、どうされました?」
「いや、敵は城を枕に討ち死に決めた様だが、そう見せて罠でも張っているのかも知れないと思ってな」
「それは考え過ぎでしょう。最早、敵は手負いの獣。最後の悪あがきしか出来ないでしょう」
「・・・それもそうか」
劉巴が何をしても問題ないと言うのを聞き曹昂は城の包囲を命じた。
包囲が完了すると、直ぐに攻撃を命じた。
喊声をあげて城へと突撃する曹昂軍。
城壁に居る劉備軍は近付かせない様に矢を放ったが、兵の数が少ない為、ほぼ役に立たなかった。
四半時する頃には、城壁は突破され劉備軍は壊滅した。
少しすると、城内の全てが占領された。
城内にある大広間に辿り着いた曹昂は上座に座り、報告を聞いていた。
其処に麋竺が捕らえたという報告が齎されたので、直ぐに連れて来る様に命じた。
程なく、縄を打たれた麋竺が兵と共に来た。
青白い顔をしているが、目は強烈な意思の光を宿した瞳をしていた。
「まだ、他の者達は見つからないのか?」
「未だに見つかったという報告はありません」
兵の報告を聞き、曹昂の家臣達は何故居ないのか分からず首を捻っていた。
そんな曹昂達を見て、麋竺は突然笑い出した。
「ふふふふふふ、見つからないのは当然よ。既に殿達はこの城を脱出して、揚州に逃げ込んでいるわ」
「何だと⁉」
「では、この地に劉備が居るという情報は、嘘であったのか」
劉巴と趙儼は既に劉備が居ないと聞いて駭然していた。
他の者達も似た反応であった。
「はははは、殿を討つ事が出来ず残念であったな。いずれ、孫権殿の力を借りて、貴様らを討つであろうっ。はははは」
麋竺は高笑いしながら、煽る様に述べた。
それを聞き、劉巴達は麋竺を睨みつけた。
「皆、落ち着け。孫権の下に逃げ込んだ所で、孫権が力を貸すとは限らないだろう。それに、力を蓄える前に、孫権共々討ち取れば問題ない」
曹昂が冷静に言うと、家臣達は確かにと思い落ち着きを取り戻していった。
その様子を見て、麋竺は舌打ちしていた。
「もう言う事は無い。さぁ、この首を取るが良い」
「麋竺。お主の才は此処で殺すのは惜しい。降伏するというのであれば、命だけは助けてやろう」
麋竺の顔を見て、その内死にそうだと思った曹昂は降伏するのであれば、薬師に見せてやる事にした。
その言葉を聞いた麋竺は笑みを浮かべた。
「断る。劉皇叔の家臣で、皇叔の為に死する者は居ても、命欲しさに降伏する者は居ないっ」
麋竺は一喝した。
それを聞いた曹昂は見事な忠誠心だなと思っていたが、呂布が笑い出した。
「ははははは、面白い事を言うな。麋竺よ。なにが、皇叔の為に死する者は居ても、命欲しさに降伏する者は居ないだ。お前の口からその様な事を言うなど、可笑しすぎて腹がよじれそうだぞっ」
「貴様、何を言うかっ⁉」
自分が言った言葉で笑われた麋竺は呂布を睨みつけた。
「お前の弟の糜芳はお前と同じく劉備に仕えていたが、命欲しさに劉表に降伏したと思ったら、孫権に降伏したではないか。何処からどう見ても、命欲しさに降伏しているだろう。お前の言っている事が矛盾しているから笑ったのだっ」
呂布が笑った理由を述べると、指摘された麋竺は、青い顔が徐々に赤くなっていった。
それを聞いて、他の者達もそうだなと思った。だが同時に。
(((それは、思っていても言っては駄目だろう)))
皆心の中でそう思っていた。
麋竺も何も言えないのか、歯噛みしていた。
「ああ、オホン。もう一度聞くが、降伏するつもりはないのだな?」
曹昂が確認の為に、もう一度だけ訊ねうと、麋竺は首を横に振った。
「くどいっ。わたしは弟とは違うっ」
「では、仕方がない。外に連れ出して首を刎ねよ」
「「はっ」」
命を聞いた兵は麋竺を連れて、外へと出て行った。
程なく、麋竺は刑場の露と消えた。
劉備は揚州に逃亡したと分かったので、曹昂は江夏郡を全て支配下に治める為に、将を派遣し各県を攻める様に命じた。
数日後には、江夏郡の全ての県が曹昂の支配下に入った。




