現状を考えて
陳留を発った曹昂軍は南進を続けていき、十数日ほどすると、豫洲と江夏郡の境に辿り着いた。
明日には、江夏郡に入る予定であった。
その夜。
曹昂は家臣を招集した。
軍議を開いている天幕の中で、曹昂を含めた此度の出兵に参加した家臣が集まった。
全員集まったのを見て、曹昂は口を開いた。
「これより軍議を開く」
そう述べた後、劉巴を見た。
劉巴は頷いた後、立て掛けられている江夏郡の地図の前に立った。
「我々は、明日には江夏郡に入る。密偵の情報によると、劉備は安陸県に籠っているとの事だ」
指で安陸県を示すと、呂布が訊ねた。
「籠っているという事は、劉備は籠城すると考えれば良いのか?」
「密偵の報告では、そうなっている。だが、孫権は援軍を送る事が出来ない様に手は打っているので、籠城しても落城は時間の問題となる」
劉巴が呂布の疑問に答えると、皆は納得し簡単だなと思っていた。
其処に地図をジッと見ていた龐統が、何か思いついた様な顔をし、目を見開いた。
「いや、この安陸県の地形を考えると、劉備は籠城はしないな」
龐統の言葉を聞いて、周りの者達は首を傾げた。
「だが、劉備は今一万程度の兵しかいない。孫権の援軍がこなければ、守るのは難しいのではないか?」
徐盛が現状では籠城しかないのではないかと思い訊ねると、龐統は首を横に振った。
「殿の手回しにより、援軍が来れないと分かった後に、籠城する事は徐福は選ばん」
そういった龐統は立ち上がり、地図の傍まで行く。
「劉備は籠城すると見せかけて、城を出るでしょう」
「城を出るという事は、野戦を仕掛けるという事か?」
「いえいえ、違います。一部の兵を伏兵として城内に隠し、他の兵は城外に見つからない様に布陣するのです。そして、我らが安陸県に着けば、城内に誰も居ないと知れば、敵は逃げだしたと思うでしょう。そして、我らは劉備を追撃する為、一晩城内で休みます」
龐統の話を聞き、皆は籠城していると思っていた所に、居ないと分れば逃亡したと思っていた。
「その夜に、隠れてる兵が城に火を放ち混乱させるのです。城外に布陣していた兵は北、東、南から攻撃を仕掛けるのです。それだけで、我が軍は大打撃を受けます」
話を聞き、皆そうなるなと思っている中、龐統は説明を続けた。
「西門だけ開けておくのは、其処から逃亡させる為です。安陸県の西側には、河が流れております。其処の上流に堰を作り、河の流れをせき止めておくのです。其処に、敵の襲撃から逃れた我らを水攻めするのです。その水攻めで大打撃を受けますが、それから逃れた我らを河の浅瀬に隠れている敵が追撃すれば、我が軍は壊滅しますな」
龐統の話を聞き、皆は顏を唸っていた。
「・・・・・・成程。敵は誘引の計を使うか。よくぞ見破った。龐統」
「いえ、ですが。策を見破った所で、城には敵が居ない上に、何処に隠れているか見つけねばなりませんので、大変だと思います」
「其処は兵に城の周りを調べさせるしかないな。まぁ、敵の策を見破っただけで十分だ」
曹昂は、明日安陸県の周辺に兵を放ち劉備軍の兵を見つける様に命じる事にした。
同じ頃。
安陸県の大広間にて、劉備達は軍議を開いていた。
「以上が、現状を考えて、我らが出来る策です」
安陸県付近を描いた地図の前に立つのは、単福こと徐福であった。
諸葛亮が帰った後、徐福は自分の本当の名前を明かし、何故偽名を名乗ったのか教えた。
話をきいた劉備達は事情が分かったので、すんなり納得した。
誰も徐福を追放しろと言わず、今まで通り交流を続けていた。
其処に曹昂率いる軍勢が近付くと聞き、対応の軍議を開いた。
その場で、徐福が策を述べた。
「籠城では駄目なのか?」
「それも悪くありませんが、一つ問題があります。孫権が援軍を送るかどうか分かりません。長沙郡の劉磐、徐州の韓綜、九江郡の劉馥が何時でも攻め込んできます。それらの対応で援軍を送る事が出来ないかも知れません。ですので、孫権が援軍を送れない時は、この策を行う事にしましょう」
「そうだな。それでいこう」
「よぉしっ、ようやく曹操に目に物見せてやるっ」
「腕がなりますな」
「我らの力を見せつけましょうぞっ」
張飛達は意気込むと、他の家臣達も気合を入れていた。
そんな中で、徐福は一抹の不安があった。
(此度攻め込んで来るのは、曹昂率いる軍と聞いている。その中に龐統は居るのだろうか?)
自分と言う友人が居るので、曹昂は裏切るかも知れないと思い、従軍させたのか気になっていた。
(もし、敵軍の中に龐統が居れば、間違いなく負ける)
どうか、陣中に居ないでくれと心の中で願う徐福。
それは友人と戦いたくないという気持ちもあるが、一番なのは居れば負けると分かっているからだ。




