もう遅い
またまたレビューを頂けました。
神箭花飛麟様ありがとうございます。
感謝感激としか言えません!
数日後。
耿文から文を貰った蘇飛からの返事が曹昂の下に届けられた。
文の内容を読むと、曹昂は笑みを浮かべた。
「これで良し。朝廷の上奏は?」
「もう送りましたので、もう少しすれば返事が来ると思います」
隣にいる劉巴が答えを聞き、曹昂は軍の準備をする様に命じた。
命じられた劉巴は返事はしたが、部屋を出て行かなかった。
何か話したい事があると察した曹昂は訊ねた。
「どうした? 何かあるのか?」
「はい。劉備を討つ事になんの異論はありません。ですが、張飛の奥方について問題が」
「問題?」
「はい。張飛の奥方は夏侯淵将軍の親戚でございます。此度の戦で、死ぬような事になれば、夏侯淵将軍を含めた夏侯一族の者達が何か言うのではないでしょうか?」
「そうは言うが。昔、今は亡き陳珪を使者に立てて返還を求めたが、その時は劉備も返還を断った上に、本人も帰らないと口にしているからな。誰を使者に立てても帰ってこないと思うぞ」
「確かに、そうかも知れませんが。殿と夏侯淵殿は親族ですから、其処を考えても一応使者を立ててから攻め込まないと、後から何を言われるか分かりません」
劉巴の言葉にも一理あると思った曹昂は使者を立てる事にした。
(とは言え、誰を立てるか。わたしの配下で適任なのは、龐統ぐらいだな。兵の準備している時に、使者として出せる訳が無い。趙雲は口が上手い方ではないから、使者役は不向きだ。後は呂布ぐらいだけど・・・・・・無理だな。送った瞬間、血祭りにあうかもしれないな)
誰か適任はいないかと考えていると、一人だけ曹昂の頭に思い浮かんだ。
「おおっ、丁度良い者が居た。まぁ、断るかも知れないな。断ったら、適当な者を使者に立てて、返還を求めるか」
「人選は殿にお任せします。では」
劉巴が一礼し部屋を出て行くと、曹昂も部屋を出た。
部屋を出て向かった先には、ある部屋があった。
曹昂は部屋の前に護衛である趙雲を待たせて、部屋に入って行く。
この部屋の主である者は丁度、竹簡を読んでいた。
「先生。少し時を頂けますか?」
「これは、曹州牧。わたしに何用でしょうか?」
竹簡を読んでいたのは、食客の諸葛亮であった。
十数日後。
荊州江夏郡安陸県。
劉備が拠点としている県に、ある人物が訪れていた。
自分を朝廷の使者と言い、劉備にお会いしたいと述べていた。
話を聞いた劉備はすぐに家臣を集めて、大広間にてその使者と共に会う事にした。
病で療養中の麋竺を除いた家臣達全員揃い、劉備は上座に座りながら、使者が来るのを待った。
そして、兵が「使者を連れて参りました」という言葉を聞いて、劉備は鷹揚に構えながら、使者に入る事を許可した。
兵と共に二人の男性が入って来た。
一人は身の丈八尺もある男であったが、劉備達からすれば見慣れない男であった。
その男を見て反応したのは、単福だけであった。
劉備達はその男よりも、もう一人の男の方に意識が向いていた。
もう一人の男は趙雲であったからだ。
「殿、お連れ致しました」
「・・・ああ、ご苦労。下がって良いぞ」
「はっ」
兵を労い下がらせると、劉備は気持ちを落ち着かせる為、息を吐いた。
「・・・・・・久しぶりだな。趙雲、元気そうだな」
「劉備殿もご壮健そうで何よりです」
劉備は挨拶をすると、趙雲も丁寧に返礼した。
「しかし、よく無事であったな。てっきり、わたし達を逃がした後に処刑されたかと思っていたぞ」
「我が殿の温情により、こうして生きております」
劉備の問いに、趙雲は答えると、家臣達がざわついていた。
劉備が手を掲げると、直ぐに静まった。
「そうか。ところで、使者というのはお主なのか?」
「いえ、わたしは護衛です。使者はこちらの方です」
趙雲が手で示すと、男が一礼する。
「この度、使者として参った諸葛亮。字を孔明と申します」
「諸葛亮と申すのか。失礼だが、聞いた事が無い名前であるな」
「世に名が出る事を好まないものでして、知る人は多くありません。其処の徐福ぐらいしかいません」
諸葛亮がそう言い単福を見たが、劉備を含めた皆は首を傾げていた。
「徐福? 誰の事だ?」
「徐福ですか。何処かで聞いたような気がしますな」
張飛は首を動かしていた、誰なのか捜し、馬順は首を捻っていた。
「・・・・・・殿、それについては後で御話しいたします。それよりも、此処は孔明の話を聞きましょう」
「うむ。そうだな。それで、使者殿。何用で参ったのだ?」
「はい。この度、わたしがこの地に参ったのは」
諸葛亮の口から、張飛の妻である夏侯淑姫の返還を求めている事と、朝廷に降伏するのであれば、江夏郡の太守にも任ずる事を述べた。
「今の朝廷は曹操が支配している。朝廷に降伏するという事は即ち曹操に降ると同義。曹操は不倶戴天の敵だ! 断じて、曹操に降る事はせん‼」
劉備が強く宣言すると、家臣達は満足そうに頷いた。
「そうですか。では、夏侯淑姫様の返還もしないという事で、よろしいので?」
「当然だっ」
「もう話す事は無いであろう。帰られよ」
劉備が手で帰る様に促したので、諸葛亮達は互いの顔を見て頷くと一礼し部屋を出て行こうとしたが。
「ま、待ってくれ。孔明っ」
其処に単福が声を掛けて、慌てて止めた。
「徐福。どうかしたのか?」
「ああ、お主はあの草庵に居ると思っていたのに、何故此処に居るのだ?」
単福としては、いずれ劉備に仕えて貰いたいと思ってたので、朝廷の使者として来た事に驚いていた。
単福の問いに、諸葛亮は隠す事ないのかあっさりと答えた。
「ちょっとした縁である方の食客になったのだ。ああ、龐統はその方に仕えているぞ」
「なあっ⁉」
龐統が誰かに仕えたという話は聞いていたが、諸葛亮が食客になっている者に仕えているとは知らなかった様で、単福は目を見開いていた。
「では、縁があればまた会おう。徐福」
諸葛亮はそう言い、部屋を後にした。
その背を単福は、黙って見る事しか出来なかった。