活躍を聞いて
黄祖が敗れ、江夏郡が劉備の支配下に入ったという報は、直ぐに各地に広まった。
当然、漢寿に居る劉表の耳にも入った。
「お、おおお、おのれええ、劉備ぃぃぃぃ!」
劉表は怒声をあげながら、天井を睨みつけた。
睨んだ先には、劉備が居るのかと思う程に、睨みつけていた。
「殿、落ち着いて下さい。黄祖が敗れたのは曹操に対する対処を考えていなかったからです。仕方がありません」
蔡瑁が、劉表の怒りを抑えようと宥めた。
「ぬううっ。それで、黄祖はどうなったのだ?」
「はっ。劉備が捕縛した黄祖様を孫権の下に送ったそうで、翌日には処刑されたそうです」
「くっ、そうか」
兵の報告を聞き、劉表は顔を顰めていた。
長年の腹心の部下を失い悲しんでいる様であった。
「殿、劉備に江夏郡を奪われたという事は、曹操からすれば何の遠慮も無く南征が出来ますし、孫権からすれば長沙郡の対処に専念する事が出来ます。我らにとって、絶命とまでいかなくても危機的状況となりました」
蒯越が意見を聞いて、劉表は直ぐに気持ちを切り替えた。
「そうだな。孫権の事は劉磐に任せておくとして、我らは曹操の対処をすべきだな」
劉表は直ぐに、何処を重点的に守るか、敵がどの様な行動を起こしても対処できる様に評議を開いた。
同じ頃。
蔡瑁軍が撤退するのに合わせて、文聘も撤退を始めた。
曹仁は追撃しようとしたが、満寵が「戦らしい戦をしていないのです。敵は損害はないでしょう。もし、追撃すれば、敵は万全な状態で迎え撃ち、大打撃を与えられます」と言われ、追撃は取りやめた。
そして、襄陽へ帰還している所であった。
その道中で、曹仁は天幕の中で、これからの進路を満寵と話していると、ふと思い出した事があった。
「ああ、そうだ。聞こうと思ってたのだが、すっかり忘れていた」
「どうされました?」
「先の文聘軍との小競り合いをしている時に、ある部隊の活躍が目立っていたな」
「部隊ですか?」
「正確に言えば、その部隊を率いていた者だな。その者は一人で何十人の兵を相手にしながらも討ち取っていたからな。誰なのか分かるか?」
「少々お待ちを」
曹仁の話を聞いて、満寵は直ぐに調べた。
暫くすると、満寵が一人の男性を連れて来た。
年齢は二十代ぐらいで、精悍な顔立ちをしており小さく丸い目を持っていた。
豊かな顎髭を生やしていた。
「その者か?」
「はい。兵達から話を聞きましたので、間違いないかと」
満寵がそう言い、連れて来た男性に目を向けた。
すると、男性は一礼する。
「涼州隴西郡狄道県の牛金と申します」
「ほぅ、牛金と申すか。良き面構えよ」
曹仁は牛金の顔をジッと見つつ述べた。
「しかし、牛姓か。そう言えば、今は亡き董卓の娘婿に牛某という者が居たな。どういう関係だ?」
「はっ。その者は牛輔と言い、わたしと同じ一族にございます。正確に言えば、あの者は嫡流で、わたしは庶流の出でございます」
牛金は自分と牛輔の関係を簡単に話した。
「そういう関係であったか。董卓の娘婿に選ばれるという事は、お主の家は名家なのか?」
曹仁はどうして、その様な者が一部隊を率いているのか分からず訊ねた。
「はっ。今でこそ没落はしておりますが、我が家は光武帝により、太中大夫と護羌校尉に任命された牛邯を先祖に持つ家にございます」
「思っていたよりも名家ではないか。そうか、お主の武勇は見るべき所がある。これよりは、わたしの配下となり武勇を振るってくれい」
「はっ。有り難き幸せにございます」
曹仁が取り立ててくれると聞いて、牛金は喜び頭を下げた。
これ以降、曹仁は自分が抜擢したという事で、牛金の事を重用していき、副将という立場についた。
やがて、曹仁が襄陽に帰還すると、劉備が黄祖を打ち破ったという事を知った。
「劉備め。しぶといのう。とりあえず、曹昂にも一報いれておくか」
曹昂が描いた策により、今回の件で黄祖が敗れたので、知らせた方が良いと思い、人を遣わした。
本作では牛金は180年生まれとします




