戦後処理
馬超軍の武装は解かれ、城内の一箇所に集められていた。
その直ぐ側には刑場があるので、兵達は身体を恐怖で震わせていた。
このままでは、皆処刑されるのではと。
自分達がどうなるのか分からず、戦々恐々としていると、兵達の前に司馬懿が出て来た。
「反乱に与した者達よ。お前達は馬超達に唆されて、此度の反乱に着き従った。そうだな?」
司馬懿が大声で兵達に伝えるのを聞き、兵達は口を開いた。
「そ、そうですっ」
「楊酋長と阿酋長の命令で、仕方が無く」
「ど、どうか命だけは、御助けをっ」
兵達は助かりたいが為に、無様に命乞いしだした。
兵達の必死の命乞いを聞いて、司馬懿は手を掲げた。
すると、兵達は叫ぶのをピタリと止めた。
「よく分かった。では、お主らは仕方が無く着き従ったのだな。であれば、お前達の罪は許そう」
司馬懿が兵達を助ける事を言うので、兵達は喜んだ。
「だが、今後、この地で反乱を起こした時は、この様になると思えっ」
司馬懿が刑場に向けて合図を送った。
程なく、刑場に阿貴とその親族が運ばれてきた。
皆、身なりは汚れ首枷を嵌められ手足も鎖で繋がれていた。
「一族の中で朝廷に反逆した者を出せば、三族皆殺しが我が国の法。その法に従い、氐族の酋長である阿貴とその親族を処刑する」
司馬懿が宣言すると、刑場に控えてた首を斬る役人達が阿貴の親族の側に立った。
そんな中、阿貴だけは首枷を解かれ、木製の台に置かれ腹這いに横たえさせられた。
台には、繋がった刃物があった。
「一族を率いる者でありながら、反乱に与した阿貴の罪は重い。よって、腰斬の刑に処す」
司馬懿が口に出した処刑法を聞いて、兵達も顔を青くしていた。
腰斬の刑とは、罪人の胴体を腰の部分で切断することで死に至らしめる処刑法で、胴体を切断された罪人は即死することはなく、時間が掛る。その間の苦痛が絶大である為、特に重罪人に対して行われている。
この腰斬の刑は 周の時代から存在する処刑法だが、余程の重罪を犯した者にしか行われない。
例を挙げれば、楚漢戦争時代の秦の李斯。『史記』の著者である司馬遷の友人である任安。シルクロード貿易を繁栄させた立役者である班超の孫の班始などが腰斬の刑に処された。
司馬懿が手を振り下ろすと、まずは阿貴が処断された。
台に繋がった刃物が、阿貴の腰を切断する。
「ぎゃあああああああああああっっっ⁉⁉⁉」
腰から下が、何も感じなくなったと思った次には、激痛が走った。
あまりの激痛に阿貴は悲鳴をあげた。
阿貴の悲鳴が響き渡る刑場では、首切る役人が淡々と阿貴の親族の首を刎ねて行った。
「良いかっ。反乱に与した者達はこうなるのだと、肝に刻むのだ。再び、反乱に与する事あれば、お前達の家族を含めた全員が腰斬の刑に処されると思えっ」
阿貴の悲鳴に負けない程の大声で告げる司馬懿。
兵達は阿貴の悲鳴を見聞きしながら、身体を震わせていた。
数刻後。
阿貴は苦悶の表情を浮かべながら事切れた。
司馬懿は阿貴の死体と一族の首を棄市(市中に晒すこと)にした。
翌日。
司馬懿と法正が陳留の帰還の準備を整えていた。
長安にも報告の為に寄る事を考え、兵糧などを計算していた。
其処に兵が部屋に入って来た。
「失礼いたします。王異という者が御二人に会いたいと申しております」
「王異? 何者だ?」
「確か、この城を守っていた趙昂の妻がその様な名前だったと思います」
「趙昂だと? 確かその者は戦死したと聞いているぞ」
「何は話したい事があるのだと思います。どうしますか?」
「・・・・・・とりあえず、話でも聞いてみるか」
司馬懿は、兵に王異を通すように命じた。




