表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
838/955

気持ちは分かるが

 馬超が蜂起した報は、まだ許昌に居た曹操の下にも届いた。

「しぶといのう。馬家の小僧は、河に流されて、そのまま魚の餌になっていればよかったものを」

 曹操は忌々しいと言いたげな顔で吐き捨てた。

 部屋には、曹操の他に荀彧、程昱、郭嘉、荀攸、賈詡の五人が居た。

「辺境に暮らしていたからか、頑丈だったのでしょうな」

「羌族の血を引いているそうじゃからな。そうなのだろう」

 荀彧と程昱は、馬超の頑健さは蛮族の血を引いているからと蔑んでいた。

「その羌族の血を引いているからでしょうな。(てい)族も協力しているとの事です」

 賈詡が事前に聞いていた情報を話すと、郭嘉は困った顔をしていた。

「これは困りましたな。まだ、武威郡の張猛が勢力拡大しております。其処に漢陽郡で馬超が暴れているとなると、長安の夏侯淵殿は対処に困るでしょうな」

「其処に冀州の河間郡にて、蘇伯と田銀が反乱を起こしたそうです。これは対処を間違えると、我らの窮地になるかもしれません」

 郭嘉の言葉に続く様に、荀攸が現状の分析を述べた。

「ふぅ、これでは南征どころでは無いな」

 曹操はどうしたものかと、息を吐いた。

「さて、我が子房よ。この状況をどうするべきか、お主の意見を聞かせてくれい」

 曹操は真っ直ぐな目で、荀彧を見ながら訊ねた。

 どう対処すべきか分からない状況で、意見を求められるという事は、信頼されているという事であった。

 それが分かっている荀彧は暫し考えた。

「・・・・・・此処はまずは反乱が他に飛び火しないようにすべきです。丞相は兵と共に鄴に帰還し、そして蘇伯と田銀を討ち、冀州と幽州の動揺を抑えて下さい。涼州で起きる反乱は夏侯淵殿に任せましょう。無論、ただ見ているだけではなく、援軍を送り援護いたしましょう」

「それが一番良いか。他の者はどうだ?」

 曹操は四人にも、意見はあるか訊ねた。

「いえ、荀彧殿の策が良いと思います」

「冀州は今や我らの本拠。この反乱に動揺し、反乱が他の郡や幽州に飛び火する様な事になれば、大惨事にございます」

「涼州には夏侯淵殿がおりますので、そうそう敗れる事はないでしょう」

「此処は河間郡の反乱を鎮圧し、冀州と幽州の動揺を鎮めた後、情勢を見て対処いたしましょう」

 皆、荀彧の意見に賛成の様なので、曹操はその意見を入れた。

 そして、今度は誰を援軍に送るか話そうとしていると、部屋の外に控えている典韋が部屋に入って来た。

「申し上げます。曹車騎将軍の使者が参っております」

「子脩が。通せ」

 曹操は使者を部屋に通すように命じると、典韋は一礼し部屋を出て行くと、その使者を連れて戻って来た。

「子脩よりの使者と聞いたが、何用か?」

「はっ。詳しくは、これに」

 使者はそう言って、懐に手を入れてゆっくりと出すと、封に入った文を握っていた。

 典韋はその文を受け取ると、曹操に恭しく捧げた。

「・・・・・・ほぅ、あやつも動くか」

 封を破き、中の文を広げて読む曹操は愉快そうに笑った。

「丞相。曹昂殿は何と?」

「夏侯淵に援軍を送るので、兵を出す許可が欲しいそうだ」

 曹操は手に持つ文を、荀彧に渡した。

「・・・ふむ。二万の兵を長安にですか。これだけの兵数であれば、こちらから援軍を送らなくてもいいでしょうな」

「そうだな。しかし、あいつめ。儂が援軍を送る事を読んだのか?」

 だから、この様な文を送って来たのではないかと考える曹操。

「丞相。それは考え過ぎです。曹昂殿は、夏侯淵殿の窮状を察して援軍を送ろうと思っただけだと思います」

 程昱が何処か誇らしげに思いながら、そう述べた。

「確かにそう言えるでしょうな。しかし、曹昂殿は何をどう行動するべきか分かっておりますな。これぞ正に訥言敏行(とつげんびんこう)ですな」

 賈詡が称えだした。

 ちなみに、この訥言敏行とは、立派な人物は口数は少ないが、行動は敏速であるものという意味だ。 

 この言葉は論語の一節が四字熟語になったもので、本来は『君子は言に訥にして行いに敏ならんと欲す』である。

「あいつは確かに。軽々しい事は言わんな」

「昔、呂布に沛県を奪われた時、計略を巡らして素早く奪還しましたな」

「少々問題は起こしますが、軽率な方ではありませんな」

 曹操達は曹昂の事を思い出しながら、その言葉に合っているか考えていた。

 其処に部屋の外に控えていた護衛の兵が入って来た。

「申し上げます。関将軍がお会いしたいと参っております」

「ほぅ、関羽が?」

 曹操は兵に部屋に通すように命じた。

 少しすると、兵と共に関羽を部屋に入って来た。

「丞相。皆様方、お話し中に失礼いたします」

「如何した。関羽よ」

 一礼する関羽に曹操は訊ねた。

「はっ。先程、馬超が蜂起したと聞きました。これは、わたしが取り逃がした事で起きた事です。どうか、わたしめに兵を貸して下され。そして、今度こそ、馬超の首をあげてご覧にいれます」

 関羽が頭を上げて頼みだした。

「関羽よ。お主の気持ちは分かる。だが、既に別の者を送る事が決まっている。済まぬが、諦めてくれ」

 曹操は関羽の忠義に答えたいと思うが、既に曹昂が援軍を送る事を決めているので、これ以上の援軍は無用と思い、その頼みを断った。

「・・・・・・そうでしたか。では、馬超を討ち取る事が出来なかった事への処罰を」

 関羽は処罰を与えて欲しいと、頭を下げて頼みだした。

「罰か。・・・そうだ。南陽郡の太守が儂の一族の者が務めている事は知っているか?」

「はっ。確か、曹休という者と聞いております」

「そうだ。暫く曹休の下に行き、あやつは、まだ若いので至らぬ所があるだろう。其処を言い聞かせて欲しい」

「承知しました」

 暫くの間、曹休の下に付くよう命じられた関羽はすんなりと命を聞き入れた。

 関羽が部屋を辞すると、荀攸が話しかけて来た。

「良いのですか。丞相、関羽を涼州に向かわせれば、武威郡の張猛も討ち取れるかも知れませんぞ」

「そうかも知れんな。だが、曹昂も兵を動かすのだ。大丈夫であろう」

「・・・丞相がそう言うのであれば」

 曹操が問題ないと言うので、荀彧はそれ以上何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
関羽も涼州戦線に投入するかと思ったら。二方面で乱、政情不安になっても分厚い。各個撃破できる戦力あるし。史実曹操ぱっぱみたいにあっちこっち転戦しないでももう一つの頭である曹昂軍団が強力なのもデカい
曹休…確か周魴の罠に引っ掛かって敗北したのが有名(?)な人でしたな。史実の曹操の評価見る感じ才能がないって訳ではないから、髭神から色んなことを学べたら史実より伸びるかも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ