不吉な予言
陳留に立ち寄った曹操は数日ほど留まった。
その間はする事がないからか、飼う事にした王印や孫と戯れたり曹昂に自分の妻妾に対する愚痴を零したりしていた。
だが、兵糧の補給が済むと、その翌日には許昌へと向かった。
見送りの為に、曹昂は城門の外に出た。
ちなみに、曹操の懐の中には、王印が顔だけ出した状態で入っていた。
「わたしの出陣に合わせるのかと思い、寄ったのだと思ったのですが」
「孫の顔を見に、ついでに寄っただけだ。お前も出来るだけ早く来るのだぞ」
「承知しました。父上」
曹昂が一礼し顔を上げると、曹操は馬車に乗り込んだ。
曹操が王印の顎を撫でていると、軍は進軍しだした。
曹昂は軍の最後尾が見えなくなるまで、その場に留まった。
それから、数日後。
曹昂の軍勢もようやく準備が整った。
家族との挨拶を済ませ、城外に出ると軍勢が待っていた。
曹昂は軍勢を見た後、振り返り刑螂を見る。
「では、留守は任せたぞ。刑螂」
「はっ。お任せ下さい」
留守番の為に残した刑螂に声を掛けた後、曹昂は用意されている馬に跨ると、太鼓が叩かれた。
大気を震わせる轟音と共に、曹昂軍は進軍を開始した。
曹昂の馬の足に合わせて、哮天も側をピッタリとくっついて行った。
「別にお前まで付いて来なくても良いのだがな」
「・・・・・・バウ」
曹昂の独白に、哮天は嫌だとばかりに吠えるのであった。
しょうがないと思いつつ、曹昂は苦笑いするのであった。
同じ頃。曹操が軍勢と共に許昌に到着した。
軍勢と共に城内に入り、曹操は丞相府に向かった。
部屋に入ると、既に荀彧が待っていた。
「お久しぶりにございます。丞相」
「うむ。お主も息災の様だな。荀彧」
荀彧と挨拶をしながら、曹操は上座に座った。
座った際に、曹操の懐から王印が顔を出して来た。
「丞相。それは?」
「ああ、此処に来る前に、陳留によってな。その時に子脩が犬を飼っていてな。わたしも偶々気に入ったのを見つけたので、飼う事にしたのだ」
曹操が王印の顎を撫でながら話した。
撫でられている王印は、目を細めて尻尾を振っていた。
「然様ですか・・・・・・」
荀彧は少しの間、王印を見た後、報告すべき事を報告した。
其処に護衛の典韋が部屋に入って来た。
「申し上げます。呉範様が殿に面会したいと参りました」
「呉範が? 通せ」
命じられた兵は一礼し部屋を出て行くと、男を連れて戻って来た。
兵が連れて来た男は、年齢は二十代ぐらいであった。
大柄な目鼻立ちした顔と、付け根になるほど太くなっている眉を持っていた。
身の丈は七尺五寸ほどであった。
この男の名は呉範。字を文則と言い、風の気を読み、占うことを得意としている者であった。
曹昂の推挙で、今は太常の属官である太史丞の職に就いていた。
「丞相。突然参った無礼をお許しを。至急話したき事があり参りました」
「そうか。それで、話したい事とは」
「わたしの占いによりますと、西で乱の気配も感じられます」
「乱の気配だと?」
曹操はどういう意味なのか分からなかったが、とりあえず何かが起こるのだろうと分かった。
「良く報告してくれた。下がって良いぞ」
「はっ」
呉範が一礼し部屋を出て行くと、曹操は荀彧を見る。
「今の占いの話を聞いてどう思う?」
「さて、こればかりはどうなるか分かりません。ですが、呉範殿の占いは良く当たりますので、気に掛ける程度で良いでしょう」
「そうだな。とりあえず、予定通り兵の準備をせよ」
「はっ」
曹操の命を聞き、荀彧は一礼した。
その数日後。
雍州の張猛が雍州刺史の邯鄲商を殺害して反乱を起こすという報が、各地を巡った。