どちらを攻めるか
鄴にいる曹操は家臣を大広間に集めた。
集められた者達は、既に話を聞いている様で特に不審に思っていない様であった。
主だった者達が集まる中、曹操が上座に座る。
一同を見回した後、口を開く。
「・・・・・・南征を行う」
平静な声で告げる曹操。
「「「おおおおおっっっ‼‼‼」」」
南征を行うと聞き、武官達が歓声をあげた。
その声の大きさで部屋が震える程であった。
「既に襄陽には曹仁が居るが。儂も兵を率いるつもりだ。編成については、後日決めるとして。まずは、何処を攻めるか決めるべきだろう」
曹操がそう述べると、荀攸が前に出て一礼する。
「漢寿に居る劉表か。または江夏郡の黄祖のどちらという事ですね」
「そうだ。皆の意見を聞こう」
曹操が意見を尋ねると、夏候惇が口を開く。
「既に南陽郡と南郡の一部は手に入れているとは言え、劉表を攻め込んでいる時に江夏に居る黄祖に攻められるという事になれば、我らが挟み撃ちを受ける事になる。まずは、江夏郡を攻めて、然る後に劉表に攻め込むのが良いかと思います」
夏候惇の意見を言うと、郭嘉も述べ出した。
「夏候将軍の策は堅実ではありますが、江夏郡には孫権の食客である劉備もおります。我らが江夏郡を攻め黄祖の領地を奪ったとしても、劉備が居る土地も奪わねば、我らの隙をついて攻め込んできます。此処は劉表が籠る漢寿に全軍で攻め込み、劉表を討ち取るのです。その後で、荊州の各郡を守る者達に降伏を促しましょう。兵を無駄に動かす必要は無くなると思います」
二つの意見を聞き、曹操はどちらを選ぶか考えた。
その場に居る者達は、どちらの意見を採用するのか固唾を飲んでいた
「・・・・・・良し。決めたぞ。此処は郭嘉の策で行くぞ」
郭嘉の献策を受け入れると述べた後、曹操は告げる。
「各州にも通達をせよ。全ての州の軍が集まり次第、南征を行うぞ!」
「「「はっ」」」
曹操が命じると、家臣達は一礼する。
皆が頭を上げると程昱が話しかけて来た。
「丞相。全軍の集結地は何処にされるのですか?」
「そうよな。陛下に閲兵して貰いたいからな。此処は許昌に集まる様に伝えろ」
「承知しました」
曹操が命じると、家臣達は部屋を後にし南征の準備に取り掛かった。
数日後。
陳留に居る曹昂の下にも、南征を行うので兵を率いて参加する旨が伝えられた。
「いよいよか。さて、どの位の兵を率いるべきだろうか」
曹昂が部屋に居た劉巴に訊ねた。
「五万程で良いかと。後、誰を留守居役にしましょうか」
「そうだな。刑螂で良いんじゃないか」
「分かりました。他の者達は全員連れて行きましょう」
「ああ、そうしよう」
曹昂は足元に居る西藏獒犬の背中を撫でた。
「その犬、お気に入りの様ですね。どんな名ですか?」
「・・・・・・まだ決めてない」
「そうですか。気に入っている様ですので、早く名付けた方が良いと思いますよ」
「う~ん。候補はあるのだが、どうにも良い名が浮かばなくてな」
「まぁ、名付けるのは殿ですので、殿のお好きに」
劉巴は一礼し部屋を出て行く。
曹昂は西藏獒犬の背を撫でながら、どんな名前にしようか考えていた。