犬と一言に言っても
華佗を送り出した数日後。
法正がようやく犬を用意する事が出来たと聞いて、曹昂は軍用鳩の事を知っている者達を集めた。
大広間に集められた劉巴達は話は簡単に聞いている為、特に困惑する様子は無かった。
「鳩では鷹などに襲われる心配はあったが、それを犬で補うか。悪くはありませんね」
「ですが、腹を空かせた者達が食べる為に襲う可能性もありますな」
「其処は鳩と同じ問題でしょう。襲われても問題ない大きい犬にすれば、そうそう襲われる事はないのでは?」
「鳩の訓練も始まったばかり、犬の訓練も並行して行うとなると大変ですな」
自分の意見をぶつけ合う劉巴達。
曹昂はその意見を聞くだけで、何も言わなかった。
やがて、法正が部屋に入って来た。
背後に兵が運ぶ檻車が、後に続いた。
「お待たせしました」
部屋に入って来た法正は一礼した後、顔を上げる。
「それ程待っていない。それで、後ろにある箱の中に居るのかな?」
「はっ。左から順にお見せします」
法正が手で一番左にある檻車を指差した。
毛色は金色がかった茶色で、身の丈は三尺のがっしりした体格で脚は短く、首と胴が太かった。
立ち耳と巻き尾で口角は広いので、短毛のスピッツタイプの犬種とそっくりであった。
「まずは、我が国で飼われている犬です。この犬は警備にも使われておりますので、不審者の侵入に備えて敷地の外につながれております。この犬ぐらいの大きさであれば、人に襲われる心配はないと思います」
法正の話を聞きつつ、紹介された犬は大きさ的に大型犬だと見る曹昂。
「続きまして、この檻の中に入っている犬は南部に住まう犬です」
檻に入っているのは、先程と同じ大きさであった。
全身にしわがあるという特徴的な身体をしていた。
毛色は全身金色がかった茶色一色で、眼から鼻先までは広く短くザラザラとした硬い毛を持ち巻き尾となってた。
この犬はシャー・ペイだと判断する曹昂。
「現地では番犬から闘犬に使われる犬です。こちらは少々気位が高いそうですが、訓練すれば何とかなるでしょう」
「闘犬に使われているのであれば、戦うことになっても大丈夫だな」
流石に戦争には使えないだろうなと思いつつ、曹昂は次の檻を見る。
その檻に入っている犬は、毛量が多くがっしりとした体型をしていた。
立ち耳で口先がやや短くゆるい巻尾をもっており、口から舌を出しているが、その色は青黒かった。
よく見ると、しかめっ面のような顔をしていた。
(チャウチャウだな。確か、青黒い舌を持つと聞いた事があるから)
こうしてみると、熊の様に見えるなと思う曹昂。
「この犬は番犬や猟犬にも使えるそうです。次が最後ですが、これを取り寄せるのに時間が掛りました」
法正が手で示した檻の中に入っている犬は大きさは大型犬であった。
幅の広いがっしりとした頭部に骨太の身体を持ってた。
毛色は深みがある黒であった。
毛量も多く長かった。首周りの毛がまるで獅子の様な鬣の様に生やしていた。
「この犬は益州よりも、更に奥にある高原で住まう遊牧民が牧羊犬や番犬として飼育している犬でして、取り寄せるのに苦労しました」
法正が紹介するのを聞きながら、曹昂はその犬をマジマジと見た。
(チベタン・マスティフだな。これは凄いな)
予想以上に多くの犬を揃えた事に曹昂は驚きつつ、これだけ大きいのであればそうそう襲われる心配は無いなと思っていた。




