反対は認めない
劉磐の襲撃の報を聞いた孫権は、直ぐに軍議を開いた。
そして、周瑜を大将にした二万の兵を送る事が決まった。
出陣の為に兵の編成や兵糧などの準備をしていたのだが、其処に劉磐が撤退したという報が齎された。
その報を聞いた孫権は、怒りのあまり怒声をあげるのであった。
そして、辺りにある物に当たり散らしていた。
暫くして、静かになると魯粛が孫権に話しかけた。
「殿、落ち着かれましたか?」
魯粛が部屋に入ると、彫琢品などが全て破壊されていた。
声を掛けられた孫権は荒く息を吐いていたが、呼吸を整えて席に乱暴に座り込んだ。
ドスンという音と共に座り込む孫権は深く息を吐いた。
「ああ、魯粛よ。これからも劉磐は続くと思うか?」
「まず間違いなく続くでしょう。下手をすれば、豫章郡が切り取られるかも知れません」
「ええいっ、忌々しい⁉ 太史慈はよくあの者を防いでいたなっ」
今更ながら太史慈を失った事の大きさを悟る孫権。
「ええ、その通りです。ですので、殿。此処は太史慈と同じように、建昌に誰かを赴任させて守らせるしかありません」
「ぬうっ、分かっているのだがなぁ」
魯粛の言葉に、孫権は唸っていた。
この様な事態になる前に、誰かを派遣しようと思ったのだが、評議でその事を話しあうと、文官と武官が揉めてしまい話が纏まらなかった。
孫権は対立が深刻化しない様に、宥める事しか出来なかった。
「まさか、韓当の件が此処まで尾を引くとはな」
「大殿の代から、御家に仕えていた御方でしたからな。流石に困りましたな」
二人は困った様に溜め息を吐いた。
其処に部屋の外に控えている護衛が、部屋に入って来た。
「申し上げます。程普様がお会いになりたいそうです」
「程普が。通せ」
護衛が一礼し部屋を出て行くと、程普を連れて戻って来た。
「では」
護衛が一礼し部屋を出て行くのを、程普は横目で見送ると、孫権に一礼する。
「殿、お話し中に失礼します」
「良い。ところで、程普。何を話しに来た」
「はっ。此度の劉磐が襲撃してきた事に御話があり参りました」
「そうか。丁度、魯粛とその話をしていた所だ。程普はどうしたら良いと思う?」
「はっ。誰かを送るという話をすれば、恐らく武官と文官は揉めるでしょう。ですので、此処は殿が任命して派遣させるのが良いと思います」
「むぅ、わたしが決めるか。魯粛、どう思う?」
孫権に尋ねられた魯粛は頷いた。
「流石に家臣達も殿の任命した者に難癖をつける事はしないと思います。問題は誰を送るかです」
「確かにな。程普は心当たりはあるか?」
「それにつきましては、一人心当たりがあります」
「ほぅ、それは誰だ?」
孫権は興味津々で訊ねると、程普は自分を指差した。
「不肖の身でありますが、わたしであれば武官達は納得するでしょう。文官達も殿が任命したとなれば、難癖をつける事はしないでしょう」
「そうか。お主をか。魯粛、どう思う?」
「良き案と思います。程普殿が手を上げれば、文官達は難癖をつけるでしょうが。殿が任命すれば反対もしないでしょう」
魯粛がこれならば良いというのを聞き、孫権は頷いた。
翌日。
孫権は評議の場で、劉磐の襲撃に備え、程普を海昏県に派遣すると宣言した。
それを聞いて家臣達は多くは受け入れたが、一部はしぶしぶだが受け入れた。
もし、受け入れねば主に叛く思われるかもしれないと思ったからだ。
孫権は程普に兵が足りないのであれば、部曲を保有する事を認める事を告げた。
それを聞いて文官達は流石に権限を与え過ぎではと進言したが、孫権は聞き入れなかった。




