罰したいが罰せない
数日が経ったが、未だに法正から犬が手に入ったという報告は来ていなかった。
(まぁ、犬と一言で言っても色々な犬種がいるからな。それらを用意するのも大変だろう)
気長に待つ事にした曹昂。
そう考えていると、趙儼が部屋に駆け込んで来た。
少し慌てているので、何かあったのだと直ぐに分かった。
「失礼いたします。殿、荊州にいる間者からの急報です⁉」
「何かあったのか?」
「はい。長沙郡に居る劉磐が揚州に攻め込んだとの事ですっ」
劉磐が兵を出したと聞いて、曹昂は眉をひそめた。
「蒼梧郡を失ったばかりだというのに、兵を出したのか?」
「どうも、勝手に兵を出したようです」
「ふ~ん。それは軍規に叛くのではないだろうか?」
上手くいけば、劉磐は処罰されるかもしれないなと曹昂は思ったが、趙儼はそうはならないと首を横に振った。
「劉磐は劉表の甥ですし、勇猛な武将な上に太史慈を討ったという功を立てたばかりです。それに豫章郡に何度か攻め込んだ事がありますので、土地勘があります」
「つまり、処罰される可能性が低いか」
「はい。ですので、蔡瑁に働きかけて処罰する様にしますか?」
趙儼がこれを機に劉磐を処分しますかと聞いて来た。
それを聞いた曹昂は暫し考えた。
「・・・・・・いや、しないで良い。劉表は身内に甘い様だからな。蔡瑁がどんなに働きかけても処罰しないだろう」
「分かりました。失礼します」
趙儼は報告を終えたので、一礼し部屋を後にした。
話を聞き終えた曹昂は気を緩めて、座ってる椅子に凭れていた。
其処に、足元からシャーという鳴き声が聞こえて来た
「うん⁉」
何かの鳴き声が聞こえたので、足元を見ると其処には蛇が居た。
曹昂は思わず身を仰け反ってしまい、そのまま後ろに倒れてしまった。
「いたたた、何で此処に蛇が居るんだ?」
身体を起こし、蛇を見る曹昂。
それ程大きくないのだが、部屋に蛇が居る事を不思議に思っていた。
そのまま蛇を見ていると、倒れた音が聞こえた様で部屋の外に居た孫礼が駆け込んで来た。
「殿、何かありましたか⁉」
「いや、何でもない。ちょっと驚いてな」
曹昂が何かを見ているので、視線を辿ると蛇が居るのが分かった。
「ああ・・・・・・丁度今、甄夫人が来られました」
「甄洛が? ああ・・・この蛇、もしかして」
「恐らく、夫人が飼っている蛇だと思われます」
孫礼が言い辛そうな顔をしながら述べた。
それを聞いて、曹昂は蛇を掴み上げて、甄洛の下に行き目を放さない様にと注意した。
同じ頃。
劉表の下では、家臣達が喧々諤々としていた。
「此度の劉磐様の出兵は、殿の許可を取らずに兵を出したのです。これは謀叛に相違ありません⁉」
「劉磐様は孫権の領地を攻め込み、敵の備えがどの程度なのか調べる為に攻めたのだ。謀叛でも何でもないわっ」
「では、殿の許可を求めてからでも良いではないか!」
「何を言う。劉磐様は孫策が揚州を治めていた時から、殿の許可を取らずに豫章郡を攻めていたではないか。此度もそれと同じではないか」
「以前とは状況が違うのだ! 此度の劉磐様の行いは浅慮としかいえないであろう!」
「だが、劉磐様からの報告では艾県、建昌県、建城県、宜春県を落し、多くの戦利品を得たと言うではないか。これは蒼梧郡を失った事で下がっていた士気が上がるであろう」
「たかが、数県落しただけで上がる訳がないっ」
「何故、そんな事が言えるのだ!」
家臣達は劉磐の行いに意見を述べていた。
勝手に兵を出した事で処罰するべきと蒯越が言うと、蔡瑁は此度の出兵の行いを褒めるべきだと述べた。
蔡瑁が劉磐を庇う事を言うのは、曹操側から特に何も言われていない事に加えて、劉表が身内に甘いので、蒯越がなにを言っても処罰しないだろうと思い庇ったのだ。
家臣達の意見を聞いて、劉表は戦果を得たのだから処罰しなくてもよいのではと思うが、軍規に逆らったのは確かなので処分を与えないのは、規律が乱れるとも考えていた。
この後、暫し考えたが、戦果を得たので処分しない事にした。