どうなるか楽しみだ
数日後。
陳留城内にある一室。
其処では、曹昂を含めた多くの者が居た。
「うぷっ、流石にきつくなってきたな」
「これは、なかなかにきついです」
席に座る張燕と沈友は辛そうな顔をしながら、手で口を抑えていた。
他の者達も似たような表情を浮かべていた。
皆が座る席の膳の皿には、何かが乗っていた。
それは円形で、黄色く焼き色がついていた。
表面に模様が描かれており、何かの型を使い焼いた様だ。
模様も様々で、花もあればヒキガエルやウサギなどがあった。
色合いが黄色く円形なので、月を連想させた。
「こ、この、月餅は大変美味しいのですが、中々腹持ちが良いですね」
席に座る劉巴は茶を飲んで、口の中に残る月餅の餡を洗い流していた。
「父上にも送ろうと思って色々と作ったけど、ちょっと脂を入れすぎたかな?」
上座に座る曹昂は口の中が脂っこいと思いつつ述べた。
中秋節が近いという事で、曹昂は曹操に月餅を送る事にした。
送るのであれば、美味しい物を送った方が喜ばれると思い、手が空いている家臣達を呼び試食させた。
皆最初は菓子が食べられると喜んでいたが、食べて行く内に口が重くなっていった。
この月餅は生地にシロップとラードでこねて成形し、餡で包み型に入れて押し付けて模様を入れた後に、型から外して卵黄を塗り焼く。
加えて、今回の餡にはラードを混ぜて作った為、非常に口当たりが重くさせていた。
なので、少しでも軽くさせる為に、鹹鶏蛋(ニワトリの卵の塩漬け)を餡の中に入れた。
「薄い皮を噛むと、普段食べている餡よりも、まろやかさと深みを持った餡が出てきますな。これは豚の脂を混ぜた事で、普段の餡に比べて味に深みをだしているのですな。この皮にも豚の脂だけでは無く、甘みも感じる。皮と餡の甘いのだが、両方とも喧嘩せず纏まっている。そうして、餡の味を楽しんでいる所に、突然不意打ちが襲い掛かる。黄色くねっとりとした食感の中に突然の塩味。その強烈な塩味に驚くのだが、塩味のお蔭で、くどいと思えた餡の味を調和させる。以前塩入の漉し餡羊肝餅を食べた事があったが、あちらの方は味を昇化させていたが、こちらは味を調和させている。塩を入れただけで、此処まで変わるとは、まさに驚きとしか言えない」
月餅を食べて、その味を批評する孫礼。
その批評を聞きながら、前もって鹹蛋を作っていなかったら、もっときつかったのだろうなと思う曹昂。
余談だが、本来の月餅であれば茹でた鹹蛋(アヒルの卵の塩漬け)を使うのだが、アヒルの卵を鹹蛋にする程の用意も準備も無かった。
なので、代用として普段から朝食に使っている鹹鶏蛋を使う事になった。
(ニワトリの卵とアヒルの卵だと、食感が少し違うな)
曹昂は前世で月餅を食べた事がある。
アヒルの卵の方が黄身の味が濃厚だったと思い出していた。
「・・・・・・・もう少し改良した方が良いな」
「同感です・・・」
趙儼が茶を飲んで同意すると、他の者達も頷いていた。
其処に龐統が来た。
「殿、此処に居ると聞き参りましたが・・・」
龐統は周りを見て、皆何か食べているが、辛そうな顔をしているなと思っていた。
どうかしたのかと思っていると、曹昂が訊ねて来た。
「龐統。如何した?」
「はっ。話していた事の準備が整いましたので、報告に参りました」
「そうか。何時頃に結果が出る?」
「そうですな。後数日すれば出るでしょう」
龐統は笑みを浮かべつつ言うので、曹昂も面白そうに笑った。
「では、それがどうなるか楽しみだな」
龐統がどの様な策を行うのか、曹昂は知らなかったが、結果的に劉表の勢力が削れれば良いと思い訊こうとしなかった。