とある絵を見る
曹熊の一件が終わった数日後。
陳留に帰る準備を終えた曹昂。
それが終わると、父曹操の下に向かう。
部屋に向かい、外に控えている典韋に会いに来た事を告げた。
典韋が一礼し、部屋に入って行くと、直ぐに戻って来た。
「どうぞ。丞相がお会いになるそうです」
典韋に入る様に促され、曹昂は部屋に入って行く。
部屋に入ると、曹操は壁に掛けられている一枚の絵を見ていた。
黙ってジッと真剣に見ているので、どんな絵なのか気になり、横から覗いてみた。
絵に描かれているのは、女性が二人描かれていた。
別にあられもない姿が描かれている訳では無く、衣を纏っていた。
二人共、魚や雁も恥じらって姿を隠す程の、あでやかな美人であった。
共に美しい姿であったが、若干違いがあった。
一人は足が大根の様に太く、もう一人は撫で肩であった。
「父上。曹子脩、挨拶に参りました」
「・・・・・・ああ、来たか」
曹昂が声を掛けると、曹操はようやく絵を見るのを止めた。
「父上、そろそろ、陳留に帰ろうと思いますので、挨拶に参りました」
「そうか。これからも職務に励むようにな」
「はっ」
挨拶を終えると、曹昂は掛けられている絵を見た。
「綺麗な女性の絵ですね。誰が描いたのですか?」
「熊だ。まさか、あいつにこの様な才があったとはな・・・」
曹操は感嘆の息を吐いた。
息子に、絵の才能がある事に驚いている様であった。
「それは同感ですね。熊にその様な才があると思いもしませんでした。それで、この絵は誰を描かせたのですか?」
「この絵か? 知り合いの娘達を描かせたのだ」
曹操が話しながら、絵に目を向けた。
「知り合いですか。それは誰ですか?」
何となくだが、知っているかも知れないと覆いつつ曹昂は訊ねた。
「お前は知らんだろうが、橋玄という者だ。わたしがまだ無名であった時に、わたしの才を高く買ってくれたのだ」
「そうなのですか。では、この二人は、そのご息女たちで?」
「そうだ。江東の二喬と言われているそうだ」
「名前は知らないのですか?」
「ああ、教えて貰う前に、橋玄殿が亡くなってしまってな。しかも、橋玄殿が亡くなった事で、家は生業が無くなり一族は離散。その姉妹達は江東に居る親戚の下に行ったそうだ」
「ちなみに、この絵はどうやって描いたのですか?」
「江東に居る間者達に、その姉妹達を探させて、その姿を報告させた。その報告を元に、わたしが熊に教えて描かせた」
「成程。ちなみに、今はどうしているので?」
「姉の方は孫策に嫁ぎ、妹の方は周瑜に嫁いだそうだ」
「そうですか。では、揚州を手に入れた暁には」
曹昂が其処まで言い、曹操を見た。
すると、曹操はニヤリと笑うだけであった。
その笑みを見て、曹昂は直ぐに悟った。
「では、二喬を左右に侍らせて、銅雀台にて、朝タを共に楽しむ事ができれば、さぞ嬉しいでしょうね」
「分かっているではないか。とはいえ、まだ内政に力を入れる時だ。戦を仕掛けるのは、来年か再来年になると思え。それまで、戦を仕掛けるのは控えよ」
「承知しました。では」
曹昂は深く頭を下げた後、部屋を後にした。
本作では二喬は橋玄の娘とします。




