やはり、〇か
丞相府を後にした曹昂は、護衛の趙雲達と合流し私邸へと向かった。
先触れを出さなかった為、私邸に着くと使用人達と家族全員に驚かれた。
屋敷に入ると、そのまま丁薔の部屋へと足を向けた。
廊下を歩いていると、曹昂が来た事を聞いたのか、弟妹達が姿を見せた。
曹丕も姿を見せたので、少し立話をする事にした。
「夫婦の仲はどうだ? 上手くいっているか?」
「はい。ご心配をおかけしましたが、今は夫婦をしております」
既に仲は良くなった事は知っているが、確認の為に訊ねる曹昂。
訊ねられた曹丕は申し訳なさそうな顔をして、頭を下げた後、苦笑いしていた。
その反応から、上手くは言っているのだと理解できた。
「それで、その妻はどうしているのだ?」
「申し訳ありません。今、病に罹っておりまして、部屋で休んでおります」
「そうか。では、会うのはまた今度にさせて貰おうか」
まだ床上げ出来ていないのであれば、会うのは無理と思い、曹昂は手を振り曹丕と別れた。
そして、丁薔の部屋の前に来ると軽く身嗜みを整えた。
整え終わると、部屋の前に居る侍女に声を掛けた。
侍女が部屋に入り、少しすると戻って来た。
「どうぞ。お入り下さい」
「うむ」
侍女の後について行き、部屋に入って行く。
部屋に入ると、室内には丁薔だけではなく卞蓮も居た。
卓の上には茶器が置かれているので、丁度二人で茶を飲んでいる所だった様だ。
「母上。卞夫人。お久しぶりです。曹子脩、参りました」
部屋に入り、曹昂は二人に一礼すると、二人は返礼してくれた。
「御二人共、昔とお変わりないご様子で、嬉しく思います」
「まぁ、何時の間に、そんな歯が浮く様な事を言える様になったの、この子」
「ああ、旦那様に似たのでしょうね。昔はあんなに可愛い子だったというのに」
曹昂の言葉に、丁薔達は揶揄いはじめた。
(何故、わたしの親族は皆、わたしを揶揄うのだろう?)
そう思いつつ、折角来たので雑談に興じた。
そうして話していると、曹昂はふと思い出した事があった。
「あっ、そうだ」
「何かしら?」
「少し前に、貂蝉が懐妊しましたので、報告しますね」
曹昂が話のついでとばかりに言うと、場の空気が凍った。
「あら~」
「・・・・・・子脩」
「はい?」
今迄にこやかな顔で話を聞いていた丁薔の雰囲気が変わった。
それを見た曹昂は何故か、昔怒られた事を思い出した。
「貴方は、・・・どうして、その様な大事な事を事前に伝えないのっっっ‼‼‼」
「え、今伝えたではありませんか」
「貂蝉が懐妊したのであれば、先に言うのが道理でしょう! 母に恥をかかせる気ですか⁉」
「いえ、そういうつもりではっ」
「お黙りなさい。大体、貴方という子は筆不精すぎるから、このような事になるのですよ!」
其処から、丁薔の説教が始まった。
その間、曹昂は謝る事しか出来なかった。
数刻後。
ようやく、説教から解放された曹昂は用意された部屋で休んでいた。
「・・・・・・理不尽だ。そりゃ、伝えるのを忘れていたけどさ」
伝え忘れていただけで、説教を受ける事に不満を零していた。
「・・・・・・まぁ、わたしが筆不精すぎるのが悪いのだけどね」
そう呟いて、溜飲を下げる事にした。
「しかし、今回は無駄足だと思ったが、母上達に貂蝉の事を報告できたから良しとするか」
そう呟いた後、曹昂は考えた。
(今回の事で、情報の伝達が遅かったのが分かったな)
今度の様に重要な情報を早く伝達する方法が欲しいと思う曹昂。
(今までは駅を使っていたが、もっと早く情報を伝達する方法が欲しいな)
此処で言う駅とは、国の中央から辺境にのびる道に沿って適切な間隔で人・馬・車などを常備した施設を置き、施設から施設へと行き来することで逓送し情報を伝え、また使者が交通・通信する為の手段にして制度の事だ。
伝馬制とも言い、この施設のことを「駅」又は「伝」と言われている。
この制度は古く春秋戦国時代には既に出来ており、秦と漢の時代には国中に発達していた。
「馬よりも早いとなると、鳥か」
軍用鳩を今後使う事を思案する事にする曹昂。
陳留に帰った時に、劉巴達に相談する事にした。




