テコ入れしないと
劉磐軍が漢寿県に帰還した数日後。
先の戦いでは戦果は得る事は出来たが、黄祖軍の兵も多く失い、兵糧と武具も直ぐに補充出来る事が出来なくなるほどに失った。
暫く戦を控えた方が良いと家臣達が述べるので、劉表も素直に聞き入れた。
そして、劉磐を長沙郡に戻させて、暫くの間内政に勤める事にした。
その数日後。
陳留の曹昂の下に、先の劉表軍と孫権軍との戦いの結果が知らされた。
「太史慈が討たれた⁉」
報告の途中であったが、曹昂は思わず声をあげてしまった。
「はっ、劉磐の策に嵌り全身に矢が突き立ち戦死したそうです」
「・・・・・・これは想定外だな」
太史慈が討たれるとは思わなかった様で、曹昂は酷く驚いていた。
同時に、劉磐の評価を修正する必要があると判断した。
「しかし、困ったな。太史慈が居なくなったという事は、劉磐の侵攻を抑える事が出来なくなるという事になるな」
太史慈が死んだことで、長沙郡からの侵攻を抑える者が居なくなってしまった。
そうなれば、どうなるのかと言うと、劉備が黄祖軍の攻撃を受けても、孫権はうかつに援軍を送る事が出来なくなったという事になる。
仮に兵を送れば、長沙郡にいる劉磐が侵攻して、本拠に定めた柴桑県が脅かされてしまう。
そうなれば、如何に劉備と言えど、城を守る事は難しくなる。
(このままだと、劉表側に有利な戦況になるな。襄陽辺りに誰か武将でも送って、警戒させた方が良いかもな)
そう考える曹昂だが、これは父に一報を入れた方が良いと判断した。
直ぐに文を認めて、鄴へと送った。
それから更に数日後。
鄴に居る曹操の下に、曹昂からの文が齎された。
「ふむ。襄陽に誰か送り、防備に力を入れるべきか・・・」
文を読んだ曹操は、視線を動かして郭嘉を見た。
「どう見る?」
「はっ。話を聞いた限りですと、将を送るのは賛成です。劉備が敗れれば、次は襄陽を狙う筈ですから」
「そうよな。さて、問題は誰を送るべきかだな・・・」
曹操が頭の中で、家臣の誰を送ろうか考えていると、列に居た沮授が前に出た。
「丞相。襄陽に行く事になりますと、武勇だけではなく厳格に法を遵守し、常に法と照らし合わせて信賞必罰を行なう公正を持ち、時には独自で判断し行動する者でなければ、務まりませんぞ」
「確かに、そちの言う通りだ」
鄴と襄陽はかなり距離が離れている為、曹操の命を聞いているだけでは、好機を逃がす可能性もあった。
同時に、曹操の目が無い事で、麾下の兵が狼藉を働いた場合、法と照らし合わせて罰を与える公正を持っていなければならなかった。
(そうなると、誰が良いだろうか?)
悩む曹操に夏候惇が述べた。
「丞相。曹仁などは如何ですか?」
「なに? 曹仁をか?」
「はい。あやつは昔の乱暴者とは思えない程に落ち着いて、昔の行いを反省して成長しました。今なら、我が軍の将の手本になるほどに厳格に法を遵守し、信賞必罰を行なっております」
「ふ~む。曹仁をか」
夏候惇の話を聞いて、曹操も悪くないのではと思った。
并州で高幹討伐の際、壷関に籠もるのを見て、全ての門を包囲したのだが、その際曹仁は門全て包囲するのではなく、一つ開けるべきだと進言して来た。
そう進言してくるので、軍略に通じて来たのだと分かった曹操は内心、感心していた。
其処に荀攸と田豊も進言してきた。
「わたしも賛成です。曹仁殿であれば、十分に大任を果たせると思います」
「儂も同じです。念の為に、智謀に優れている者を補佐に付ければ、十分に守れるでしょう」
「・・・・・・そうだな。良し。曹仁を襄陽に駐屯させよう。兵は二万で、補佐として満寵と陳矯を付けるとしよう」
曹操の決断に、家臣達は反対せず聞き入れた。
直ぐに曹仁を呼び、満寵と陳矯と共に二万の兵を率いて、襄陽に駐屯する様に命を下した。
曹仁はその命を受けて、準備を終えるなり、出陣した。