戦果は得た
黄祖軍に襲い掛かる張飛、廖化、公孫続隊。
劉備の見立て通り徴兵したばかりの新兵が多い為か、夜襲を受けるなり大混乱状態となっていた。
「逃げろおおおおおっっっ」
「待て、置いて行くな!」
「こんな所で死ねるか‼」
徴発されたばかりで、忠誠心も無く士気が低い為か、兵達は我先に逃げ出した。
黄祖も夜襲を受けるなり、護衛の兵と共に陣地から逃亡していた。
大将である黄祖が既に逃亡しているとは知らない張飛達は陣地を縦横無尽に暴れていた。
「おらあああああっ、黄祖、出て来い‼ 燕人張飛様がその首を貰ってやる‼」
「白馬長史が子、公孫続此処に有り‼ 黄祖よ。尋常に勝負せよ‼」
「黄祖を探せ! 見つけた者には重い恩賞を与えるぞ!」
得物を振るいながら叫ぶ張飛達。
しかし、どれだけ叫んでも黄祖は影すら見えなかった。
陣地の至る所に火が放たれ、大地には多くの兵が苦悶の表情を浮かべながら倒れていた。
好き勝手に暴れていた張飛達は集まり、戦果について話していた。
「雑兵だけは腐る程いたが、黄祖は見つからないな?」
「兵の報告では、まだ見つかっていないとの事です」
「逃げたか?」
「あの野郎。どうする?」
「夜襲は成功した以上、戦果は十分。今から黄祖を探しても見つける事が出来ないでしょう」
「ならば、城に凱旋するとしよう」
廖化が城に凱旋する様に促すと、張飛と公孫続の二人は黄祖を討つ事が出来なかった為、一瞬悔しそうな顔を浮かべたが、直ぐに気持ちを切り替えて城へと凱旋した。
翌日。
辛くも夜襲から逃れる事が出来た黄祖は西陵県の包囲を解き、数十里離れた所で陣地を張り損害を聞いていた。
損害を聞き終えた、黄祖は困った顔をした後、劉磐の下に兵を送った。
暫くして、黄祖が送った兵が劉磐の下に辿り着き、ある報告を齎した。
「なに、劉備の夜襲を受けて軍の被害は甚大の上に、多くの兵糧と武具を失っただと?」
「はっ。真に申し訳ありません!」
劉磐が荒げる声を聞いて、兵は頭を下げて謝罪していた。
「・・・むぅ、これは困った事になったな」
兵の報告を聞いた劉磐は苦みばしった顔をしていた。
孫権軍の迎撃に向かう際、必要最低限の兵糧武具しか持たずに移動していた。
殆どの兵糧武具を黄祖に預けていた。
その黄祖が守る陣地を攻撃された事で、多くの兵糧と武具を失ってしまった。
このままでは、兵糧が尽きてしまう。
更に言えば、黄祖軍は再編成中なので、劉備の進軍を防ぐ事が出来なくなった。
そうなれば、劉磐の軍勢は挟み撃ちにされるのは、明白であった。
「ぬう、黄祖め。何と言う不手際を」
「包囲している事に安堵して警戒を怠ったのであろう。・・・・・・こうなっては仕方がない。黄忠、全軍に撤退を命じろ。持てる物は最低限にして、夜陰に紛れて撤退する」
「宜しいので? 殿が命じられた劉備が籠もる西陵県を落としておりませんが?」
黄忠も現状では撤退が望ましいが、劉表からの命を果たしてない事を懸念していた。
心配そうな顔をする黄忠を見て、劉磐は一笑した。
「問題ない。西陵県を落とすよりも多くの戦果を得られたのだからな」
「それはいったい、何なのですか?」
黄忠の問いに、劉磐はあっさり答えた。
「太史慈の首だ」
劉磐がそう言うのを聞いても黄忠は、それがどの様な戦果になるのか分からなかった。
晒し首にしてから、夜になると孫権軍の決死の兵が太史慈を奪還しようと潜り込んできたが、全て返り討ちにした。
そろそろ、腐敗しそうなので、塩漬けにして壺の中に入っていた。
「殿に報告すれば分かる。それよりも、早く撤退の準備に取り掛かれ」
「はっ」
劉磐の言葉の意味は分からなかったが、戦果になると言うので、黄忠は命に素直に従った。
準備をしたその日の夜、篝火や天幕や陣地などはそのままにして、劉磐軍は陣地から撤退した。
勿論、太史慈の首が入った壺はしっかりと積み込まれていた。




