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蔡瑁が文を出して、十数日後。
ある軍勢が、漢寿県に到着していた。
その軍勢を率いていた者は、部将である黄忠を連れて劉表に謁見した。
「殿におかれましては、ご健勝の様で何より」
ようやく床上げが出来た劉表に、その者は挨拶していた。
年は三十代半ばで、骨が太く鍛えられた身体をしており、その身体に見合うように頑丈で男性的な顔をしていた。
こわく突っ張った口髭を生やし、梟の様に大きな目を持っていた。
この者は劉表の従子にして、長らく長沙郡を部将の黄忠と共に守っていた劉磐その人であった。
「よくぞ来た。お主のお蔭で、長沙郡を孫権から守る事が出来ている。儂はその様な事を出来る者が親族におり、嬉しく思う」
「有り難きお言葉にございます」
劉表の言葉を聞いても、劉磐は顔を緩める事無く引き締めていた。
「さて、お主を呼んだのは他でもない。今我らが取り巻く状況は知っておろう?」
「はっ。襄陽は曹操に奪われ、黄祖が守る江夏郡は度々孫権の攻撃を受けている上に、西陵県は劉備が籠もっていると」
劉磐が今置かれている現状を話すと、劉表は無言で頷く。
「そうじゃ。今襄陽の県令をしている李立など、儂の部下でありながら、その忠義を忘れ曹操の手先に成り下がりおったっ。劉備も、曹操との戦いに敗れ、保護してやったというのに、その恩義を忘れ儂の領地を奪い独立を図ろうとして、失敗すると今度は孫権の走狗になりおったわ。どいつもこいつも、忠の意味も知らん不忠義者共よっ!」
劉表は話している最中で、怒りを思い出した様で、言葉に怒りをにじませていた。
空気が張り詰めて行く中、劉磐は頭を下げた。
「殿のご命令とあれば、李立であろうと劉備であろうと、討ち取ってみせます!」
「よくぞ言ったっ。お主には、襄陽を攻め取って欲しい」
劉表がそう言うのを聞いた蔡瑁は内心で、まずいと思った。
(殿は襄陽の土地を殊の外気に入っておられたからな。それを奪還したい様だ。如何に要害と言われる襄陽であろうと、李立では劉磐の相手はまず敵わないだろう)
李立では劉磐の相手にならないと思った蔡瑁は口を挟んだ。
「殿、襄陽に攻め込む事には反対はしません。ですが、まだ時期尚早かと」
「何を言うかっ。襄陽は我らの本拠ぞ! 一刻も早くあの土地を曹操の手から奪還するべきであろうっ」
蔡瑁の言葉を聞いて、劉表は怒髪天を衝くばかりに怒っていた。
怒る劉表に蔡瑁は冷静に声をかけた。
「わたしは別に襄陽を攻め込む事に反対はしておりません。劉磐様の勇猛さを疑っている訳でもありません。ですが、もっと確実に襄陽を取れる方法があるではありませんか」
「なにっ?」
蔡瑁が襄陽を取れる方法があると聞いて、劉表は少しだけ怒りを抑えた。
そして、気持ちを整える為に息を吸った。
「それはどの様な方法だ?」
「簡単な事です。まずは劉備を討つのです。劉備さえ討てば、江夏郡の黄祖は襄陽攻めに加わる事が出来ます。劉磐様の軍勢と黄祖の軍勢が攻めれば、如何に襄陽と言えど落とすことが出来るでしょう」
蔡瑁の説明を聞いて、劉表も悪くないと思った様で頷いていた。
「確かに、その方法であれば間違いではないな。良し、それでいくとしよう」
劉表は蔡瑁の提案を聞き入れて、まずは劉備が籠もる西陵県に攻め込む事に決めた。
侵攻先が襄陽から西陵県に変わった事に、蔡瑁は安堵していた。
(これで、少しの間時間稼ぎは出来るな。後は劉備次第か)
西陵県がどれだけ持ち堪えるかは、全ては劉備の手腕に掛かっていた。
蔡瑁は出来るだけ長く持ちこたえろよと思いつつ、評議の議題を聞いていた。




