文が届いた
陳留に居る曹昂は情報の整理をしていた。
「河北四州、涼州、雍州、司隷、兗州、徐州、豫洲に南陽郡を完全に支配下に置き、南郡の半分は我らの支配下に入っている。揚州は孫権、荊州は劉表、益州は劉璋が治めている。交州は士燮が治めているが、朝廷に従っているので敵と考えなくても良いな」
地図を見つつ、曹昂は色付けしていく。
曹操の支配に入っている州は赤色。孫権達は敵対勢力という事で、治めている州は纏めて黒色に塗りつぶしていた。
交州だけは塗りつぶさない。敵とも味方とも言えない士燮が治めている為だ。
更に荊州のある地点に白の碁石を置く。
それは、劉備が其処に居るという意味を示していた。
「馬超は何処にいるのか分からないので、生死不明という事にしておこう」
そう呟いた曹昂は、改めて地図を見た。
(父上は何時頃、荊州に攻め込むつもりなのだろうか? 今年はもう侵攻しないだろうから、来年かもしくは再来年か?)
その内に鄴に訪ねて聞こうと思いつつ、曹昂は石を取り地図を丸めて置き場所におくと同時に、使用人が部屋に入って来た。
「失礼します。ご主人様に文が二通届けられました」
「そうか。ご苦労」
曹昂が使用人から文を受け取ると、使用人は一礼し部屋を出て行った。
そして、一人になると、最初に封に入った文を広げた。
「・・・・・・父上からか」
最初に広げた文は父である曹操が書いた物であった。
文には挨拶の他に、馬超の事が書かれていた。
「へぇ、崖から飛び降りて、行方不明になったのか」
文の最初の方を一読するなり、呟く曹昂。
馬超に懸賞金を掛けつつ、密かに三毒を派遣して調査させていた。
調査の結果、馬超は行方不明という事が分かったが、流石に崖まで追い詰められて飛び降りたという事までは分からなかった。
その後、関羽についての活躍について事細かく書かれていた。
最後に至っては、こう締めくくられていた。
『張飛と互角の武勇を持つ錦馬超と言えど、美髭公の知勇に敵わんようだ。これ程の者を部下に出来るとは、わたしは幸運だな』
と書かれていた。
その一文を読んだ曹昂は苦笑いしていた。
(馬超を討ち取る事は出来なかったのに、父上は嬉しそうだな)
と思いはしたが、生きていたとしても大した事は出来ないから良いかと考える曹昂。
そして、次の文を開いた。
こちらは封に入っておらず、折りたたまれているだけであった。
「こっちは、蔡瑁殿か。なになに、劉表が劉磐を呼び寄せて、何処かに攻め込む模様。劉磐か・・・・・・」
蔡瑁の知らせを読むと、曹昂は思案していた。
(劉磐って、劉表の甥という事と驍勇な武将という事しか知らないんだよな)
孫策が生きていた頃に揚州にたびたび攻め込み活躍したが、太史慈が建昌に赴任すると、何度か建昌に攻めたのだが落とす事ができなかった為、以降侵攻を止めたという事しか知らなかった。
「劉磐はどちらかと言うと、本人よりも部下の黄忠の方が有名なんだよな」
元々黄忠は劉表の部下なのだが、劉磐が長沙郡の守備に着くと、配下として付けられていた。
曹昂は一度だけ会った事があるが、それなりの歳だというのに背筋はピンと伸びており、老いを感じさせない人物であった。
「呼び寄せるという事は何処かに攻め込むという事だよな。何処に攻め込むつもりだ?」
揚州に攻め込むのであれば、わざわざ呼び寄せず兵を送って攻め込む様に命じれば良いので、揚州攻めは除外した。
そして、曹昂が考えに考えた結果、劉磐が攻める地は二か所という考えに至った。
「李立が居る襄陽か。劉備が籠る西陵のどちらかか」
其処まで思い立ったが、流石にどちらに攻め込むかは分からなかった。
「一応、李立には警戒する様にと文を出すか」
今の曹昂には、その程度の事しか出来なかった。




