双竜の対談
考える時間が欲しいという事で、曹昂は数日後にまた来るので、その時に返事を聞かせて欲しいと言い、その場を後にした。
庵にある一室で一人熟慮する管寧。
提示された話は魅力的であったが、一生に関わる問題である以上、悩むのは仕方が無いと言えた。
『もし、管幼安殿』
悩んでいる所に、扉越しに声を掛けられている事に気付いた。
その声を聞いて、誰か来たのかと思い、管寧は立ち上がり部屋を出ると、其処に居たのは二十代前半の男性であった。
出て来た管寧に男性は一礼した。
「どなたかな?」
「わたしは姓は諸葛。名を亮。字を孔明と申す者です。先程お会いになられた曹子脩殿の供の一人にございます」
「ふむ。そのお供の方が何用で?」
「世に名高き管幼安殿とお話がしたいと思い参りました。少し、お話をさせて頂けると幸いです」
そう言い諸葛亮は、頭を下げて来た。
話しぶりから、どうやら学問について話がしたいのだと察した管寧は丁度よいとばかりに頷いた。
(一度、違う事をして気持ちの切り替えをしてみるとしよう)
そうと決めると管寧は、諸葛亮を部屋に招いた。
数刻後。
管寧の庵の一室からは、様々な書物についての談義が行われてた。
「ほぅ、孔明殿は優れた見識をお持ちですな」
「いえいえ、わたしなど、今の立場になるまで書物を読み続けていただけで、身についただけですので」
談義したお蔭で管寧は諸葛亮に対して親しみを持つ事が出来た。
同時に優れた知識を持っているので、感心していた。
その際に、自分が荊州に居た頃に管仲と楽毅に比していたという戯言を述べていたという事も話していた。
それを聞いた管寧は怒る事は無かった。
(この者はいずれ大物になる)
一目見て、話をしてそう悟ったからだ。
いずれは自分の先祖に負けない位の大功を立てるかも知れないと思い、怒る事は無かった。
「・・・・・・孔明殿は子脩殿をどう見ておられるので?」
話をして諸葛亮の人となりが分かったので、管寧は思い切って曹昂をどう思っているのか訊ねてみる事にした。
「・・・そうですな。有り体に申せば、優れた器量を持っている御方ですな」
「ほぅ、何故そう思われる?」
その問いかけに、諸葛亮は語りだした。
「一つはその麾下に置かれる者達です。父君の麾下に負けない程の多士済々です。特に有名なのは、あの呂布奉先を配下にしている事です」
「ふむ。風の噂で曹操殿の軍門に下ったと言う話は聞いている。その者が何か?」
「呂布は義父である丁原、董卓を殺し父と主君殺しという罪を犯しました。曹操殿ですら、その武勇に一目を置くものの、何時裏切るか分からない為、処刑しようとした所を子脩殿が止めて配下にしました。以来呂布は恩義を感じてか裏切る素振りを見せません。これは即ち、父君よりも器量が勝る証拠です」
「成程。確かにそう言えるな」
「そして、孝に厚い御方であります。人伝に聞いた話なのですが、ある戦で父君が敵の罠に掛かり命の危機となった時は、兵を率いて父君を助けたそうです。また、昔父君が董卓の暗殺に失敗し逃亡している中、一人董卓の下に赴き、董卓を騙して、父君に追手が掛からない様にしました。これは孝に厚いと言えます」
諸葛亮の話を聞いていた管寧が、口を開いた。
「孔明殿はまだ食客と聞いている。いずれは、お仕えするつもりなのか?」
「それは分かりません」
管寧の問いかけに、諸葛亮は笑みを浮かべながらきっぱりと答えた。
今迄、称賛していたので、その内正式に家臣になるのだろうと思っていたので、少々拍子抜けしていた。
「まだ見極めている最中ですので、仕えるに値しないと思えば辞するだけです。もし、仕えるに値するのであれば、その時は家臣になるだけです。ただ」
諸葛亮はそう言った後、少し間を開けた。
「平定して間もない襄陽から三度もわたしの家に訪ねたのです。もし、意見を求められれば、答える事はしても良いとは思っております」
そう答える諸葛亮。
だが、その顔は何処か楽しそうであった。
数日後。
曹昂が管寧の下に訪ねた。
管寧は仕官する事に決めたと述べると、曹昂は目が飛び出そうな程に驚いていた。