興味があると
許昌宮での一件は、後宮の中という閉鎖空間であった事が、良かったのか、外に漏れる事は無かった。
ただ、伏皇后が病に臥せっているという噂だけ広まっていた。
城内に居る者達は、皇后の病状はどうなのか色々と話していた。
ある者は妊娠したのかも知れないと言えば、ある者は重い病に罹っていると言っていた。
どれが真実なのかは、誰もわからなかった。
許昌にそのような噂が流れている頃、曹昂の下にある報告が齎された。
「おお、そうか。会いに来てくれたかっ」
「はっ。今は青州北海郡の朱虚県にある自宅で長旅の疲れを取っております」
「いやいや、来てくれただけでも十分だ。よくやってくれた」
曹昂は報告した者を労った。
弾んだ声でそう述べるので、余程喜んでいる様であった。
そう喜んでいるのは部下にしたいと思っていた管寧が曹昂の要請に応じて、遼東から来てくれたのだ。
正直な話、要請に応じてくれないのではと思っていた。
学者肌の人物なので、政治よりも勉学か本に触れている方が良いと思い断るとも考えていたからだ。
(良く応じてくれたな。まぁ、華歆が推薦したから嫌がって推挙を辞退したという話もあるからな)
だから、応じてくれたのかもなと思ったが、会ってから聞けば良いと思い、直ぐに旅支度をした。
連れて行く護衛を選別し、行程や十分な糧食を準備していると、孫礼が部屋に入って来た。
「殿、お急ぎの所申し訳ありません。お会いしたいという者が来ております」
「客か? 今日は誰かと会う予定は無かったはずだが?」
曹昂は頭の中で、今日の予定を思い出していたが、客に会う予定は無かった。
「それで、誰が来たのだ?」
「諸葛亮殿です」
「うんっ?」
孫礼が出した名前を聞いて、曹昂は目を剥いた。
荊州から共に来てからは、諸葛亮は友人の龐統や劉巴、趙儼と言った文官達と交流していた。
驚いた事に、司馬懿が時折訪ねているそうだ。
何をしているのかと聞けば、茶を飲みながら色々な話をしたり、碁を打っていると教えてくれた。
その話を聞いた時、勝率はどっちが高いのだろうか気になりはしたが、交流に水を差しそうなので聞くのを止めた。
「さて、何の用で来たのか? まぁ、聞けばいいか。通せ」
「はっ」
命じられた孫礼が一礼し、その場を離れた。
そして、直ぐに諸葛亮を連れて戻って来た。
「これは孔明殿。今日はどうされました?」
挨拶を交わした後、曹昂が訪ねて来た理由を直球で訊ねた。
別段、腹の探り合いをする事もないと思い、回りくどい話などせずに簡潔に訊ねた。
「はい。何処かに出掛けると耳に挟みまして、もし鄴に行くと言うのであれば、付いて行こうと思いまして」
諸葛亮の口から出た地名を聞いて、曹昂は訪ねて来た理由を直ぐに察した。
「師匠であられる司馬徽先生にお会いになるのですか?」
曹昂の問いに、諸葛亮はにっこりと正解とばかりに笑みを浮かべた。
「はい。先生が朝廷に仕える事になったそうですので、挨拶に行きたいと思いまして」
「そうですか。だが、申し訳ない。わたしが向かうのは、冀州では無く青州なのだ」
「青州ですか? 何かするおつもりで?」
「ええ、丁度管寧という方がわたしの要請に応じて、青州に居るのです。その方に会いに」
「管寧ですか。その方はもしや、竜と例えられたあの?」
「そうです。その方です」
曹昂がこれから会いに行く人物を教えると、諸葛亮は興味を掻き立てられたような顔をしていた。
そして、頭を下げて頼み込んで来た。
「不躾な事ですが。わたしめも、その供に加えて頂けないでしょうか?」
「はて、孔明殿は管寧殿とはどのような関係で?」
「一度もお会いした事はありません。ですが、管寧殿はかの有名な管仲の末裔と聞いております」
「そうらしいですな」
「是非とも、お話を聞きたいと思います。ですので、どうか」
諸葛亮が熱意を込めた目で頼んで来た。
あまりに強く、誠意を込めて頼んで来るので、曹昂も断れなかった。
(まぁ、一人増えても問題ないか)
そう思い、同行を許可した。
諸葛亮は顔を明るくして、感謝の言葉を述べた。
数刻後。
曹昂一行は陳留を後にした。