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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第二章

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洛陽を脱出した曹操はと言うと

 曹昂が董卓に重用されている頃。

 洛陽を脱出した曹操は王允が紹介してくれた中牟県で県令をしている陳宮という者に会いに行った。

 その陳宮は年齢は四十代ぐらいで鋭い眼光で理知的な光を宿した瞳を持っていた。

 立派に生やした口髭を持ち骨太な顔立ちをしていた。

 陳宮は突然訪ねて来た曹操を訝しみながらも王允の手紙を読んだ。

 そして、陳宮は手紙を読み終えると曹操に訊ねだした。

「孟徳殿。貴殿は董卓将軍に重く用いられていた筈だ。何故、この手紙に書かれた様な事をしたのだ?」

 その手紙には『君がこの手紙を読んでいるという事はどうやら孟徳殿は董卓の暗殺に失敗した様だ。孟徳殿は天下の為に立ち上がったのだから、義士である。手助けをしてあげてくれ』と書かれていた。

 陳宮からしたら幾ら日頃から親しくしている王允の手紙とは言え見ず知らずの人間を手助けする程人が良い訳では無かった。

 曹操も陳宮の視線から何が言いたいのか察して胸襟を開く事にした。

「では、答えよう。私が董卓に仕えたのはひとえに国を助ける為。都で暴虐の限りを尽くす逆臣を取り除くのは漢室の忠義の為だ。断じて傍若無人に忠誠を誓ってはいない。その為に董卓の暗殺を謀ったが、天運、我に味方せず果たせなかったが故郷に帰り義兵を募り都へと攻め上がるだけの事だ」

 曹操は自分の構想を陳宮に一片の嘘も混ぜないで話した。

 陳宮は曹操の目をジッと見る。

 その目は本気だと直ぐに分かった。

 陳宮は内心でこの者であればと思い曹操の手を取った。

「孟徳殿。貴方の心意気には深く感じ入りました。この陳宮公台は貴方に力をお貸ししましょう」

「おお、此処に天下を憂う同志がいるとは」

 曹操は陳宮が助けてくれると聞いて陳宮の手を握り返した。

 そして、二人は厩舎にある馬に乗り中牟県を出て行った。


 中牟県を出て行った曹操達は成皋県へと向かった。

 其処には曹嵩の友人の呂伯奢の屋敷がある。其処で一度休憩を取って其処から故郷の譙県に向かい兵を募ろうと考えていた。

「孟徳殿。一つ腑に落ちない事があるのだが」

 陳宮が呂伯奢の屋敷へ向かう道すがら曹操に訊ねた。

「何かな?」

「貴殿は董卓を暗殺しようとしたようだが、今になっても人相書が出回っていないのは何故でしょうか?」

 陳宮が王允の手紙を読んで直ぐに助けようとしなかったのはそれもあったからだ。

 董卓の暗殺を企てたのならば、直ぐに人相書が出回ってもおかしくない筈だ。

 それなのにそんな人相書など出回っていなかった。

 流石におかしいと思う陳宮であった。

 だが、曹操は顎を撫でながら何となくだがそうなった要因を話す。

「恐らく私の息子が何かしたのだろう」

「貴殿の息子がですか?」

「うむ。曹昂と言ってな。親の贔屓目を無視しても良く出来た息子だ」

「左様ですか。その曹昂とは幾つですかな?」

「今年で十四になる」

 曹操から出た年齢を聞いて陳宮は吹き出した。

「孟徳殿。十四歳の子供が董卓を言いくるめる事が出来るとお思いで?」

「それは分からんが。しかし、未だに追手が掛からないところを見ると恐らく息子が何かしらの手段を使っているという事だろう。董卓は息子の事を気に入っていたからな」

「その曹昂は董卓とは会った事があるのですか?」

「うむ。黄巾党の戦の時にな」

「五年前という事になりますな。そうなると……九歳という事になるな。貴方は九歳の子供を戦場に連れて行ったというのですか⁉」

 陳宮は董卓が曹昂が気に入った理由よりもそちらの方に驚いていた。

「あれを尋常な九歳と考えない方がいいぞ。公台殿」

 自分でも曹昂の才能を知らなかったら陳宮と同じ位に驚くだろうと思いながら笑う曹操。

「う~む。機会があれば会ってみたいものですな」

 そう話していると曹操達は呂伯奢の屋敷に着いた。

 呂伯奢は訊ねて来た曹操を歓待しつつ、どうして来たのか訊ねて来た。

 曹操は此処に来た理由については父の顔を見る為の里帰りのついでに寄ったと嘘を付いた。

 曹操がした事を知らない呂伯奢はすんなりと信じた。

「今宵は宴を行うので、それまで一休みするといい」

「はい。ありがとうございます」

 使用人に案内されて曹操達は一室に通され一休みした。

 長い間、馬に乗っていたので身体は疲労の極致であったので曹操達は寝台に横になるとそのまま眠りについた。


 眠りについた曹操は暗い闇の中に居た。

(何処だ。此処は?)

 そう思いながら歩ていると突如、闇が晴れると自分の目の前に椅子に座っている董卓が現れた。

「董卓⁉」

 曹操は董卓を見るなり腰に佩いてある剣を手に掛けようとしたが、其処にはある筈の剣が無かった。

「曹操。儂があれほど可愛がってやったというのに儂を暗殺するとはこの恩知らずめっ」

「お前みたいな逆賊に仕えた覚えなど無いっ」

 曹操は剣が無い以上、こうなれば素手で董卓を殺すしかないと思い足に力を入れるが、足が全く動かなかった。

「これはどうした事だ?」

「ははは、曹操。儂を暗殺しようとした報いを受け受けるが良い!」

 董卓が手を掲げると、曹操の横から縄で縛られた卞蓮と曹昂の二人が現れた。

「蓮⁉ 昂⁉」

「旦那様!」

「父上っ、申し訳ありません!」

「ははは、最期にこうして会わせてやった情けをありがたく思うが良い。お前達、この二人を痛め付けてから殺せっ」

「「はっ」」

 曹昂達を縛っている縄を持っている兵達が手に棒を持って曹昂達を叩きだした。

 二人の悲鳴と肉打つ音が曹操の耳を襲う。

 二人の血が曹操の目を絶望へと叩き落とす。

「やめろ、やめろ、やめろっっっっっっ‼」

 どれだけ叫んでも足は動こうとしなかった。

「はははは、貴様は殺さないでやる。貴様は儂の暗殺を失敗したという屈辱を抱えたまま牢で一生を過ごすが良い。ははははは」

 曹昂達の悲鳴を聞きながら董卓の高笑いが響いた。

「やめろやめろやめろ、やめてくれええええええええ‼」

 曹操はそう叫んでいると目の前が白くなった。

「やめろ‼」

 曹操は叫びながら跳び上がった。

 額にはびっしょりと汗をかき、背中は冷や汗でべっとりと濡れていた。

「……夢か」

 曹操は袖で汗を拭い深く息を吸った。

「孟徳殿。大丈夫か?」

 側で寝ていた陳宮が曹操の叫び声を聞いて驚いて目を覚ました。そして、青い顔をしている曹操に声を掛ける。

「あ、ああ、だいじょうぶだ……」

 元気の無い声で返事をする曹操。

 自分でもこれは駄目だと思い気晴らしに何か飲もうと部屋を出ようとしたら。

 シャーッ、シャーッっという金物と金物を擦る音が聞こえて来た。

「これは刃物の研ぐ音?」

「宴に出す料理の包丁を研いでいるのでしょう」

 曹操がその音を聞いて何の音なのか言うと、陳宮が何でそんな音がするのか話し出した。

 それを訊いた曹操はそれなら有り得るかと思っていたが。

『おい。手順は間違えるなよ?』

『分かっている。お前が殺すんだぞ』

 という声が聞こえて来た。

 それを訊いた曹操はギョッとして自分の寝台の傍にある剣を取り鞘から抜いた。

「孟徳殿⁈」

「奴らめ。わたしを殺して賞金を受け取るつもりだなっ」

 先程の夢の影響かナーバスになっている曹操は呂伯奢が自分達を取り押さえるか殺して賞金を得るつもりだと勝手に思い込みだした。

 曹操は陳宮が何か言っているのを耳にも留めないで扉を蹴破って外に躍り出た。

「殺されてなるものかっ」

 曹操はそう言って剣を振りかぶり傍に居た使用人に切り掛かった。


 半時ほどすると、屋敷の庭に血の池が出来ていた。

 庭には男女構わず数十人の死体が転がっていた。

 その中には呂伯奢の姿もあった。皆、どうしてこうなったのか分からないという顔をしていた。

「孟徳殿‼ ……うっ」

 陳宮は曹操に声を掛けた。

 声を掛けられた曹操は全身を血塗れにさせて、持っている剣や袖にも大量の血がべったりと付いていた。

 顏にも赤黒い血が斑点の様に着いていた。

 血の匂いしかしない中で曹操は平然としていた。

「公台殿」

「孟徳殿。どうしてこの様な事を?」

「……此奴等が私を殺そうとしたから」

「何を言っているのだ。使用人達が言っていたのはあれの事だぞっ」

 陳宮が指差した先には木で出来た牢の中に入っている豚が居た。

「使用人達はあの豚を殺す事を話していたのだ。それを貴殿はっ」

 陳宮に指摘されて曹操は血塗られた剣を放して自分の両手を見ながら呆然とする。

「孟徳殿。貴殿はとんでもない事をしでかしたなっ」

「…………」

「ともかく、この者達を弔うのが先であろう。孟徳殿。急いで墓穴を掘ろうぞ」

「……いや、このままにする」

「貴殿の父君の友人の死体を放置するというのか⁈」

「此処で墓穴を掘ったら、この屋敷の近くに住んでいる者達が呂伯奢を殺したのは私だと知り県令に報告するかもしれん。そうなったら、此処まで来た苦労が水の泡だ。此処は盗賊が来た事にして死体はそのままにしておこう」

「貴殿は何を言っているのだっ」

 陳宮は信じられないという顔をしていた。

「ふむ。盗賊に襲われた事にするのであれば、金目の物を取らないとまずいな。ああ、ついでに服を着替えさせてもらうか」

 曹操は家探しを始めた。

 陳宮はあまりの出来事に言葉に出来なかった。


 少しすると、曹操は服を着替えて金目の物を詰め込んだ袋を持って出て来た。

「……孟徳殿」

「何かな。公台殿」

「貴殿はこのような行いをして心が痛まないのか?」

「無い。そもそも、呂伯奢の使用人達が紛らわしい言い方をするからこうなったのだ」

 曹操は即答して厩舎へと向かう。

 その後、陳宮が追い駆ける。

「貴殿は罪無き者を殺したのだぞ。人道に反する事をしたのに、どうして心が痛まないのだ?」

「決まっている。私の為す事が正しいからだ。私が人を騙しても、人が私を騙す事は許さん」

「…………なんという男だ」

 曹操が自信満々に自分の考えを話すので陳宮はそれしか言えなかった。

 曹操は酒と食糧と金目の物を入れた袋を持って呂伯奢の屋敷を後にした。陳宮もその後に続いた。

 そして、二人は廃寺を見つけて其処で少し休む事にした。

 曹操と陳宮はお堂に入り寝酒として水差しに口を付けて交互に酒を飲んだ。

 酒が無くなる頃には曹操は欠伸を掻いて横になった。

 曹操が横になるのを見た陳宮。

(私はとんでもない男を助けたのかもしれん。忠臣だと思ったら自分の事しか考えない野心家であったとは……)

 陳宮は今更ながら曹操を助けた事を後悔しだした。

「我、あやまてり。今からでもその過ちを正すか?」

 そう口に出して陳宮は腰に差している剣の柄を手に掛けた。

 このまま抜けば曹操を殺せると思う陳宮。

「……やめておこう。王允殿の頼みで助けたのだから殺しては王允殿の信用に傷をつけるのも同じだ」

 陳宮は柄から手を離しお堂から出て行く。

 お堂の扉を開けると首だけ振り返る。

「さらばだ。曹操。お前がこの先どの様な道を進むか分からぬが、私はお前と道を共にする事はないだろう」

 陳宮はそう言ってお堂から出て行き馬に跨り何処かに行った。

 陳宮が離れて行き、少しすると曹操は目を覚ました。

「……愚かな。殺したい時に殺せなければ後悔する事になるであろうに」

 酒を飲んでいた曹操であったが実は寝たふりをしていただけであった。

 先程の行いを非難していた陳宮なので何かするのではと思い警戒していた様だ。

「ふん。才は有りそうであったが仕方がない」

 曹操は今度こそ眠りについた。


 翌日。


 目を覚ました曹操は朝食を食べ終えると、故郷の譙県へと向かった。

 数日かかったが、譙県にある曹操の屋敷に辿り着いた。

 使用人達に曹操が帰ってきた事を告げると直ぐに曹嵩が出て来た。

「おお、息子よ。遠路はるばる良く来たな」

 曹嵩はニコニコしながら曹操の肩を叩いた。

「父上。やけに機嫌が良いようですが、何かありましたか?」

 馬鹿に機嫌が良い父に曹操は訊ねた。

「うむ。先程、都から手紙が来てな。曹昂が朝廷に出仕して董卓の信頼を勝ち取った上に孫娘の婿に選ばれた事が書かれていたぞ」

「……はい?」

 曹操は自分の耳を疑った。

 思ってもいない事が聞こえて来て信じられない思いであった。

「驚くのも無理はない。まさか、まだ十四歳のあの子が朝廷に出仕して見事な献策をしていると聞いた時は、私も耳を疑ったぞ」

 曹嵩は笑いながら驚いていた。

(……私の想像の遥か斜め上を行く事をなすとは……)

 あいつ、本当に何をしたんだ?と曹操は思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 急に曹操のキャラが変わったなぁ。 確かに夢とはいえ大事な家族を殺されるのを見たからって真偽の確かめをせずに殺すのか……。時代が時代なだけに現代の考えを当て嵌まるのはアレだが、ここまでに描かれ…
[気になる点] 才能豊かで女好きでそれでも正道を行く曹操のキャラが一気にイカれた自己中心的な狂人成り変わるのに違和感が凄いです 董卓への恐怖で壊れたんですか?
[気になる点] この作品の曹操って才覚に溢れて自身過剰なところはあるにせよ、祖父を敬愛し、息子を可愛がり、正室側室との関係で頭を悩ませる等身大の人間として描かれていると思ってました。 しかし呂伯奢殺害…
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