一縷の望みを賭けて
「孫権が攻め込んで来たか。俺達が荊州に来る前から、何度も攻め込んできているそうだな。劉表には余程恨みがあるようだな」
「無理もありません。孫権の父である孫堅は劉表との戦いで矢に当たり戦死したのですから。それにこれは噂ですが、兄君である孫策様を暗殺する手引きは殿がしたという噂もありますからね」
「孫権はそんな噂を信じたのか?」
「それは分かりません。ですが、こうして攻め込んでくる所をみるとそう思っているのやもしれません」
張飛と向郎が話している間、単福は思考を巡らせていた。
(孫権が侵攻してきたか。これは上手くいけば、今の状況を何とか出来るかも知れん)
単福は劉備に仕える前に劉表の下に赴いた事があった。
理由は明主と言われているので、話を聞いて仕えるかどうか確かめる為であった。
だが、面談し話を聞くと直ぐに猜疑心が強すぎて人の進言を聞き入れる度量が無いと分かり、仕えるに値しない人物と思い単福は仕官するのを止めた。
(今この状況になっているのは呂曠と呂翔の二人を討ち取ったから起きたのかも知れないが。仮に二将を生かして曹操の下に引き渡したとしても、劉表は今と同じ事をしたであろうな)
もし、呂曠と呂翔の二人が討ち取らず二将を生かして曹操の下に返したとしても、今度は実は曹操と手を組んでいると疑うと、容易に予想できた。
であれば、二人を討ち取った方が劉備の功績になると思い、単福は二人を討ち取る策を立てた。
そのお陰で今の状況となったが、其処に孫権が攻め込んで来る事になるとは、流石に予想できなかった。
「・・・・・・張飛将軍。博打はお好きですか?」
「はぁ? 何を言っているんだ。お前」
単福の口から出た言葉が聞いて、張飛は怪訝な顔をしていた。
「もし、わたしの言う事に従って下さるのであれば、この状況を打破する事が可能です」
「なにっ⁉ 本当か?」
「はい。その為には張飛将軍の命を捨てる事になりまする」
単福が真面目な顔をそう述べた。
「そうか。良し」
話を聞いた張飛は覚悟を決めた顔をしていた。
「兄者が義勇軍を立ち上げた時から、兄者の為に死ぬ覚悟は出来ているぞ。それで、何をするつもりなのだ?」
「はい。向郎。お主も手伝ってくれ」
「分かった」
「では、御話しします。まずは」
単福は自分が考えている策を述べた。
話を聞き終えると、張飛は頷いて単福を見た。
「単福。その策で殿を助ける事は出来るのだな?」
「はい。それはお約束します」
「良し。分かった」
張飛は覚悟を決めた顔をした。
単福は張飛の兵達にこの屋敷に留まる様に命じた後、行動した。
同じ頃。
襄陽の大広間では孫権軍の攻撃を受けている黄祖にどれだけの数の援軍を送るか、率いる将は誰にするか話し合っていた。
話は大体決まった所に、驚く報告が齎された。
「なにっ⁉ 張飛がやって来た⁉」
「はい。殿に御話しがあるそうです」
「・・・・・・ともかく、話を聞こう」
劉表は直ぐに張飛を連れて来る様に命じた。
その後、蒯越に腕が立つ兵を数百人用意し、何時でも張飛を捕縛又は殺害できる様にしろと命じた。




