此処は全部
少し時を遡り、劉備が呂曠と呂翔の二人を討ち取った暫くしたある日。
襄陽に居る劉表の下に劉備からの文が届けられていた。
「な、何という事だ・・・・・・」
文に書かれている内容を読み終えるなり、落胆の声をあげる劉表。
(こ、これでは、我らは逆賊になってしまうではないかっ)
文には曹操軍が攻め込んで来る気配を見せたので迎え撃つ事となり、軍を率いていた呂曠と呂翔の二人は討ち取り多くの戦利品を獲得したと書かれていた。
文を届けた使者は壺を二つ持って来ていた。
劉表は深く息を吸い呼吸を整えた後、気を静めて使者を壺を受け取り労い下がらせた。
使者が居なくなると、劉表は周りに家臣しかいないからか遠慮なく怒声をあげた。
「食客の分際で勝手に戦を仕掛けるとは、何事か⁉」
劉表の考えでは、兵を募る事を禁止させたので、劉備は籠城するだろうと思っていた。
曹操軍が攻め込んできた場合は、援軍を送り耐えさせて、冬になれば自然と引き揚げるので、其処からは外交で同盟を結ぶ事にしようと考えていた。
だが、蓋を開けてみれば劉備軍は野戦で曹操軍を壊滅。軍を率いていた呂曠と呂翔を討ち取るという戦果をあげてしまった。
「しかし、文には曹操軍が攻め込んで来る気配があったので迎え撃つ事となったと書かれております。これは、仕方が無かったのではないでしょうか」
蒯越が劉表の怒りを宥める様に述べると、伊籍も同調した。
「その通りです。殿。此処は劉皇叔を責めるのはお門違いです」
「何を言うかっ。貴様ら!」
二人の意見を聞いた蔡瑁が怒鳴った。
「劉備の文など当てになる訳がなかろう。本当は先に攻撃した事への非難を避ける為に、攻め込んできたので迎え撃ったと文に書いているだけかもしれんぞ」
「何を根拠にそう言うのです?」
「そんなの決まっているであろう。曹操軍を壊滅させた際に手に入る戦利品を自分の物にする為だ」
「劉皇叔は何の為に戦利品を手に入れたかったのです?」
「わたしが調べた所、どうやら劉備には借金があるそうです。それも、今の立場ではどうやっても返せない程の大金の」
「「「何と⁉」」」
劉備に借金があるなど初耳であったので、劉表を含めたその場に居る者達全員声を大にして驚いていた。
「それは確かなので?」
「間違いない。何せ、河北から保役が来て、毎月借金の返済の催促をしているとか」
「それは本当なのですか!」
「うむ。新野に居る商人から聞いた確かな話だ。間違いない」
蔡瑁は確認は取っているとばかりに強く述べた。
「すると、そちは劉備めは借金を返す為に、戦利品欲しさに曹操軍を襲ったと言うのか?」
「はい。その通りです」
「殿。今のは蔡瑁殿の推察です。本当かどうかは分かりません」
蔡瑁の意見を信じそうになった劉表に伊籍は事実は分からないと述べた。
そう言われると確かなので劉表は唸りだした。
その日の評議は結局何も決まる事は無かった。
それから数十日後。
劉表の下に朝廷からの文が届けられた。
文には詰問の使者が貴殿の食客に攻撃され殺された。何故にこの様な暴挙を行ったという趣旨が書かれていた。
「これでは、何と返事をしても曹操が攻め込んで来るやもしれんな」
「ですな。殿、どうされますか?」
「・・・・・・そろそろ、節句の時期じゃな」
「はぁ、時期的に重陽ですな」
「その日は宴を行おう。だが、儂は病に罹り行けぬ。主人役は別の者にするべきであろうな」
劉表は顎に手を添えながら述べだした。
蔡瑁は最初、何を言っているのか分からず、話の続きに聞いた。
「その主人役は長男の劉琦だけでは心もとない。同族で劉琦よりも年上でそれなりの地位に就いている者にさせるべきであろうな」
話の続きを聞いて蔡瑁は、劉表が主人役を誰にしたいのかようやく分かった。
「・・・では、劉備殿が宜しいのではないでしょうか?」
「うむ。劉備であれば問題はないな。あ奴は同族で左将軍の職に就いておるからな。では、劉備に任せるとしよう。警備については蒯越と相談し抜かりなくせよ。劉備を途中で帰らせない様にするのだぞ」
「はっ。承知しました。直ぐに劉備に文を送ります」
「うむ。任せた」
蔡瑁は劉表に一礼しその場を離れて行った。
劉表の下を離れた蔡瑁は廊下を歩きながら考えていた。
(殿も悪よな。節句の宴の主人を劉備にして、襄陽に招きその席で暗殺して、此度の騒動の全ての責を劉備に擦り付けるとはな)
死人に口なしとはこの事を言うのだと改めて思う蔡瑁。
そして、蒯越の下に向かい劉表の意向を伝えて計画について話し合った。




