本当に上手くいくのか?
劉備が単福を配下に迎えてから一月が経とうとした頃。
呂曠と呂翔率いる五千の軍勢が穣県に着いた。
城内に入ると、二人は話し合っていた。
「さて、城には着いたが、我らはどうするべきだと思う?」
「どうするもこうするも無い。我らがこの地まで来たのは武功を立てる為に来たのだぞ。であれば戦うしかなかろう。」
「まぁ、待て。新野には劉備が居るのだぞ。此処は相手の戦力を調べるべきだ」
今すぐにでも攻め込みたい呂曠に対して、呂翔はとりあえず、敵の戦力を調べるべきだと述べた。
「ふむ。そうだな。とりあえず、新野がどうしているのか調べて報告するか」
呂曠もその通りだと思い、新野に向けて間者を放った。その数日後。
放った間者達が帰還すると皆同じ報告をした。
「劉備は徴兵していないだと?」
「はっ。調べました所、劉表から徴兵はしない様とお達しが来たようです」
「そうか。それで、劉備はどの程度の兵を持っている?」
「凡そ二千です」
「報告ご苦労。下がれ」
間者を労い下がらせると、呂曠は呂翔に話しかけた。
「これは好機だ。新野に攻め込み劉備の首を獲る事が出来るぞっ」
「我が軍は五千。劉備軍は二千か。確かに十分に勝機はあるが。戦を仕掛けるにしても口実が必要ではないか?」
「なに、そんなもの。劉備軍が徴兵して戦をする気配があるので、先んじて攻撃する事となったと報告すれば良い」
呂翔の疑問に呂曠は簡単とばかりに述べた。
「それならば大丈夫か。良し、直ぐに出陣の準備をっ」
呂翔の賛同を得たので、呂曠は出陣の準備を始めた。
呂曠と呂翔が出陣の準備を進めている頃。
新野に駐屯している劉備達も軍議を行っていた。
「敵軍は五千。率いるは呂曠と呂翔の二人だそうです」
「我が軍の二倍以上か。これは厳しいな」
「此処は定石通り籠城するしかないな」
家臣達が自分の考えを述べていると、張飛が口を開いた。
「しかし、呂の姓を名乗っている奴は、碌な奴が居ないのか。主を三度も変える者がまた出て来たぞ」
張飛が馬鹿にするというよりも呆れたように言うが、他の者達はそんな事はどうでも良いと言わんばかりに、現状をどうするか考えていた。
皆の反応が無いので、張飛は単福を見た。
「なぁ、軍師殿。貴殿はどう思う?」
張飛は訊ねつつも、あまり返事を期待していない顔をしていた。
「ははは、張飛殿は呂の姓を持っている者に何かしらの恨みがあるようですね」
単福は笑いながら返事をすると、張飛は渋い顔をした。
「おほん。それで、軍師殿。我らはどう戦うのだ? 籠城するのか?」
「いえ、援軍は期待できませんので、それは難しいかと。ですので、此処は野戦にて敵を打ち破りましょうぞ」
単福が野戦で敵を倒すと言うのを聞いて、張飛は機嫌よさそうに声をあげた。
「おおお、それは良い。血が滾るぞっ」
張飛がやる気に満ちている所に、麋竺が単福に訊ねた。
「しかし、敵は我が軍の二倍。それに加えて敵将の呂曠と呂翔は勇猛な猛将と聞いております。張飛殿だけでは厳しいのでは?」
「数で戦が決するものではありません。兵の数が少ないのであれば、少ないなりの戦い方をするだけの事です」
単福はそう言って衛兵に南陽郡の地図を持って来させる。
衛兵が持って来させた地図を床に広げて、其処に袖の中に入れていた碁石を置いて行く
「我らが駐屯する新野と敵が駐屯する穣県の間には河がございます。船で河を渡り切った後、進軍する又は陣形を整える敵に廖化将軍率いる先鋒五百で攻撃します」
黒い碁石が敵軍を想定している様で、穣県と書かれた所に二つ置いて新野の方に動かす。
そして、白い碁石が味方を示している様で、黒い碁石の前に一つ置いた。
「ある程度戦った所で廖化将軍は後方に退きます。敵は威勢を買って追撃してくるでしょう。其処に伏兵で隠れている張飛将軍が後続を、公孫続将軍が先陣を横合いから攻撃します。其処に廖化将軍は殿率いる本隊と合流して攻撃に加わって下され。さすれば、我が軍が勝利致します」
単福は白い碁石を新しく出しながら話を続けた。
「これと言って、新しい策ではありませんな」
「誘引して挟撃する。敵は掛かりますかな?」
単福の献策を聞いても、皆そう上手くいくかと思っていた。
紙上談兵という言葉がある。意味は理屈ばかりの議論で、実行が不可能であったり実際の役に立たないという意味だ。
単福は戦の指揮を執った事が無いと言っていたので、皆は余計にそう思うのであった。
「・・・良し。皆単福の策通りにせよ」
劉備が策を聞くなり採用した。
主君の命令という事で、皆不安に思いながら行動した。




