表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/957

これは流石に想像すらしなかった

 朝廷から曹昂が呼び出されたという事であったが、流石に事前に朝廷に呼び出される事は考えても居なかったので朝廷に着る用の服など用意していなかった。

 曹昂はどうしようかと考えていると、使者は綺麗な服であれば問題ないと言うので貂蝉と卞夫人は急いで服を用意し、貂蝉はこれでもかと言うぐらいに念入りに曹昂の身支度を整える。

「~~~」

 鼻歌を歌いながら曹昂の身支度を整える貂蝉とは反対に曹昂は嫌そうな顔をしていた。

(あの時は、父上が暗殺をしようとしたと思っていなかったという反応だったけど。今日になって腑に落ちないから呼び出して問い詰めるとか? もしくは僕を人質にして父上を呼び出す事をするつもりか?)

 相手の考えが読めないので悪い方へと考えてしまう曹昂。

 やがて、服が整うと使者が乗って来た馬車に乗り卞蓮達に見送られて宮殿へと向かった。


 洛陽宮の外廷。

 其処には文武百官が勢揃いして列を作っていた。

 その列に挟まれる様に曹昂が居た。

「あの子供は何だ?」

「董将軍が呼び出した子供と聞いております」

「何でもあの曹操の息子だとか」

「曹操の。しかし、何故ここに呼び出されるのだ?」

「噂では董将軍の怒りに触れて袁紹殿の様に何処かの郡の太守にするという名目で追い出されたとか」

 百官達が好き勝手に言っている中、王允だけは気遣うべきかそれとも問い質すべきか迷っていた。

 曹操に言われて家宝の七星剣を与えたが暗殺に成功したのか失敗したのか、はたまた剣を董卓に与える為に口先三寸で取られたのか分からないからだ。

 とりあえず、静観しようと思いながら董卓が来るのを待った。

 ちなみに献帝は既に玉座に座っている。

 臣下の身分である董卓が皇帝よりも遅く来る事に誰も咎めないところから、これはだいぶ董卓の影響を受けているなと曹昂は思った。

「董卓将軍の御成りです!」

 宮殿の入り口に居る宦官が董卓が来た事を大声で告げた。

 その声を聞いて百官達は口を閉ざして頭を下げた。献帝は玉座から立ち上がっていた。

 曹昂はそれを見て平伏する事にした。

 そうして待っていると、後ろからドタドタと足音が聞こえてきた。

 恐らくその音を出しているのは董卓だろうと思いながら、足音は段々と近付いて行き曹昂の横を通り過ぎて行った。

 足音はその後も続いて、玉座への階段を上がりドサッという何かの落ちる音が聞こえた。

「皆の者。面を上げよ」

 董卓の声が玉座の方から聞こえて来た。

 その声に従い百官達は顔を上げる。

 曹昂は董卓が言った「皆の者」に自分が入っているのかどうか分からないので、とりあえず平伏する事にした。

「うん? 曹昂。何故、面を上げぬ?」

 曹昂が顔を上げていない事に不審に思い董卓が訊ねたので、其処で曹昂は顔を上げる。

「失礼いたしました。何分、朝廷の作法に疎いものでして」

 そう答えつつ早く帰りたいと思う曹昂。

 だが、呼び出された理由が分からない以上、何の為に呼び出されたのか聞かないといけなかった。

 顔を上げた曹昂の目に入ったのは、官服を着た董卓が献帝の隣に椅子を置いて座っている姿であった。

(うは~、あんなに堂々とした態度で座っていると自分は皇帝と同じ位に付いていると言っているみたいだな)

 董卓を見るなりそう思う曹昂。

「急な呼び出しをして済まぬな」

「いえ、大丈夫です。お気になさらずに」

 董卓が話しかけて来たので曹昂は答える。内心、此処に来る予定は無かったのにと思いながら。

「時に曹昂よ。お主に聞きたい事があるのだが?」

「何でしょうか?」

「昨日、お主が献上した物の事だが」

 董卓は何とも言えない顔をしていた。

 その顔を見た曹昂は内心で気に入らなかったのか?と思った。

 献上したのは『九醞春酒法』で作られた『諸白』が入った樽を五十。蜂蜜が入った樽を五十であった。

 お詫びという事なので金銀よりかは消費される物が良いと思い酒にしたのだが。此処は金銀財宝の方が良かったかと思った。

「何かございましたか? もしや、酒が気に入らなかったのでしょうか?」

「あの酒か。確かに美味かった」

 董卓の口から酒と言う単語が出たので、王允を含めた数人の者達が陶酔した顔をしていた。

 その者達は王允の誕生日の宴の際、曹操が持って来た酒を飲んだからだ。

「普段、飲んでいる酒に比べると遥かに美味かったが。問題は其処では無い」

「と言いますと?」

 曹昂は董卓が何を聞きたいのか分からず首を傾げた。

「……献上した物を運んで来た馬車なのだが」

「はい。それが何か?」

「……車輪が四輪もあるが」

「……ああっ」

 それを訊いた曹昂は董卓が何とも言えない顔をするのも無理はないなと思った。

 この時代の車は二輪が殆どだ。天子が乗る馬車も同じだ。

(しまった。二輪よりも四輪の方が安定感があるから作らせたけど、この時代の人達からしたら新技術みたいな物なんだよな)

 道理で将軍府に行く途中の道に居た人達が珍品を見るかのような目で見てたのだと今更ながら察した曹昂。

「ええっと、あれはお気に召しましたか? 陳留に住んでいる衛大人がくれた物なのです」

「車輪が四つもあるとは珍しいな」

「それで二輪より安定してます。動く事で生まれる振動は特殊な機器で和らげる事が出来ますから、長時間乗っても苦にならないと思います」

「うむ。その通りだ。試しに乗ってみたが普段乗っている馬車に比べると揺れが軽減されているな」

「でしょう。それにそれぞれの車輪に車軸を付けているので方向転換も簡単に出来ます」

「うん? ちょっと待て。普通一本の車軸に車輪を付けるのではないのか?」

「それだと車体の重さとかで折れる事があります。ですので、四つ車輪に四つの車軸を付けたのです。こうする事で車体の重みで車軸が折れる事は無くなります」

 これは独立懸架(どくりつけんか)と言われる自動車等のサスペンション形式のひとつを応用した物だ。とは言え技術的に大量生産できる程ではないので、今はオーダーメイドにして貰っている。

「成程。これは素晴らしいな。ところで、曹昂よ」

「はい」

「これはお主が考えたのか?」

 そう言われて曹昂は身体を震わせた。

「先程からスラスラと説明できるからな。どう見てもお主が考えたとしか思えぬのだが」

 董卓の指摘に王允は内心で同意した。

 前に『帝虎』と『竜皇』を作ったのだから、それが出来てもおかしくないと思った。

「あ、ああ、これは」

「まぁ、人から聞いたかどうかどうでも良い。お主は馬車の振動を軽減させる方法を知っているのだろう」

「は、はい。それなりに」

「ならば」

 董卓は手を掲げた。

 すると、何処からか宦官がやって来た。その手には布を持っていた。

 その宦官は曹昂の前に布を置いた

「これは?」

「絹だ。これで官服を作るが良い」

「えっ⁉」

 曹昂は耳を疑った。

「お主の知識は素晴らしい。儂の傍で知識を使うが良い」

「ええええっ⁉」

 曹昂は思わず驚きの声を上げた。

 だが、直ぐに此処は騒いではいけないと気付き咳払いをして誤魔化す。

「恐れながら将軍。私はまだ十四歳の子供にございます。その様な者が御側に控えては御迷惑になるかと」

 董卓に仕えたら何と言われるか分からないので体よく断ろうとする曹昂。

「儂に仕えぬと言うのか?」

 ギラリと目を光らせる董卓。

「将軍。この曹昂はまだ子供です。子供を仕えさせるなど」

「黙れ! いらざる事を囀るのであれば、その舌を引っこ抜くぞ!」

 臣下の一人が董卓を宥めようとしたが董卓の怒声を聞いて身体を震わせて頭を下げた。

 それを見て曹昂は不味いと思った。

(困ったな。誰だったか忘れたけど、仕えるのを嫌がった人を脅して無理矢理仕えさせたという話もある人だからな。断ったら、何をするか分からないな)

 下手したら祖父に兵を送って洛陽まで連れて来るとかしそうであった。

 そうなると洛陽から逃げ出す事が難しくなるだろう。

 そう考えた曹昂は此処は腹を括るしかないと決めた。

「分かりました。鈍智と鈍才しか持っていませんが。お仕えさせてもらいます」

 曹昂は頭を下げた。

「はっははは、そうか。では頼んだぞ」

 董卓は上機嫌で笑いだした。

 逆に曹昂は青い顔をしていた。

 心ある臣下は改めて朝廷が董卓の思うがままだと思い知らされて密かに涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オリジナル展開いいですねー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ