次の目標は
曹昂経由で鄴にいる曹操の下に文が届けられた。
「ふむ。荀彧からの文か・・・」
届けられた文を広げ、中を改めた。
其処に掛かれていたのは人の名前であった。
仲長統公理。
盧毓子家。
陳化元耀。
陳矯季弼。
張承公先。
張範公儀。
高柔文恵。
顧邵孝則。
陸遜伯言。
名を記している者達を朝廷に推挙いたしたいと思いますと書かれていた。
荀彧の文の中に曹昂が書いたと思われる紙も入っていた。
父上の配下にするも、朝廷に仕えさせて荀彧先生の補佐をさせるのもお好きにと書かれていた。
「生意気な。自分の配下の人材は十分だと言いたいのか」
愚痴りつつも、実際の所、十分な位にいると思っていた。
曹操は暫し考えた後、とりあえず荀彧に任せる事にして、才に見合った官位を与える様にと文を送る事にした。
人を遣わせると、ある人物を呼ぶ様に命じた。
暫くすると、曹操の前に呼び出した人物が来た。
「丞相。お呼びとの事で、甘寧参りました」
曹操の前に来ると一礼する甘寧。
「おお、来たか。早速だが。お主に聞きたい事がある」
「何でしょうか?」
甘寧は何の用で呼び出されたのか分からなかったが、部屋には曹操以外自分しか居ないので、何かする様にと命じられるのだろうと思っていた。そして、その予想は当たっていた。
「我らは河北を手に入れた。次は南だが、南を攻めるとしたら何が必要だ?」
「船ですね」
曹操の問いかけに甘寧は即答えた。
南船北馬という言葉がある様に、南は移動する際船を使う事が多い。
荊州と揚州は長江とその支流が多数ある為、どうしても馬で移動するよりも船での移動の方が良い。
益州も山に囲まれているが、河は流れているので、船があっても問題なかった。
甘寧の答えを聞いて満足そうに頷いていた。
「であろうな。ならば、船を操る軍即ち水軍が必要だ。お主に頼みたいのは、お主を水軍の都督にするから、我が軍の水軍の調練を任せる」
「有り難き幸せ!」
甘寧は水軍の都督になれた事に頭を下げて感謝を述べた。
「ああ、それと飛鳳の運用もお前に任せる。二つの軍の指揮は大変かも知れんが。お主であれば大丈夫であろう」
「はっ。この甘寧興覇。与えられた責務を必ずや全う致します。調練の場所は何処に致しますか?」
「・・・其処はお主に一任する。誰が相手であろうと負けぬ水軍を作るが良い」
調練の場所を決めようとしたが、水軍に関しては専門外なので、此処は甘寧に任せる事にした。
「はっ。承知いたしました。では、これで失礼致します」
甘寧は一礼した後、その場を後にした。
曹操は一人になると、側にある卓に広げられている国の地図を見ていた。
地図に記されている荊州を見た。
「この地を取れば、揚州も益州も手に入ったも同然。さすれば、天下は我が手中よ」
曹操は卓に置かれている短剣を荊州と書かれている所に刺した。
同じ頃。
陳留にある一室。
室内には曹昂の他に司馬懿、龐統、法正、劉巴、趙儼、虞翻が居た。
「最早、我らに敵対する勢力と言えるのは揚州の孫権と荊州の劉表のみ」
「ですが。孫権は先の戦いで多数の兵を失った上に、韓綜が兵と共に降伏した為、我らと戦うなど難しいでしょう」
「残るは荊州の劉表でしょうが。水軍を編制し、全軍で攻めれば負ける事は無いでしょうな」
司馬懿と劉巴と趙儼の三人は何処の勢力と戦っても負ける事は無いと思いに満ち溢れながら話していた。
「それは早計というものでしょう。荊州とて名将名士は多くおりますので、そうたやすく落とせないでしょう」
「確かに。益州も州牧の劉璋は暗愚ですが、配下の者達は忠義に篤い者達が多く兵も漢中の天師教だけでは無く近隣の蛮族と戦っている為、精強ですので、力づくで落とすのはそう簡単ではありませんよ」
荊州に居た龐統と益州に居た法正はそう簡単に行く事は無いと述べた。
「その通りだ。孫権とて、先の戦で負けたとはいえ直ぐに勢力の立て直しを図るだろう。あの者は戦には弱いが、政では我が殿にも負けない手腕を持っている。侮るなかれ」
孫権に仕えていた虞翻は侮ってはならないと述べた。
それでも劉巴は何か言おうとしたが、曹昂が口を開いた。
「確かに皆の言う通りだ。だが、皆は一つ見落としている事があるぞ」
曹昂は立て掛けられている地図のある所を指差した。
「我らは南征を行う際、どうしても問題にするべき所があるだろう」
指差した所、それは涼州であった。